おっぱい永久機関
だが、早百合さん無双はまだ終わらない。
「耐震耐火などの安全面対策として、築50年以上の建物は特別な理由がない限り全て取り壊す。代わりに3Dプリンタで最新の耐震基準の建物を建てよう。3Dプリンタなら木造に比べて建築廃棄物は9割以上、二酸化炭素排出量は2トンから3トンも減らせる。今や骨組みを除けば全行程の8割を3Dプリンタで出来る。やらない手はないだろう」
「し、しかし、その、そんなにたくさんの改革をするには、官僚の人手が……」
官僚とは、各省庁で働く役人のことだ。
政治家が決めた政策を実行する人たちだと思ってくれていい。
「うむ。だから私は現場の官僚たちが働きやすいよう、官僚社会を粉砕することにした」
記者たちが目を丸くした。
「まず、ペーパーレスとハンコレスを徹底させる。今どき紙とハンコを使う先進国など無い。変化を嫌う高級官僚の怠慢で停滞していたのだ。同じように、余白の幅がミリ単位で決まっていて少しでも違うと全てやり直しになる伝統的な書式も全て廃止する。AIを導入し、単純作業は機械に任せよう。それから同じく組織改革として、会社と学校を作り直す」
学校。
俺らに直接関係ある話に、つい、耳が大きくなる。
「まず日本中のブラック校則を法律で禁止する。今まで政府が学校に自治権を与えたせいで治外法権も同然になっていた。それがブラック校則やいじめという名の犯罪を隠蔽する体質を生んだ。以降、憲法や法律に違反するような校則は禁止し、校内の犯罪は警察の管轄とする」
これには俺も大賛成だ。
そもそも、【いじめ】という言葉が良くない。
人を殴れば暴行罪、ケガをさせたら傷害罪、ものを盗めば窃盗罪というふうに、教師やいじめっこの行為は全て犯罪でしかない。
なのに、【いじめ】と聞くと、なんだか軽く聞こえてしまう。
大人が大人を殴ったら警察沙汰で、生徒同士や教師が生徒を殴っても無罪放免なんて、法治国家にあるまじき蛮行だ。
「また、ゾンビ企業と違法ブラック企業は一掃する」
動揺が走る記者たちに、早百合さんは語気を強めて視線を鋭くした。
「かつて、アメリカに次ぐ第二位の経済大国だった日本が何故衰退したか。それはゾンビ、ブラック企業のせいだ。経営能力が無いから潰れる。需要が無いから潰れる。当然の結果だ」
――うん。
「しかしながら、日本という国は経営能力が無く利益を出せない大企業の株を日銀が買い支え、中小企業は社員からブラックにやりがいを搾取することで延命しているブラック&ゾンビ企業が横行している。こうした会社を全て無くし、社会の体質改善をさせる!」
握り拳でテーブルを叩いて、早百合さんは断固たる決意を感じさせる声を張り上げた。
「具体的には! 日本中の弁護士を総動員して賃金未払いを解消してブラック企業を全て潰す!」
「そんなことをしたらそこで働いていた人たちが困りませんか?」
「問題ない! 企業が消滅しても労働者は困らない! そもそも需要は変わらないのだから需要がホワイト企業に集中する。そうして人手が足りなくなったホワイト企業に再就職するだけだ。その斡旋も行う! 断言しよう。私は全ての悪徳企業を駆逐する!」
失言ギリギリの言葉を叫び、記者会見場は水を打ったように静まり返った。
その後も、早百合さんは食糧問題や治安回復の方策を延々と説明していく。
そのどれもがあまりにも大胆かつ的を射たものばかりで、舌を巻いてしまう。
この人の頭の中はどうなっているのだろうか。
まさに、現代の織田信長だ。
テレビが終わると、教室中から歓声が沸いた。
『龍崎さんすっげぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!』
みんな、早百合さんの政策に大興奮だった。
俺も、胸がドキドキしている。
「これ、全部実現したら本当に凄いことになるぞ」
まさに、日本列島大改造だ。
「これは、ちょっと腕が鳴るかな」
そう言って、美稲が腕まくりをした。
――なんだろう。いつもの美稲無双の予感した。
◆
その日の放課後。
俺らは皆、新しい仕事をすることになった。
「今日はメタンハイドレートをアポートしなくていいんですか?」
総理官邸、ではなく、今日も異能省の執務室で、早百合さんから仕事の内容を説明される。
「うむ。貴君のおかげで15年分のメタンを貯蔵できているからな。タンクは液体メタンでいっぱいだ」
「10年も冷却し続けるのってコストかかりません?」
「問題ない。今の断熱材なら一か月で0・1度しか上がらないからな。一度、メタンを融点のマイナス184度まで下げれば、沸点のマイナス164度まで200ヶ月かかる」
「すげ。あ、でも俺が生きている間にアポートしとかないとですし、えーっと、メタンハイドレートって空気中に出すと気化しちゃうんでしたっけ? 水中タンクとかダムの中にテレポートさせましょうか?」
「考えておこう。だが、今日は皆の新しい仕事をその目で見て把握してくれ」
「さっそく、ですね。ところでなんで総理になったので首相官邸じゃなくて異能省で働いているんですか?」
「首相官邸でも仕事はしているぞ? 今は異能省の仕事だからな、異能大臣を兼任する者としてここで働いているだけだ」
「あ、そういえばそうでしたっけ。でも兼任とかできるんですか?」
「かつて戦後の首相、吉田茂総理も外務大臣を兼任していたし、池田勇人総理も大蔵大臣時代に通産大臣を兼任していたぞ」
「大変そうですね……早百合さん、大丈夫ですか?」
「そうだな、毎晩麻弥成分を補給しないと過労で倒れそうだ」
麻弥が早百合さんの膝の上で爆乳を堪能しつつ、早百合さんが仕事に励む姿を想像してしまう。
――永久機関かな?
とか思っている間に、麻弥たんが早百合さんの膝の上によじのぼっていた。
なんという行動力と爆乳への渇望力だろう。俺の隣で詩冴がハンカチを噛んでいる。
「これが仕事の資料だ。指定した人材を指定場所へテレポートさせてくれ」
快活な笑みに、俺は頷いた。
――ま、疲れたら俺も支えればいいさ。いや、おっぱいをじゃなくてな。
桐葉がニヤリと耳打ちしてきた。
「ハニーもおっぱいする?」
「す、する……」
この日の夜、メチャクチャおっぱいした。




