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この画像をカッコよくしてくれ

 あれから、早百合部長はすぐ総理大臣と財務大臣、外務大臣にかけあった。


 そして、東南アジア連合通貨、アージの発行権を持つPAU中央銀行と協議を始めた。


 設立したばかりのPAUからすれば、活動資金はいくらあっても足りない。


 自分らがいくらでも刷れる、信用だけで成り立っている紙幣という名の紙切れと、国際的に絶対的な価値を持つ黄金を交換したいと言われれば、首を縦に振らないわけがない。


 まさに渡りに船とばかりに、PAUは多額のアージ紙幣との交換を受諾した。


 このことはニュースで大々的に取り上げられ、国内外で報道された。


 国内で使用する工業用の金は、金鉱山から俺のアポートで産出したものを使って対応する。


 その代わり、都市鉱山に眠る1000兆円分の金はPAU中央銀行でアージと両替してもらい、それを国債返済に充てると発表。


 桐葉と美稲の狙い通り、ここまでされて、国債を海外に売るとは、流石の金田総裁も言えなかった。


 金田総裁は、ニュースで国債の海外売却を延期すると正式に宣言した。

延期とは言うも、事実上の中止だ。


 そのことは、金田総裁の憤死せんばかりの表情を見れば、誰でもわかる。


 顔を真っ赤にして歯ぎしりをしながらカメラのレンズを睨みつける総裁の顔はネットの海を漂い、今ではおもしろ画像素材として活躍している。


 【この画像をカッコよくしてくれ】というスレッドや【ボケて】では、様々な加工がされ、多くの秀逸な作品群が生まれ、総裁はある意味人気者になった。


 俺も随分と笑わせてもらい、勉強の合間のいい息抜きになっている。


 馬鹿とハサミは使いよう、ということわざがあるけれど、金田総裁のような人間でも、人の役に立てるらしい。




 そして6月15日の金曜日。


 信じられないことに、俺らは予定通り、半月で中学1年生の授業範囲を全て終わらせた。


 中学になってからいきなり授業がわからなくなったトラウマはあったものの、それは杞憂だった。


 古文は英語と同じ、方言だと思いながら勉強をすれば、文法が日本語と同じ分、むしろ簡単ですらあった。


 世界史は日本史と同じく有史から順に習えば問題なかった。


 地理は、日本史の勉強がそのまま役立っている。


 資料では、昔の地名に、現在のどこそこであると地図付きで解説していた。


 日本史の知識があれば、地理を勉強しているときに、あれが起こった場所か、とすぐ理解できた。


 逆に、地理を勉強していると、日本史の勉強で、今の何県の話か、とすぐに理解できた。


 地理と歴史、違う教科が相互に理解を深め合っているのは、なんだか面白かった。


 公民は、この2か月、散々みんなと一緒に政治、経済、社会問題と向き合っていたせいか、それほど抵抗感は無かった。


 むしろ、桐葉に恥ずかしくないよう、そしてもっと役立てるよう、積極的に勉強しようという気になった。

 



 帰りのホームルームで、担任の先生が、凛とした口調で語り掛けてきた。


「それでは皆さん。明日からは1か月かけて、中学2年生の授業範囲に入ります。それが終わったら、中間テストです。その成績を以って、特進コース、進学コース、総合コースの三つのコース別にクラスを振り分けます。最後まで気を抜かないでくださいね」


 そう締めくくって、帰りのホームルームは終了した。


   ◆


 その日の仕事終わり。


 俺はいつものように、各地で働いている能力者たちを、グループごとに総務省へと連れ帰った。


 金田総裁の野望は打ち砕いたし、勉強は順調そのもの。


 俺は、心身ともに充実していた。


「よし、じゃあ退勤報告したらまた俺の家で勉強会をするか」

「その前に、みんなで夕食ね」

「ハニー、今日は何食べたい?」


 美稲と桐葉が優しく笑うと、詩冴が割り込んできた。


「おやつは蜂蜜たっぷりのハニートーストがいいっす♪」

「いや、あんたに聞いていないから」


 茉美が軽くツッコミを入れて、俺は麻弥と真理愛、舞恋の警察班に話を振った。


「昨日は鹿肉だったから今日は魚の気分なんだけど、三人はどうだ?」

「この時期ですと、スズキとキスが旬ですね」

「鈴木さんとキスなのですか?」

 麻弥が可愛い。


「舞恋は?」


 目の前で、舞恋の膝が落ちた。


「舞恋!」


 すかさず前に出て、彼女の細い体を抱き止めた。


 すると、舞恋は青い顔ながらも、すぐに返事をくれた。


「あっ、ごめんね。待って、いま、立つから。だいじょうぶだから」


 口ではそう言いつつも、俺の腕にかかる重みは、少しも変わらない。舞恋はぐったりと、俺に身を預けてくる。


「大丈夫って、あんた顔色悪いわよ!」


 医療班でヒーラーの茉美が、心配そうな顔で駆け寄ってくる。


 茉美も俺と一緒に舞恋を支えながら、ヒーリングを使用した。


 みんなも、舞恋を中心に集まり、不安げな表情を浮かべた。


「みんなありがとう。でも、本当に大丈夫だから。すこし眠れば治るから」


 俺らに心配をかけさせまいと、青い顔で、健気に立とうとする姿に、俺はのっぴきならないものを感じた。


「茉美」


 俺の呼びかけに、茉美は眉を垂らして首を横に振った。


「ヒーリングは効いているはずよ。でも、体調が治らない。ケガや肉体的疲れじゃないわ」

「ハニー、いったんボクの部屋に運んで。ベッドに寝かせよう」

「わかった」


 俺はみんなと一緒に、官舎の部屋にテレポートした。


   ◆


 舞恋をベッドに寝かせ、看病を麻弥に任せると、俺らはリビングで話し合った。


「茉美、ヒーリングは効いていたんだよな?」

「ええ、間違いないわ」

「なら、麻弥の時みたいに精神的なことが原因か?」

「真理愛ちゃん、念写するっす」


 簡単に言う詩冴を、俺はたしなめた。


「そうやってすぐ他人の情報を知ろうとするな。人には知られたくない事だったらどうするんだ?」

「真理愛さん、何か持病とか、聞いたことある?」


 美稲の問いかけに、真理愛は首を横に振った。


「いいえ。ですが、最近の舞恋さんは、仕事にとても熱心でした。その疲れでしょうか?」

「サイコメトリーって、使うと消耗するのか? 俺のテレポートは、最大移動距離と最大質量に制限はあるけど、回数に制限はないぞ?」


 超能力には色々なタイプがある。


 無制限に使える能力、消耗するが疲労に耐えながら使える能力、チケットを消費するように回数が決まっているもの。


 でも、サイコメトリーが体力や精神力を消耗するとは、聞いたことがない。


「シサエのオペレーションは効果範囲と持続時間には限界ありますけど、使用回数は無制限っす」

「ボクのホーネットもほぼ無制限だけど、ハチミツやローヤルゼリーを一秒間に作れる量が少ないから、一日の生産量には限界があるかな」


 真理愛は、少し考える素振りを見せてから、首を横に振った。


「いいえ。舞恋さんの能力に、使用制限はないはずです。そもそも私の念写能力、麻弥さんの探知能力、舞恋さんのサイコメトリーなど、警察班に属する方の能力は、全員無制限に能力を使えるタイプです」

「なら、どうしてかしら」


 美稲と一緒に俺らが頭を悩ませると、茉美が、ふと顔を上げた。


「待って。そういえばさ、舞恋のサイコメトリーって、触れたモノの情報を読み取るのよね? それって、どんな風に?」

「どんな風に、とは?」


 真理愛が尋ね返すと、茉美は前のめりになって、問い直した。


「情報を得るときの感覚よ。文章を読む感じなのか、映像を見る感じなのか、それとも――」

「みんな、舞恋が目を覚ましたのです」


 茉美の言葉を遮るようにドアが開いて、麻弥が顔を出した。


 茉美はすぐに立ち上がって、俺らもそれに続く形で、桐葉の部屋に駆け込んだ。


「大丈夫か舞恋?」


 ベッドの上で、舞恋は疲れた顔ながらも、目を開けて、俺らの方を見てくれた。


「うん、だいじょうぶだよ。心配させちゃってごめんね」


 無理のある笑みに、俺はぎゅっと、胸を締め付けられるような気分だった。


 俺はベッドの前で膝を折り、舞恋に尋ねた。


「舞恋、何があったんだ。もしも、俺らに話せることなら、話してくれないか?」

「それは……」


 最初、舞恋は戸惑うように視線を伏せた。


 けれど、麻弥を一瞥すると、観念したように息をついた。


 かつて、麻弥の様子がおかしかった時、みんなで心配したのを思い出してくれたのだろう。


 俺らに心配をかけまいと無理をしていた様子の舞恋は、俺らのために、あえて口を開いてくれた。


「ちょっと、仕事で頑張り過ぎちゃってね。その疲れが出たの」

「真理愛から聞いたよ。最近は凄い量の仕事をしているって」

「少しでも、みんなの役に立ちたかったからね」


 顔を上げて、舞恋は俺らみんなの姿を見つめた。


「美稲はほとんど一人で金属資源問題を解決して、詩冴は食料問題を解決して、ハニーは燃料問題を解決して、桐葉も年間数千億円稼いでる。茉美も、高額医療で多くの人の命を助けながら、日本に貢献している。何よりも、みんな高校生なのに、日銀の問題のたびに、官僚の早百合部長と会議して、打開策を打っている。凄いよね」

「そんなことないわよ」


 茉美が俺の隣に並ぶ形で、ベッドの前に座った。


「だって、舞恋たち警察班のおかげで何億っていう捜査費用が浮いているんでしょ? それに、あんたらのおかげで未解決事件がバンバン解決しているんだしさ!」


 舞恋は、力無く首を横に振った。


「それはわたしたち警察班みんなでやっていることでしょ? それに、事件を解決しても、被害者は救われない。茉美とは違うよ。そりゃあ、ある程度役には立っている自覚はあるよ。でも、みんなと比べちゃうと、なんだかね……」


 ――ああ、そうか。


 舞恋が吐露してくれた想いに、俺は思いだした。


 ――今の舞恋は、二か月前の俺なんだ。


 財政破綻をした日本を救うために、大活躍するみんなと比べて、自分はただのタクシー係。


 みんなとの差に苦しんだ。

 だから、舞恋の気持ちはよくわかる。

 そして、彼女を慰めたかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 本作はカクヨムにも投稿されています。

 また、

 先月からスニーカー文庫より書籍版が発売中です。

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