お風呂からあがったら、あたしの部屋に来てくれる?
まず俺は、美稲を政府所有の研究所に連れて行った。
ここで、美稲は炭素から大量のダイヤモンド半導体パーツを生成しながら講義を受けていた。
内容は、ケイ素樹脂とクッションコンクリートの原子構造についてだ。
「美稲って、単一物質しか生成できないんじゃなかったか?」
「そうなんだけどね、これでもこの一年間、随分練習してきたんだよ。あんまり複雑なのは無理だけど、頑張るよ」
「内峰さんは化学の成績も良いですし、きっと理解してくれるでしょう。では、クッションコンクリートの性質について説明します。この新素材は衝撃を吸収する上に表面がなだらかなので転んでもケガは最小限で済み、遮熱効果があるのでヒートアイランド現象の解決にも役立ちます」
美稲は真面目に説明を聞きながら、その背後では炭からダイヤモンドパーツが次々生み出されていく。
元から生成作業をしながら映画を見るなどマルチタスクが得意な女子だったけど、感心してしまう。
「それから撥水性に富みますが、道路に使うほうはむしろ吸水性の高い珪藻土タイプのクッションコンクリートが良いでしょう。こちらは水を吸収して水たまりを作らず、水分が飽和量に達すると水を弾きます」
続けて、専門的な原子レベルの構造の話になってきて、俺はついていけなかった。
バカな彼氏でゴメンと心の中で謝りながら、異能省にテレポートした。
それから、いつもは警察署にテレポートしているサイコメトラーの一部を、全国の温泉地、火山地帯にテレポートさせた。
彼ら彼女らが地面に触れて、地質の調査をする。
あとで、サイコメトリー内容を真理愛が念写すれば、データ化は完了だ。
地熱発電に適した場所は一目瞭然だろう。
同じ地面つながりだけど、地形操作能力者は区役所にテレポートさせた。
目的は、水道管の交換実験だ。
水道管の耐用年数は40年なのに、今の日本の水道管はどこも60年以上使っているため、老朽化は限界を超えている。
それを、耐用年数が100年のニューポリエチレン製か、ケイ素樹脂製に取り換える予定になっている。
ただし、問題は費用と時間だ。
1:水道管を掘り起こして、
2:断水しないようバイパス管を繋げて、
3:水道管を取り換えて、
4:バイパス管を外して、
5:埋め戻す。
この作業には1キロあたり1・6億円かかるため、日本中の水道管を取り換えるには103兆円の予算と数十年規模の時間がかかると言われている。
それを解決するのが、俺ら超能力者だ。
「じゃあみんな頼む」
「おーけー」
地形操作能力者たちが駐車場の地面をトンと蹴る。すると、アスファルトとその下の土がめくれ上がっていく。
それから、みるみる露出していく水道管を、水道局の人がバイパスも通さずにそのまま取り外し、交換作業を行っていく。
これが、早百合さんの考える秘策だ。
1:昼間に作業員と超能力者で水道管を掘り起こしながら交換準備をする。
2:深夜に断水して一気に水道管を取り換える。
3:埋め戻す。
これなら、作業時間は数分の一にまで短縮できる。
断水はするが、毎日区域を分けながらアプリで断水時間を確認できるようにする。
深夜、それも短時間の断水なら、不満は最小限だ。
警察署では、真理愛が大活躍だった。
「真理愛、調子はどうだ?」
「あ、ハニーさん。はい、全国の学校で過去に行われた犯罪の証拠映像を、順次念写中です。あ、この学校の生活指導教師は自ら女子の下着の色をチェックしていますね、これは犯罪です」
「えげつねぇ……」
俺は苦笑いを浮かべた。
「でも法改正はまだだよな?」
「いえ、学校内の問題は学校で解決する、というのは法律で決まっているわけではなく慣習のようなものです。過去、警察が捜査した学校絡みの事件は多くあります」
「言われてみれば……」
「早百合さんの政策は、その慣習を無くし、警察の民事不介入の原則を廃止するというものです。証拠があれば、いつでも警察を学校へ介入させられます」
「おまわりさんが忙しくなりそうだ」
正直、犯罪の無い学校なんてほぼ無いだろう。
実際、真理愛の念写する動画は種類ごとに分けられていて、
・教師や生徒同士による暴力【暴行罪】【傷害罪】
・誹謗中傷、晒し行為【侮辱罪】【名誉棄損罪】
・私物を盗む、渡すよう強要する【窃盗罪】【恐喝罪】
・私物を壊す、汚す【器物損壊罪】【汚染罪】
・生徒の髪を切る、染める、下着の色をチェックする【傷害罪】【強制猥褻罪】
と表示されている。
逆に、よくもまぁ今までこれだけの犯罪行為を【いじめ】【子供のいたずら】
【教育的指導】と言い換えて野放しにしてきたなと思う。
◆
その日の夜。
仕事も終わった俺らは、自宅のリビングでクリマスパーティーをしていた。
宣言通り、守方は滑川とデートに行ったので、一人残された美方はうちのパーティーに出席して荒れていた。
「守方ぁ! 姉であるワタクシを裏切るなんてゆるしましぇんわぁ! ヒック」
「桐葉、あいつお酒飲んでないよな?」
「うん、チョコレートのウィスキーボンボンを10個食べただけだよ」
――どんだけ弱いんだよ……。
「この美人で美しくスタイル抜群で菩薩のように人徳溢れるワタクシよりも滑川を取るなんて、ヒック、今夜帰ってきたらとっちめてやりま、きゅ~」
小動物のような声を漏らして、美方は舞恋の膝に倒れ込んだ。
「うわっ、だ、大丈夫美方? 美方? え、これサイコメトリーで体調確認したほうがいいかな?」
心配そうな顔の舞恋は、ぐったりとして動かない美方を介抱してあげる。なんていい子だろう。流石は我が家の良心担当。
舞恋、真理愛、麻弥の警察班は我が家の癒しである。
「茉美、俺のアポートでアルコールを抜いたら治るかな?」
「いや、あれはあのままでいいんじゃない?」
「それもそうか」
散々愚痴りながら倒れこんだ美方の醜態に同情しながら、俺は頷いた。
「それよりもさ、ハニー」
「うん?」
不安を解消するようにサイドテールの房を指でいじりながら、茉美は頬を染めていた。
「お風呂からあがったら、あたしの部屋に来てくれる?」
「? おう」
わけがわからないまま、俺は返事をした。
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一応補足
学校内の犯罪に警察が関与しないのは、学校には自治権が認められており、学校内の問題は学校内で解決することになっているから。
ただしどこまでの犯罪を学校にゆだねるか明確ではなくそれが問題になる。
えんぴつを盗んだらごめんで済むけど金銭トラブルってさすがに警察か?とか
教師によるパワハラ系は法律で教師には生徒への懲罰権が認められている。
けどこの懲罰も範囲が明確ではなく、懲罰を与えるってどこまで許されるの?というのが問題になる。
怒鳴って説教はゆるされるとして廊下に立たせる、叩く、チョークを投げる、ブラック校則を遵守させるための行動とかはどうなるの?という話。
水道管交換ってハニーがいればすぐ終わるんじゃないの?という質問について。
テレポートとアポートで交換しても水道管同士は繋がっていないから水漏れする。
水道管を繋げてから交換しようにも全水道管を同時にやらないかぎり結局継ぎ目ができる。
だからきちんと地面を掘り返して新しい水道管を入れて、繋いで、閉めて、水漏れしないようにしてから埋め戻す必要がある。
あとハニーくんには水道工事させるよりも他の仕事させたほうがコスパいいので。




