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蜂の甘い恩返し

 2分後。


 二人が玄関からリビングへ移動したであろう時間に、俺は美稲たちを連れて、玄関にテレポートした。


 靴を脱いで上がりかまちに上がって、廊下を進むと、リビングへつながるドアは開けっ放しになっていた。


 桐葉は、俺らに背を向ける形でソファに座っていた。


 ソファの背もたれから、亜麻色の後頭部が覗いている。


 桐葉は横ではなく、頭を前に倒して、自分の膝に話しかけるような姿勢だった。


 きっと、小柄な麻弥を膝にのせているんだろう。


「ねぇ麻弥。最近、ずっと元気ないけど、何かあった?」


 麻弥は応えない。


 すると、桐葉は幼子をあやすように、優しい声をかけた。


「もしかして、前の学校の人に何か言われた?」

「っ……どうして、そう思うのですか?」

「麻弥も知っているでしょ? ボクが、能力のせいでいじめられていたの」


 桐葉は、右手の五指の先に、ガラスのように透明な針を形成した。


「酷いよね。ボクだって、好きでこんな能力を持って生まれてきたわけじゃないのに。蜂だ、害虫だ、刺される、毒を持っている、毒女、色々言われたし、あの頃は辛かったなぁ……」


 昔を思い出すように、桐葉声のトーンを落とした。


 けど、その声は穏やかで、とても落ち着いていた。


「でもね、今はこの蜂の能力が、ホーネットがあってよかったって思っているよ。だって、ボクはホーネットを持っていたから、ハニーと会えたんだもん」

「ハニーさんと?」

「そうだよ。同じ事柄でも、人によって受ける印象は違う。ボクは、ホーネットのおかげで、優しくて偏見がなくて、えっちなのに女の子を大事にできるハニーと会えたんだ」


 それは俺も同じだ。


 桐葉は絶世の美少女で、頭もいいし運動もできる。


 彼女が能力者でなければ、きっと彼女の容姿や才能に多くの男たちが群がっていただろう。


 俺とは違う、他の誰かと、愛し合っていたかもしれない。


 彼女がホーネットを、俺がテレポートを持っていたから、俺らは出会うことができたんだ。


 それを思えば、俺も、桐葉がホーネットを持っていて良かったと思う。


「もちろん、ハニーだけじゃなくて、麻弥と会えたのも、ホーネットのおかげだよ」


 桐葉は、声を明るくして、麻弥をぎゅっと抱きしめた。


しばらくして、ようやく麻弥は口を開いた。


「私も、探知能力があったから、桐葉たちに会えたのです……」


 ぽつりぽつりと、麻弥はためらいがちに、自分の本音を明かし始めてくれた。


「でも、前の学校のみんなが言うのです。なんの努力もしていないのにズルイって。持って生まれた超能力で上級国民入りなんて生意気だって……」


 悲しみに濡れた声を聞くと、胸が痛くなってくる。


 麻弥は、何も悪いことをしていない。


 なのに、どうしてこんな目に遭わなくてはいけないのだろう。


 まるで、以前の自分を見ているようで、辛かった。


 ソロ充を気取っていた頃、それでも俺は、決して他人に迷惑をかけるようなことはしなかった。


 ただ、クラスメイトと遊ばなかっただけだ。


 それでも、俺は皆からいじめられた。無実の罪で謝罪させられた。


 すると、桐葉は母性的な声で、麻弥に囁いた。


「キミは悪くないよ。何ひとつね」


 その言葉が、まるで昔の俺を慰めるようで、胸の奥で悲しみが溶けるようだった。


 桐葉は背中を丸めて、包み込むように麻弥を抱きしめた。


「ボクはずるいなんて思わない。超能力を含めてのキミだと思う。努力で得た物以外がダメなら、美人とか頭がいいとか運動神経がいいとか、そういうのも全部ずるいのかな? 卑怯なのか? 恵まれちゃダメなのかな? そんなの、全部他人のひがみだ」


 語気を強めて、噛んで含めるように、麻弥へ言い聞かせる。


「それにほら、麻弥ってボクのおっぱい好きでしょ? おっぱい大きいだけで可愛い麻弥に好かれるボクは卑怯かな?」

「そんなことないのですっ」


 ちょっと慌てて、麻弥はフォローをするように言った。


「だよね。ハニーもえっちだからボクのおっぱい好きだけど、このおっぱいもボクの一部だろ? ホーネットがボクの一部であるようにね。そのホーネットも、ハニーは愛してくれる。見て見て、ハニーってば、ボクが蜂の能力を持っているってわかったら、こんなえっちな妄想していたんだよ?」


 空中にMR画面が展開されると、そこには、かつて俺が妄想してしまった、ハチミツ色のセクシードレス姿の桐葉が映っていた。


 ――わぁああああああああ! 桐葉お前なんて爆弾を麻弥に見せているんだ!


 前のめりになって手を伸ばす俺を、美稲と詩冴と舞恋と茉美が取り押さえた。恐るべき、女子の団結力だ。


「これは?」

「前に、真理愛がハニーの頭の中を念写した画像を、ボクに送ってくれたの。蜂って聞いて、脊髄反射でこんな妄想しちゃうハニーって可愛いよね?」

「はい、ハニーは、かわいい人です」


 麻弥に可愛いと言われたのが恥ずかしくて、俺は軽くへこんだ。


 みんなが俺を取り押さえる力が弱まった。


 あと真理愛、俺はお前を許さない。


「あらためて聞くけど、美人でおっぱい大きくてホーネットの使い手で、ハニーから愛されているボクは卑怯かな?」

「違います。だって、ハニーは確かにえっちですけべなおっぱい国民ですけど、ちゃんと桐葉さん個人のことが好きだと思います。それに、本当におっぱい目当てなら、桐葉さんではなく早百合部長と付き合っているはずです」


 ――目から涙が止まらない。きっと、二人が解り合っている感動的なシーンだからだよね。異論は認めない。


「ハニーは、美人や大きなおっぱいやホーネットが好きなんじゃなくて、美人でおっぱいが大きくてホーネットの使い手の【針霧桐葉】のことが好きなんです。その証拠に、ハニーは舞恋のサイコメトリーを毎日受けています。舞恋は信用できる人だからって、舞恋なら、勝手に記憶を読んだりしないだろうって。ハニーは、そうやって人を信じられる、ステキな人なのです」


「だよね。だから、麻弥だってずるくなんてないよ。麻弥は探知能力を拾って手にしたわけじゃない。髪や手足と同じ、元から生まれ持った、麻弥の一部なんだから。その力で総務省に務めても、異能学園に編入しても、それは卑怯でもなんでもない。運動神経の良い人がスポーツ特待生として入学するのと同じだよ」


 桐葉の言う通りだ。


 運動部で、練習を頑張っているのは、みんな同じ。


 なのに、スポーツ特待生になれるのは一握りの人間だ。


 その差はどこでつくか、それは、才能に他ならない。


 誰よりも練習したのに、自分より練習していない部員が特待生になったら、面白くないと思う。


 でも、特待生からすれば、「お前が特待生になれたのは才能があったからだ卑怯者」なんて言われるのは、言いがかりでしかない。


「だから、麻弥はボクらと同じ異能学園にいていいんだよ。だいいち、麻弥が卑怯なら、ボクら全員卑怯者じゃないか。だろ?」


 桐葉が明るい声で同意を求めると、麻弥は返事をしてくれた。


「……はい」


 だけど、それはとても小さな声だった。


「どうしたの? まだ何か気になる?」

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