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オリエンタル・ユニオン通称OU

「オリエント・ユニオン、通称OUが黄金による輸入とメタンハイドレート掘削を停止するよう求めてきた」


 放課後。

 総務省の部長室で、早百合部長は開口一番そう言った。

 桐葉と美稲、それから真理愛の間に立つ俺は、一気に肩が重くなってきた。


「やれやれ、ついに来ましたか……国連経由じゃないのがせめてもの救いですけどね。それで、OUって確かPAU(東南アジア連合)みたいなものでしたっけ?」


 椅子の上で腕を組みながら、早百合部長は机越しに小さく首肯した。


「そうだな。複数のアジア国家からなるアジア最大の人口、面積、GDPを持つ国だ。EUやPAUとの違いは、既に各国の併合が進み、各国にある程度の自治は認めているが、基本的にOUでひとつの国として機能している点だ」


 そこまで説明すると、早百合部長は顔をしかめる。


「アジアの平和と発展の為、全アジア国家の融合を目指してはいるが、リーダー国による侵略であることは明白。そのため、東南アジア各国が融合を目指すPAUの存在を疎ましく思っているヤクザ国家だ」

「そっか、東南アジアが融合して巨大国家になっちまったら、OUの一部にしにくいですよね」

「ハニーの言う通りだよ。仮にOUとPAUが併合しても、OUのリーダー国が覇権を獲れるかは怪しいね」


 桐葉の説明に、美稲がはっとした。


「なるほど、それでPAUに金塊を流すのをやめるよう求めてきているんですね?」

「貴君らの言う通りだ。OUが目指すのは完全なるアジア征服。にも(かかわ)らず、日本が貿易で大量の金塊を流したことで東南アジアは力をつけた。いまや東南アジアはPAUとしてまとまり、イギリス、フランス、ドイツにも並ぶ強国となりつつある。これでは付け入る隙がない」

「OUの狙いは日本との貿易を止めてPAU経済の弱体化による崩壊、そして各国の取り込みってことですか?」

「うむ。表向きは、金相場が変わること、海底環境の破壊を理由にしてはいるが、ライバルであるPAUと日本潰しなのは明白だ」

「潰すまでもなく経済破綻した国に容赦ないですね……」


 俺がげんなりと肩を落とすと、早百合部長は机に両肘をついてから、ニヒルに笑った。


「経済破綻から復活するのは確実だからな。向こうも必死なのだろうさ。日本経済が破綻したことで日本円の価値は十分の一に落ちたと言ったが、貴君らのおかげで三分の一にまで回復した。今なら、1ドルを360円で交換してくれるそうだ。昭和の頃と同じぐらいには回復したな」

「三か月で日本円の価値が三倍になったんですか?」


 衝撃の事実に、俺は軽く声が上ずってしまった。


「うむ。最初は国内でも信頼されていなかった超能力による国家再生プロジェクトだが、最近では海外でも信用されてきた証拠だ。加えて、異能部は異能局に格上げになった。私も明日から局長に昇進だ。これも貴君らのおかげだな」

「あ、おめでとうございます」


 俺が軽く頭を下げると、早百合部長は上機嫌に目元を緩めた。


「おめでとうも何も、貴君らのお陰だと言っているだろう。特別に、早百合局長ではなく、対等に早百合ちゃんと呼んでくれてもいいぞ」

「いえ、失礼なので早百合局長で」


 早百合局長の視線と眉尻が落ちた。


 ――え!? まさか早百合ちゃんて呼ばれたかったの!?


「でも早百合局長、今後はOUがボクらの活動の邪魔をしてくるってことですよね? 何か対抗策はあるんですか?」

「うむ、それなのだが」


 ――心なしか声の覇気が小さい? 早百合ちゃんて呼んであげた方がいいのかな?


 俺が逡巡する間に、早百合局長は真理愛に水を向けた。


「確認だが、OUの企みを念写することは可能か?」

「残念ですがそれは無理です。情報が少ないですし、遠く外国の、まして具体性を欠いた情報のこととなりますと……」


 ――流石に、そこまで都合よくいかないよな。


 前回、日銀総裁の件があったからもしかしたらと思ったが、世の中そう甘くはない。


「こんなにボヤけてしまいます」


 と言いながら、真理愛の展開した無数のMR画面には、なにやら機密文書らしきものがびっしりと表示されている。


 解像度はかなり粗いが、頑張れば読めそうな気もする。

 美稲も早百合局長も、そして桐葉でさえ、顔が愕然と固まっている。

 基本が余裕顔の三人だけに、真理愛の恐ろしさがよくわかる。


「真理愛。お前まじで世界を牛耳れるぞ」

「何をおっしゃいますハニーさん。私にそんな力はありません」


 無感動な声で、だけど曇りなき自信に溢れた瞳で、真理愛は胸を張って断言した。

 ある意味、人格と能力がベストマッチ過ぎると思う。

 神様ナイス。


「では、このデータは画像処理班に回しておこう。貴君らは仕事に入っていいぞ」

「よし、じゃあテレポートするぞ」


 美稲と真理愛が頷いてから、俺は二人をテレポートさせた。


「じゃあハニー、ボクらは講堂に行こうか」

「ああ、でもその前に」


 言って、俺はくるりと早百合局長へと振り返った。


「早百合局長。OUに限らず、現状、海外からの圧力で美稲の身柄が危険になる可能性はありますか?」


 美稲は、物質を原子レベルで分解再構築できる能力、【リビルディング】で海水から無制限に貴金属やレアメタルを生成できる。


 このことは極秘事項であり、表向き、美稲は都市鉱山、つまりはゴミの山から金属を生成しているということになっている。


 だが、ゴミから金属資源だけを取り出せるだけでも、値千金だ。

 外国勢力が、美稲の身柄引き渡しを要求してこないとも限らない。


 案の定、早百合局長は声をただして答えた。

「貴君は、こういうことには聡いな」

「じゃあ、やっぱり?」

「可能性はゼロではない。政府次第だ。内峰美稲が我が国の国民でありその人権は最大限尊重される。だが超法規的措置もありうる。かつては超法規的措置として、無実の民が捕まることや罪人が釈放されることもあった」


 そう言われると、伊集院の言葉を意識せざるをえなかった。

 一人で国益を左右するユニークホルダー四天王に真理愛を加えた五大超能力者として有名になれば、政治家もそう簡単に手は出せないだろう。

 交渉カードは、一枚でも多い方がいい。


「だが、我々も座して殺られる時を待ってはいない。異能部の急成長もそれが原因だ。異能局は年内に異能庁、そして異能省に格上げされる。巨大組織にして権力を持たせ、超能力者らを国益のために保護できる仕組みを作る予定だ」


 その説明に、桐葉は口元に指を添えて、鋭い表情になった。


「なるほど、野党への牽制というわけですね? なら、与党はボクらの味方だと思っていいんですか?」

「一応はな。しかし与党も一枚岩ではない。我々を支持しているのは、現総理とその派閥メンバーだな」

「へぇ~、お友達人事で日本を滅ぼしかけた総理大臣にしては見る目がありますね」

「いや、『内峰美稲と奥井ハニー育雄を握っておけば総理の椅子は安泰ですよ』と耳打ちしたら承諾しただけだ」

「だと思いましたよ」


 肩をすくめて、桐葉はぺろりと舌を出した。


 ――保身の塊め。


「あれ? ていうか早百合局長、まさかとは思いますが、俺のこと外でも奥井ハニー育雄って名前で紹介しているんですか?」

「…………」

「…………」

 長い沈黙の後、早百合局長は厳かな表情でおもむろに席を立つと、俺の横を通り過ぎ、部屋を出て行った。

 直後、廊下を全力疾走するヒールの音が聞こえてきた。

「逃げたぁああああああああああああ!?」

 俺が劇的に崩れ落ちると、桐葉がぽんと肩を叩いてきた。

「まっ、元気だしなよハニー。ハニーのハニーは芸名みたいなものなんだから」

「慰めかたぁ!」

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