美少女たちと夕食の買い出し
仕事終わり、俺らは都内のスーパーを訪れていた。
今日の夕食の材料を買うのが目的だ。
「じゃあハニー、ボクらは野菜と果物見てくるから、ハニーたちは肉と魚、お願いね」
「おう」
一階の食品売り場では、美稲、詩冴、桐葉、茉美のAチームと、俺、真理愛、舞恋、麻弥のBチームに分かれて、買い物に当たった。
肉売り場へ行くと、以前とはまるで違う光景が広がっている。
牛、豚、鶏、特に、牛のコーナーは元の四分の一程度だ。
代わりに、鹿、猪、キョン、ハクビシン、アライグマ、ウシガエルの肉が、売り場を占領していた。
どれも、詩冴の能力で流通している肉だ。
おかげで、もう関東全土から特定外来生物が消えている。
「この光景にも、だんだん慣れてきたな」
「わたしの家も、豚肉の代わりに猪肉を使うのが普通になってきたよ。真理愛は?」
「私の家は元から鹿や猪の肉を食べていたので、これといった変化は感じません」
「そうなんだ?」
「はい。鹿肉の赤ワイン煮込みは、父の好物です」
――あれ? もしかして真理愛っていいところのお嬢様?
「ですが、皆さんと食事をするようになり、ハクビシンやアライグマを食べた時は新鮮でした」
「それは良かった。じゃあ今日はなんの肉にしようか?」
麻弥に尋ねると、彼女はちょこちょこと陳列棚に歩み寄って、猪の肉を手に取り掲げた。
「麻弥は猪好きだな」
「脂身が少なくて豚肉よりもあっさりしていて好きなのです」
猪と豚肉は似ているようで、けっこう違う。
山中を駆け回る猪の身は締まっていて脂身が少なくて、ちょっと硬いけどあっさりとした味を楽しめる。
ただ、硬いと言っても筋に切れ込みを入れて、よくローラーをかければ十分にやわらかくておいしい肉になる。
そこは、桐葉にとってはお手の物だ。
続いて、魚売り場へ行く。
肉売り場と違って、魚売り場は、大して変わらない。
島国である日本は、元から魚介類は国産品で賄ってきた。
ある程度、輸入品もあったけれど、詩冴の力で漁獲高が二倍になっているから、穴埋めには十分だった。
少ない変化として、売り場の端に、ブラックバス、ブルーギル、ライギョ、ソウギョ、コクレン、ハクレン、アオウオなどの、淡水外来魚のミニコーナーが出来ている。
「ハニー、今日はブラックバスの揚げ物なんてどうかな?」
「いいな。実は俺、けっこうはまっているんだ」
舞恋の提案に頷いて、俺はブラックバスを手に取った。
「真理愛と麻弥もいいか?」
「はい」
「はいなのです」
「じゃあ、おっと、そういえばソースがもう少なかったな。ちょっと取って来るよ」
「待って、ハニーすぐに場所迷うから、わたしも行くよ」
「悪いな舞恋」
言っておくが、俺が方向音痴なんじゃない。
このスーパーの陳列の仕方が悪いんだ。
なんでソースとマヨネーズが調味料コーナーの隣のレトルトコーナーに紛れているんだよ。
「こうして見ると完全に高校生夫婦ですね」
「ふゃっ!?」
舞恋は、きゅ~ん、と顔を赤くして固まった。
俺は麻弥の頭をぽんぽんしながら、への字口を作った。
「高校生でこんな大きな子がいるわけないだろ」
「お、大きいって、生まれて初めて使われたのです」
麻弥は無表情を崩して、感情たっぷりにもじもじと喜び始めた。可愛い。
「まったく、じゃあ行こうぜ舞恋」
「うん、行こう……ハニー」
「?」
言い回しに違和感を覚えながら、俺は調味料コーナーの方角へ足を運んだ。
「えーっと、確か詩冴がとんかつソース派で、桐葉は濃口ソースで麻弥と舞恋は特濃ソースで、真理愛と茉美と美稲がなんでもいいんだったよな」
舞恋のおかげで、迷うことなくソースの陳列棚についた俺は、みんなの好みに合ったソースを手に取った。
あと何か、量が減っている調味料はあったかなと考えていると、不意に舞恋が声をかけてきた。
「ねぇハニー。昨日のニュースで、日銀総裁の緊急記者会見、ひどかったね」
「あーあれな、仕事中、早百合部長と話したよ」
「やっぱり……ねぇ、早百合部長はなんて言っていた?」
少し不安げな声だった。
だから俺は、彼女を落ち着かせようと、わざとちょっと明るい口調で言った。
「言っていたけど問題ないよ。作戦会議は順調だったからな」
両手にソースを抱えて、彼女に向き直った。
「俺らが心配した通り、日本が借金をしても破綻しないのは、借金相手、つまり国債を売った相手が政府機関の日銀だからだ。国債が海外へ渡ると、日本は海外へ現金を流出させないといけないから、日本は滅んじまう」
「大変じゃない。そ、それでどうするの? 日銀の保有している国債って1600兆円分だよね? 1600兆円なんてどうやって稼ぐの!?」
舞恋は声を硬くして、驚きながら一歩詰め寄ってきた。
「国債を売るって言っても、買ってくれる相手が必要だからな。まずは、日本からどれぐらいの外国資本や在日外国人が逃げ出しているかデータをまとめて国際社会に発表する。そうやって日本の信用度をあえて落とす。日銀総裁は売却相手を探すのに時間がかかるだろうな。そうやって時間を稼いでいる間に、金田の野郎を日銀総裁の座から引きずり下ろすのさ」
「どうやって?」
「桐葉の話だと、日銀の総裁は国会で衆議院と参議院から過半数の賛成を貰えば交代できるらしい。だから次の国会決議で日銀総裁を別の人に変える。当然、金田の息がかかっていない人にな」
「わぁ」
舞恋は、胸元でちっちゃく拍手をした。
「みんなすごいなぁ」
「何がだ?」
「だって、高校生なのに国政に携わっているんだよ。同じ能力者でも、わたしなんかと違うなって」
「ほとんど早百合部長と美稲と桐葉のおかげだけどな」
「それだけじゃないよ。日本の燃料事情だって、一人で解決しているんでしょ? わたしなんて、捜査費用節約のために、ただ被害者や失踪者の持ち物から、情報を読み取るだけだし。サイコメトリー能力者なんて他にもいるし。なんていうか、尊敬するよ」
自身を卑下しながら苦笑する舞恋に、俺はたしなめるように言った。
「おいおい、そんなこと言ったら同じ警察班の真理愛と麻弥に失礼だろ?」
「……うん、だから頑張って、いっぱい事件解決しないとね。わたしたち警察班だって、美稲やハニーに負けないくらい、活躍しちゃうんだから」
舞恋が穏やかな笑みを見せてから、俺は補足するように彼女を励ます。
「そうそう。ていうか、舞恋がいないと俺の無実証明できないし。これは舞恋の機嫌を損ねないようにしないとな。ほら、今日もサイコメトリーよろしくな」
「あ……」
ソースを抱えたまま、俺は手を突き出した。
すると、舞恋はしばし固まって半歩下がると、ためらいがちに手を伸ばした。
華奢な手が、そっと俺の手に触れた。
「お、おじゃまします……」
集中するように、舞恋は真面目な顔でその場に佇んだ。
サイコメトリーは、視覚的な変化が無い。
傍目には何をしているのかわからないから、事情を知らないとちょっと不思議な光景だ。
「……終わったよ。今日も、テレポートは悪用していないみたいだね」
「お目付け役と審査員が優秀だからな。さ、みんなのところに戻ろうぜ。ソース探すのにいつまでかかっているんだって……真理愛と麻弥なら怒らないか?」
「ふふ、だろうね」
無表情無感動のまま、ぽつねんと魚売り場に佇む真理愛と麻弥の姿を想像しながら、俺らは魚売り場に戻った。
そして、想像と寸分たがわない姿で、二人は待っていた。
まったくもって、期待を裏切らない子たちだ。




