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アンチ文化と流され体質

 30分後。

 早百合さんの執務室で、ふたりは全てを話してくれた。


 ソファに座り、泣きながら事情を話す二人の対面側に座る早百合さんは、動じた風もなく、真顔のままだった。


「つまり、貴君たちの親が日の丸党の影響力のある会社に勤めていて、盗聴しないと親をクビにすると、そう脅されたわけだな?」


 肩を震わせながら、女子は頷いた。


「はい、私がサイコメトリーでマンションの部屋のドアに触れて、部屋の情報を読み取って、それから」

「私が念写しました。真理愛みたいに動画は無理だけど、音声ぐらいはなんとか。だけどまさかここまで大事になるなんて思わなかったんです!」


 二人はそろって顔を伏せ、怯えるように震えながら謝罪し続けた。

 二人のしたことは許されない。


 犯罪者を捕まえるための捜査とはわけが違う。

 二人がしでかしたのは、紛れもない盗聴行為。明確な犯罪だ。

 ただ、俺には二人を責める気にはなれなかった。


「気にするな。貴君たちは悪くない」


 どうやら、それは早百合さんも同じだったらしい。

 驚いて顔を上げる二人の頭を、早百合さんは優しく抱き寄せた。


「辛かったな。怖かったろう、苦しかったろう。でももう大丈夫だ。怯えなくていいんだ」


 聖母のように慈愛のこもった声に、二人の女子は徐々に落ち着きを取り戻していった。


「な、なんでですか?」

「わたしたちのせいで、早百合さんは……」


「悪には屈しない。たとえ政治家に脅されようと親がクビになろうと、己の正義に従い断るべし、などという輩は人の気持ちがわからない愚か者だ。そんな英雄級の勇気を何故力無き少女に強要できる?」


 早百合さんの言う通りだ。


 言うは易く行うは難し、ということわざのまま、脅されても断れと言うのは簡単だが、当事者になれば断れるわけがない。


 むしろ、知らぬ存ぜぬを通さずに告白してくれた二人の勇気を、俺は賞賛したかった。


「貴君らは脅された被害者ではあっても加害者ではない。後のことは私に任せてもう帰るんだ」


 そう言って、早百合さんは二人を家に帰らせた。



「早百合さん、俺らはどうすれば」


 二人が執務室を去ってから俺は声をかけるも、早百合さんは首を横に振った。


「貴君らも今日は帰っていい。私のほうで対処する」

「でも……」


 食い下がろうとして、早百合さんの視線に俺は言葉を飲み込んだ。

 早百合さんの瞳が、俺たちに苦労を掛けたくないと、語っていた。


「私は、少し貴君たちを巻き込み過ぎたようだ。もう、帰ってくれ」


 静かな口調の後に、早百合さんは俺らを置いていくように、部屋を出て行った。

 俺はその背中を追いかけることもできず、ただその場に立ち尽くすしかできなかった。



   ◆



 その日の夜。

 俺は自室のベッドの上で仰向けに倒れながら、自己嫌悪に陥っていた。


 俺のせいだ。


 俺が早百合さんに、一緒に暮らそうなんて言ったのが原因だ。

 今は大事な選挙期間中。

 スキャンダルはご法度だ。


 なのに、女性である早百合さんに、軽々しく一緒に暮らそうなんて提案したから、付け入る隙を作ってしまった。


 桐葉たちはいい。


 俺は未成年の未婚者の一般人で、彼女を何人作ろうとマナー違反ではあっても問題はない。


 だけど早百合さんは違う。

 成人している大臣職の早百合さんが未成年と暮らせば、叩く人は必ず現れるだろう。


 その程度のこともわからないのか。


 日本人の持つ、アンチ文化や流され体質と同時に、自分の愚かさにも嫌気がさしてしまう。


 何か起死回生の手段はないか考えるも、なにも浮かばない。

 そこへ、ドアが三度ノックされた。


「いいぞ」


 俺が入室を促すと、桐葉が静かな表情で入ってきた。


「さっき連絡があって、早百合さん、二日後に生放送の記者会見を開くんだって」

「二日後。投票日の前日じゃないか」


 俺が深刻な声をあげると、桐葉も表情をひきしめた。


「連中、この記者会見で早百合さんの政治家生命を奪うつもりだね。ボクらも早くなんとかしないと」


「けど、俺らに何ができるんだよ。今までの論破じゃどうにもならない。これは日本人のアンチ文化と流され体質が生み出した空気だ。仮に俺らが正論をぶちかましたって、【印象】や【難癖】は消えない。冤罪事件で無罪を証明しても、周囲からの扱いが変わらないみたいにな」


「……嫌な国だね」


「まったくだ。特に流されやすさは世界一だよ。特に、外国には流されやすいんだ」


「ああ。すぐに欧米の真似をしたがるよね。欧米の人は日本人に島国根性とか文句を言うけど、実際にはなんでもかんでも大陸の真似をするミーハー民族さ」


「だな。今回のことも、意外と世界のVIPが口を挟んだらすぐに……ッ」


 そこで、俺は閃くものがあった。

 アンチ文化を持つ流されやすい民族日本人。

 スターと欧米には特に弱い。


「桐葉、社会の風潮を変えられないなら、世界の風潮を変えようぜ」

「え? …………あ」


 どうやら彼女も気づいたらしい。

 不敵な笑みを浮かべると、桐葉は【彼女】を呼びに行った。


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★話が分からなくなって読むの辞めるという人が出ないようにあらすじ

155話~201話 読み飛ばし可

 アビリティリーグを成功させたハニーたちが次に挑むのは学園汚体育祭。

 そこで桐葉をライバル視する琴石糸恋と対決し、見事優勝をかっさらう。

 だが続けて学園祭が迫る。

 詩冴の協力で猫メイド喫茶をすることになり順調。

 だが、アビリティリーグのおかげで超能力者のイメージがよくなった一方で、学園祭の一般公開にあたりチケット販売の転売ヤーを含め、トラブルが予想される。

 そこでハニーたちは学園祭の宣伝ポスター、PVを撮影すると同時にマナー違反者はテレポートで留置所送りにすることも宣伝。

 そして学園祭当日、各ヒロインとのデートパートの後にOUからの刺客が現れるもハニー君のハニー君力によってワンパンKO。

 最後の演劇では【美女と野獣】で桐葉が野獣の役を演じきり、ミスコンで優勝。

 【ハチ】の能力がコンプレックスの桐葉は救われる。

 桐葉との距離がさらに近づきつつ、桐葉を救うことに尽力した詩冴もハーレム入りするのだった。

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