ラブコメパートとアンチ連中パート
「ふぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
と叫んだ。
詩冴が。
茉美のおっぱいを乱暴にしながら首を回すと、開け放たれたドアの前に、桐葉と詩冴が立っていた。
「みんな聞いてぇ! ハニーを殴ったらハニーがおっぱい揉んでくれるって!」
「やめろ桐葉! 詩冴はその野球バットをしまえ! 美稲は撮影するな真理愛は麻弥の眼を隠せ早百合さんは握り拳を固めないで下さい!」
そして当然というか、みんなの視線に気づいた茉美は全身を震わせながら、自身のおっぱいを見下ろして正気に戻っていた。
表情を凍り付かせたまま、ガクガクと震え始めた。
「ま、待て、待つんだ茉美、今回俺は絶対に悪くない。愛しているから、好きだから、俺はずっとお前の恋人で未来の夫だから」
「いやぁああああああ!」
「ハニーにパーンチ♪」
「ぐげっ」
茉美よりも先に桐葉の拳がわき腹に刺さって、俺はベッドに倒れた。おかげで、茉美の鉄拳を喰らわずに済んだ。
それから、美稲や詩冴、早百合さんに真理愛や麻弥が矢継ぎ早に俺のことをぽかぽか叩いてくる。
――お前ら仲良すぎだろ!
そこへ最後にドアから様子見をしていた舞恋が駆け寄ってきた。
「え、えい」
ぺちん、と俺の頭を叩いてきた。
桐葉たちの動きが止まる。
桐葉たちの視線が舞恋に集中した。
「え、あ、ああ、あぁのぉ……」
舞恋は両腕で特大バストを挟んで持ち上げると、顔を赤らめながら頭を下げた。
「よ、よろしく、お願いします」
「いや、みんなに合わせなくていいから! ほらみんな、お前らが悪ふざけするから超絶いい子で我が家の良心と言っても過言じゃない舞恋にまで恥をかかせて反省しろ」
「ち、違うのハニー。わたしはみんなに合わせたわけじゃ」
「え? じゃあまさか俺におっぱいを揉んで欲しかったのか?」
桐葉や詩冴ならともかく、舞恋はそんなエッチな子じゃないだろう。
舞恋が俺のことを好きなんだとしても、舞恋はそんなことしないだろう。
「そ、そんなわけないよ。そもそもわたしとハニーは恋人同士でもないし」
「そうなのか!? 奥井ハニー育雄! 私はてっきりすでに10人とも貴君の嫁だとばかり!」
「舞恋と糸恋と美方は違いますからね!」
「ハニーはん、ウチは美方を連れてそろそろお暇しようと思うんやけど、あら、取り込み中やったか? はっ、茉美はんが乳さらして、皆で何をしてはったんや!?」
「お前はタイミングがいいのか悪いのか」
赤面しながら動揺する糸恋。でも、おかげで乱痴気騒ぎは治まった。
そして何故か、舞恋は終始罪の意識に苛まれるような、切腹をしそうな顔をしていた。
◆
翌日の12月26日の木曜日。
冬休み初日の朝。
今日からは毎日フルタイムで仕事に励む予定だ。
しかし朝食に桐葉特製のハチミツトーストを食べていると、不機嫌なニュースが飛び込んでくる。
「なんですかあれ?」
「ふむ、どうやら反政府市民団体らしいな」
ニュースの映像では、首相公邸の前に大勢の人々が詰めかけ、プラカードを手に騒ぎ立てていた。
「事前申請のないデモ活動は禁止されているのだが、やれやれだ。本来なら警察を出動させるところだが、そんなことをすれば彼らはさらに過熱するだろうな」
「俺のテレポートで警察送りにしますか?」
「構わん。好きにさせておけ。どのみち、私はあそこにはいないのだ。無駄な労力、まったくご苦労なことだ」
総理大臣が暮らすための首相公邸だが、見ての通り早百合さんは俺らと一緒に暮らしている。
そんなことも知らずに騒ぐ彼らは、まぁ気の毒としか言えない。
ちなみに、最高にして至高の存在である早百合さんの何に不満なのかと言えば。
「学校への警察介入はんたーい!」
「政府が校則に口出しするなぁ!」
「生徒は我々教員の手にゆだねられるべきなのだぁ!」
「総理が会社を守らず潰すなど言語道断! 即刻総辞職しろぉ!」
「賃金の未払いは中小企業を維持するための必要悪だぁ!」
「リューサキヤメロッ! リューサキハンタイッ! ジッショック!」
何人かが首相公邸の塀の中にガラス瓶を投げ入れると、警備員に取り押さえられた。
途端に、市民団体がさらにボルテージを上げた。
「やめろぉおお! 身体の自由の奪うなぁ! 憲法違反だぞぉ!」
「うぉおおおおお! 善良な市民に暴力を振るったぞぉ!」
「みなさん見てください! これが龍崎内閣の実態です! 応援のチャンネル登録とスパチャをお願いします!」
俺は苦虫をかみつぶしたような顔で、頭痛を抑えるように手を額に当てた。
「早百合さん……」
「言うな、虚しいだけだ。こういう時は冷静に麻弥をもてあそぶのだ」
「なら俺にも貸してください」
麻弥を抱きすくめ独り占めする早百合さんに手を伸ばした。
麻弥は早百合さんのおっぱいに頭をうずめながら満足げだった。
「そして詩冴はなんで髪をツーサイドアップにしているんだ?」
アルビノ特有の真っ白な髪を、後ろ髪ごと左右で縛るツインテールにしている詩冴が、急にリボンをほどいて横髪だけを結んだ麻弥たんと同じツーサイドアップにした。
「マヤちゃん2号っす♪ 抱きしめると癒し効果があるっす♪」
「純真さが足りん、舞恋を見習え」
何故か舞恋が申し訳なさそうな顔になった。
「ひどいっす。シサエはいつでも天真爛漫、子供の心忘れないわんぱくガールなのに!」
「欲望に忠実なだけだろ?」
「そんなことを言うハニーちゃんにはおしおきっす。喰らえ髪ビンタ」
椅子から立ち上がり、長い髪を持ってムチのように俺の顔を叩いてくる。
つやつやの柔らかい髪の毛が顔に当たって気持ち良い。ついでにシャンプーの良い香りがして悔しいけど癒される。
「こらこら、食事中に席を立つな。髪をもっと大事にしなさい」
「シサエにお利巧にしてほしかったらキリハちゃんのおっぱいを貸して欲しいっす!」
「駄目だ。桐葉は俺と麻弥専用だ」
「もう、ハニーってば嬉しい♪」
「ナチュラルに麻弥さんが入っているんだね……」
桐葉が喜び、美稲が苦笑した。
真理愛がお茶の給仕をしながら、冷静に尋ねた。
「ですが早百合総理、これ以上騒ぎが大きくなると政策にも支障がでるかと」
「安心しろ。いつものようにテレビ局が討論を組んで美稲が論破する」キリッ
――いやそんなギャグマンガじゃないんだから都合よくいかんだろう。
「むっ、秘書から連絡だ。ほう、教師系市民団体と経営者系市民団体から討論の依頼か」
――神様! 人間を作る時にもうちょっと頑張れなかったんですか!?




