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日銀総裁戦スタート!

「まったく、とんでもない量の宿題だったな」


 放課後。

 俺は桐葉たちだけでなく、クラスメイトで総務省に行くメンバーとまとめてテレポート。


 総務省の講堂へつくと、初対面のクラスメイトはみんな、俺にお礼を言ってから職員に出勤確認をし始めた。


「ありがとうな奥井」

「おかげで出勤が楽だぜ」

「でもなんだかタクシー扱いしているみたいで気が引けるなぁ」

「嫌だったら言ってね。あたしも前の学校で超能力を便利に使われて嫌だったから」


 男子も女子も、みんな気さくにそう言ってくれる。

 前の学校とは温度差が激しすぎて、面食らってしまった。


 夢のようではなく、今までが夢で、こっちが現実なのだろうか、なんて変なことを考える。


 でも、意外とこんなものなのかもしれない。


 戦闘系の能力者は、坂東のように暴力的な方向性に走る奴もいるだろう。


 けど、サポート系というか、舞恋や真理愛みたいな能力者は、便利に使われたり、偏見を持たれて苦労している分、他人を害そうと思わないのかもしれない。


 そして、異能学園は、ああした生徒たちで溢れているんだ。


「…………」

「どうしたのハニー?」

「ん? いや、宿題は面倒だけど、楽しい学園生活になりそうだなって思ってさ。お前らもいるし」

「ハニーちゃん、それは盛大なハーレム宣言と受け取っていいんすか?」

「そういう意味じゃねぇよ。じゃあ俺、一度学校に戻って他のクラスの奴も連れてくるから」

「ハニー君大忙しだね」


 美稲が感心のため息をついた。


「一瞬で送迎する奴しない奴に分けるのも悪いしな。その代わり、時間過ぎたら自分の足で移動してもらうよ」


 俺も暇じゃない。


 みんなを仕事場にテレポートさせてから、詩冴と各地を回りつつ、10分おきに美稲の仕事場である貨物船の中にテレポートして、金属塊であるインゴットと倉庫にテレポートさせなくてはいけない。


 それに、あまりサービスをし過ぎると、それこそ俺をタクシー代わりに使おうとする輩が増えるかもしれない。


 そうして、俺がまた学園にテレポートしようとすると、早百合部長が声をかけてきた。


「今日もご苦労だな奥井ハニー育雄。学園は気に入ってくれたかな?」

「早百合部長まで……ミドルネームにしないでくださいよ。でも、学園は今から楽しみですよ。宿題の量がちょっとエグイですけどね」


 俺が苦笑いを浮かべると、早百合部長は爽やかに口角を上げた。


「小学生レベルの宿題に文句を言うなよ。まぁ、しばらく忙しくなるのは許してくれ」

「それは仕方ないですよ。色々と順調ですけど、予算もまだ7兆円足りないんですよね? いざとなったら、俺のメタンハイドレート採掘量増やして輸出で稼ぐ覚悟ですから、その時は遠慮なく声をかけてください」


 今、俺らは日本が財政破綻したことで足りなくなった年間国家予算50兆円を、超能力で稼ごうとしている。


 早百合部長の話だと、現状、43兆円は賄える試算らしい。


「そのことなのだが、どうやらそう躍起になる必要もなさそうだ」

「そうなんですか?」

「うむ。実は所得税と法人税による税収がかなり伸びる見通しなのだ」

「え? 日本て財政破綻したんですよね!?」


 なのに所得税と法人税が伸びるのは、どう考えてもおかしい。


 美稲や詩冴も驚いている。


 すると、桐葉がポンと手を叩いた。


「あー、デフォルト(財政破綻)による経済成長効果のこと?」

「なんだ、それ?」


 俺が首を傾げると、早百合部長が首肯した。


「針霧桐葉の言う通りだ。今、日本円の価値は10分の1にまで暴落している。故に、日本は輸入ができなくなっている。だが、逆に海外からすれば日本の商品が従来の10分の1の値段で買えるのだ。おかげで輸出産業は絶好調だ」

「でも、輸入産業は衰退……あ、そうか」


 俺がはっとすると、早百合部長は目を光らせた。


「気づいたようだな。輸入産業は、貴君らが用意した物品を政府から買い取っている。だからこれまで通りの営業が可能となり、所得税も法人税も下がらない。結果、一方的に輸出産業からの税収が伸びただけにとどまったのだ。日本経済は上向き傾向にある」


 早百合部長の解説に補足するように、桐葉が俺の顔を覗き込んできた。


「実際、歴史的に見ても財政破綻した国の多くはその後、急成長しているんだよ。財政破綻すると輸入が止まって輸出が活性化する。そうすると国内産業、特に自国に合った産業が成長して、産業の健全化が進む。財政破綻は、経済のオーバーホールによるハイリフレッシュ効果があるんだ」


「言ってることはわかるけど、なんか凄い違和感があるな。財政破綻が好景気につながるって」


「多くの者は貴君と同じことを考える。事実、財政破綻した日本から逃げ出す海外資本と外国人が後を絶たん。おかげで、海外資本に買収された土地や建物、企業の多くが、日本人の手に帰ってきている」


「俺らが頑張っているのに酷い話ですね……」

「財界の老人たちは、貴君らコドモに国を救う力があるわけがないと思っているのさ」


 言って、早百合部長は厳しい顔をした。


「人は年齢、性別、人種、あらゆるカテゴリーを根拠に偏見を持ち、相手を侮る。だが忘れないでくれ。今、この日本を救っているのは紛れもなく、貴君ら自身なのだということを」

「はい」


 俺は、ちょっと誇らしい気持ちで返事をした。


 ただのボッチだった一か月前の俺には信じられないことかもしれない。


 でも、今の俺は、仲間と共に日本を救う立場にある。


 そのことが、強い自信になっていた。


「む、すまん、電話だ」

 

 早百合部長が俺らから視線を逸らし、通話相手の話に聞き入ると、詩冴が口を開いた。


「それにしてもキリハちゃんよく知ってましたね。経済学好きなんすか?」

「そういうわけじゃないけど、昔読んだ本に書いてあったから?」

「お前頭いいんだな。全学試一位の奴もいるし、案外異能学園て偏差値高くなるかもな」

「あーそれボクだよ」


 俺らは笑顔のまま固まった。


 口角を下げて、たっぷり数秒間、桐葉を見つめてから、俺は聞き返した。


「ボクって、何が?」

「だから全学試一位の人ってそれボクだよ。中一の頃から四年連続全国一位だよ。ほら」


 空中にMR画面を展開すると、そこには先月行われた全学試の結果が表示されていた。



 現文100点 古文100点 数学100点 物理100点 化学100点

 生物100点 公民100点 歴史100点 地理100点 英語100点

 合計1000点       順位1位



 10教科オール満点。

 自分の中の何かが何かに打ちのめされるのを感じて、俺は誇りも自信もなく、恐縮してしまう。


「あの、桐葉……本当に俺なんかが桐葉の彼氏でいいのかな?」

「え? どうしたのハニー? 心配しなくても、ボクらは死んだ後までずっと一緒だよ」

「……ありがとう」


 生まれた子が馬鹿だったら100パーセント俺の責任だと自分に言い聞かせながら、俺は桐葉に寄り添った。


「えへへ、ハニー大好き♪」


 桐葉にぎゅっとしてもらい、男のプライドを充填してから、俺は気を取り直した。


「じゃあ、俺らは学園に戻って他の生徒を連れて来ますね」

「ふざけるな!」


 早百合の部長の怒声が、耳をつんざいてきた。


 学園に戻ってはいけないのか、と恐怖したのは一瞬。どうやら別のことに怒っているらしい。


「あの男は日本を沈没させる気か!?」


 鬼のような咆哮に、俺はテレポートの機を失して、その場で仰け反った。


「ど、どうしたんですか……?」


 桐葉たちも、驚いた顔で固まっていた。


 早百合部長は血が出そうな熱量で、ぎりぎりと握り拳を固めた。


「日銀総裁の金田康則かねだやすのりが、借金を返済しなければ国の資産を差し押さえると言ってきたのだ。つまり、国道や国有地、国会議事堂や都庁をだ!」

「はぁあっ!?」


 俺らは、足りない予算50兆円を稼ぐために、必死に働いてきた。


 だが、日本政府の借金は……2000兆円だ。


 俺は、しばらくの間、その場から動けなかった。


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