スクール下克上・ボッチが政府に呼び出されたら最高の彼女ができました
その日の夜。
俺と桐葉の部屋で、軽い打ち上げが終わってから、俺はみんなを家にテレポートさせた。
打ち上げの片づけは、みんなが済ませてから帰ってくれたので、俺らがやることは特になかった。
俺は、リビングのソファに座って、一息ついた。
さっきまで、みんなと散々俺の特進コース入りを祝っていた。
なのに、みんなと同じ特進コースに入れたことに、あらためて安堵の息が漏れた。
すると、桐葉が二人分のティーカップを両手に持って、キッチンから出てきた。
中身は、いつもの、蜂蜜入りの紅茶だろう。
「三か月間、お疲れさまでした」
桐葉は俺のすぐ隣に座ると、肩を寄せながら、ティーカップを手渡してくれた。
「お、おう……」
先生からも、みんなからも言われた台詞だけど、桐葉に言われると、一味違った。
やっぱり、好きな女の子の言葉には、特別な力がある。
「ハニー、ボクらのために頑張って勉強してくれたんだよね?」
「まぁな。せっかく仲良くなったのに、クラスが別なんて寂しいし。そりゃ、放課後は一緒にいられるけど、学校の行事とかも一緒がいいだろ?」
「嬉しいな、いっぱいありがとう♪」
「でもごめんな、一学期の間、何もできなくて」
前に、早百合部長が言っていたことだ。
高校生活は三年間あるけど、高校一年生は一生に一度しかない。
一生に一度しかない高校一年生の春を、俺は勉強だけで消化してしまった。
そのことが、少し寂しい。
「何言ってるのハニー?」
でも、桐葉はあっけらからんと、笑いながら言った。
「デートなんて、大人になってからでもできるじゃない。でも、勉強は今しかできないでしょ? 大人になってから微分積分勉強する機会なんてないしさ。毎日みんなと一緒に勉強会したのだって、青春だと思うよ」
桐葉の包容力に、俺は惚れ直してしまう。
俺の知る女子、恋人というものは、デートなどを疎かにすると、不機嫌になって責めてくるものだ。
けれど、桐葉は家での勉強会を、青春だと言って肯定してくれた。
いい子だな、いい女だな、そんな感想と感謝が、胸に溢れてくる。
「だけど、夏休みはいっぱい遊ぼうね、ハニー」
さっきまでは包容力ある雰囲気だったのに、今度は一転、甘えるような笑みで、密着してきた。
豊かな胸の感触と、耳の奥に響く甘い声音に、顔が熱くなる。
「あ、あぁ……夏休みは、恋人っぽいこと、しような」
上手いことを何も言えず、陳腐な言葉しか返せなくて恥ずかしかった。
すると、桐葉は静かに言った。
「ねぇハニー……ボクに会ってくれて、ありがとう」
その言葉で、心の中が満たされているのがわかる。
――それは俺のセリフだ。
超能力に目覚める前の俺は、ただの寂しいボッチだった。
幼い頃から独りで、馬鹿にされて、だけど桐葉は俺の全てを受け入れて肯定してくれた。
俺を愛してくれた。
面と向かって好きだと言ってくれる彼女の好意に、俺はいつだって幸せを実感できた。だから、その感謝の気持ちを、言葉にしたくなった。
「俺もだよ桐葉。俺に会ってくれて、ありがとうな」
俺らは見つめ合うと、自然と顔を寄せ合い、キスをした。
桐葉とのファーストキスは温かくて、やわらかくて、甘い、ハチミツの味がする、優しいキスだった。




