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ショート論破

 詩冴と茉美を自宅にテレポート。通話画面の向こう側から詩冴の断末魔の叫び声がひとしきり聞こえて静かになってからアポートで呼び戻した。


 我が生涯に一片の悔いなし、という顔で血を吐いていた詩冴を残し、俺らが向かったのは観光地、ではなく、ホテルの会場だった。


 そこに集まったのは、この温泉地の商業組合員一同。


 早い話が、この地で商売をしている人たちだ。


 みんな、敵意を剥き出しにして俺らのことを睨んでくる。


 地元テレビ局も入っていて、こちらに厳しい視線を向けていた。


 ――やれやれ、俺らが何をしたって言うんだよ。


 早百合さんが登壇すると、挨拶もそこそこに一人の男性が立ち上がった。


「おい! あんたはこの温泉地に地熱発電所を作ろうとしているが、それで温泉が出なくなったらどうするんだ!?」


 その言葉を皮切りに、次々旅館の経営者たちが声を上げた。


「そうだ! 地熱発電って言うのは湯脈を止めちまうんだろ!」

「温泉が止まったらこの温泉街は終わりだ!」

「テメェは総理のくせにオレら地元産業をないがしろにする気か!?」

「テメェの人気とりの為に地方を犠牲にしやがって。これだから東京の役人や政治家は嫌いなんだ!」

「損をするのはいつだってオレら庶民だ! 偉いに人にはそれがわからんのです!」


 みんなの意見はわかった。


 ようするに、この人たちは地熱発電の開発で自分たちの仕事がなくなるのが怖いらしい。


 けど、地熱発電と温泉て関係あるのか?


 壇上の横に控える俺の視線の先で、早百合さんは普段の凛とした態度を崩さず、戦国武将のように凛々しい表情で口を開いた。


「地熱発電を開発すると何故湯脈が止まるのだ?」


 水を打ったように会場が静まり返った。

 けれどすぐに、集まった経営者たちは嘲笑するようにして鼻で笑った。


「どうやら総理って言ってもおつむは弱いらしいな!」

「地熱発電の工事したらお湯が出なくなる。そんなの常識だろ!」

「根拠は?」


 息巻く経営者たちとは反対に、早百合さんはいたく冷静だった。


「だ、だから地熱発電の工事をするのにすっげぇ深く穴を掘るんだろうが。そんなことしたら湯脈に影響するに決まっているだろ!」


「それはどこの大学の誰のどういう研究結果だ? 資料を見せてくれ」

「け、研究結果はねぇけど」

「つまり貴君たちの予想か? 貴君たちは地質学に明るいのか?」

「い、いや……」

「つまり迷信ということでいいか? 夜に口笛を吹くと泥棒が来るみたいな」

「ば、馬鹿にするなぁ!」


 激高しながら、最前列中央のオッサンが食ってかかる。


「アメリカじゃ実際に地熱発電したら湯脈が止まったって話があるぞ!」

「そうだ。日本でも開発を進めたら湯量が減ったって聞いたぞ!」


「それは20年以上も昔の話であり、因果関係の証明はできん。そもそも、貴君らの利用する湯脈は地下200メートルから300メートルだが、地熱発電で利用する地層は地下1キロ以上も下だ。層がまったくの別ものだ」


「でも一キロ以上ってことは途中で湯脈の層に触れているんだろ!? なら影響するだろ!」


「影響すると言うなら、通常の温泉開発が一番影響するだろう。モロ湯脈に直接働きかけるのだから。温泉地が湯脈を開発し過ぎて多くの経営者が奪い合うように湯脈から湯をくみ上げて足りなくなったという説もあるぞ?」


「そんなの迷信だ! 証拠を見せろ証拠を!」

「では貴君たちも証拠を見せてくれ。見せられないなら貴君たちの話も迷信だ」

「うぐ、ぐ、ぐぎっ」


 経営者たちは歯を食いしばりながら肩を怒らせて、憤然としていた。


 一方で、早百合さんは軍師のように冷静に、淡々と説明を続けた。


「超能力者が生まれるより前は、人類にとって地下は未知の領域だった。探索装置の精度は極めて低く、湯脈も鉱脈も遺跡も、掘ってみなければわからない、という世界だった」


 言われてみれば、音波装置で地下の様子がわかれば麻弥たち探知系能力者にたよらなくても地下資源の場所がわかるはずだ。


「だが、今の我々にはサイコメトラーがいる。サイコメトラーの得る地下地質地形情報を地質学者に調べて貰えば、湯脈に一切影響を出さない地熱開発が可能となる」


 ――そこは、舞恋の独壇場だな。


「そんなのやってみないとわからないだろ! 湯脈に影響が出たからって時間は巻き戻せないんだぞ!」

「そうだ! そもそも発電所があるってこと自体が土地のイメージダウンにつながる!」


 ――地熱発電所は原発じゃないんだぞ?


「とにかく、地熱発電計画を白紙にするか! それ相応の支援金を払ってもらわなければ納得できん!」

「オレたちの生活を保障しない限り! 地熱開発なんてさせないぞ!」


 ――あんたらの土地を開発するわけじゃないしあんたらにそんな権限ないだろ……とは、言えないんだろうな。


 壇上の早百合さんを見守りながら、嘆息を吐いた。


 そんなことを言えば、野党や反対派勢力はこぞって早百合さんを叩くだろう。


 地域住民を無視して強引に地熱開発をした悪代官、と。


 結局、話し合いの場は経営者たちの罵詈雑言が飛び交い、収拾がつかなかった。


 続きはまた明日。


 それまでは現地視察をする、ということで初日の話し合いはお開きとなった。


 それにしても、さっきの経営者たたちの言葉、何か引っかかるな……。


 桐葉も同感なのか、なにごとか考えるように、指先であごをひとなでしていた。



   ◆



 ホテルの部屋に戻ると、詩冴、だったものを麻弥たんが指先でツンツンし始めた。


「あ、天使さんっす。ここは天国っすか?」

「気持ちは分かるがここは地上だ。そして地獄のような話し合いだったよ」

「?」


 俺らは詩冴にことの顛末を話してあげた。

 詩冴も、おおむね俺と同じ感想で不機嫌になる。


「サユリちゃんにイチャモンばかりつけてムカつく連中っすねぇ。シサエの力でゴキブリ軍団を向かわせるっすか?」


「それは一般客に迷惑だからやめておこうか」

「ほんと、気分悪いよね。気分転換にもう一度お風呂入ろうかハニー。今度は裸で」


 桐葉が服を脱ぎ始めて、俺はテレポートで逃げた。


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