敵の必殺技発動!
「何を言う。どうせ労ってもらうならば、爆乳美人の方がいいだろう!」
早百合さんは斜め四五度の角度で俺らに流し目を送りながら、キメ顔を作った。
――この人、マジで言ってやがる。
でも、早百合さんの場合は自信過剰とかじゃないんだよな。
事実、早百合さんはハリウッド女優にもひけを取らないぐらいの美人で、プロポーションも反則じみている。
「というのは場を和ませるジョークだが」
――あ、ジョークなんだ。
ですよね、早百合さんだって大人だし、流石にそこまで自信家じゃないですよね。
「ともかく、歴史上、調子に乗って転落する者など山ほどいた。現代でも、調子に乗って【やらかし】【しくじり】をして地獄に落ちた者は数知れない。当選するまでではない、政権が盤石になるその日まで、否、命尽きるまで常在戦場の心構えを崩さぬように!」
自分の顔に、緊張が走るのが分かる。
俺の脳裏には、今までテレビや雑誌で見てきた、転落有名人たちのニュースが走馬灯のように浮かんできた。
この世の春を謳歌しておきながら、不倫や麻薬、賄賂や酒に酔っての暴力事件、パワハラやセクハラなどで、多くの有名人が、人生を台無しにしてきた。
どれも、調子に乗った結果だ。
自分は天下の●●様だ。
自分は特別な人間だ庶民とは違うんだ。
俺が正義で俺に逆らう者が悪だ。
そんな邪心が芽生えた時、人は落ちる。
僅かな気の緩みで、簡単に崩れ去る。
地位や名声は、想像以上に脆く不安定な、ハリボテに過ぎないのかもしれない。
俺と同じ心境なのか、詩冴や舞恋たちも表情を硬くした。
かわらないのは麻弥と麻弥を膝の上で愛でる真理愛だけだ。
「それと、先ほどジョークと言ったのはジョークだ。誰だって美人に労ってもらったほうが嬉しいだろう?」
――そこはジョークであって欲しかった。
俺は、一人肩を落とした。詩冴は滅茶苦茶同意していた。
「さて、私の小粋なジョークで場が和んだところで、本題に入ろう」
――どこからどこまでジョークだったんですか? もう分かりません。
「我らが青桜党が過半数の与党に成れる可能性は、五分五分だろう」
表情を改めて、早百合さんは厳格な声で告げた。
俺は緊張で奥歯を噛んだ。
五分五分、二分の一。
それは、結果を運否天賦に任せるコイントスのようなものだ。
「日の丸党の支持母体が想像以上に強い。最悪、真理愛の力で日の丸党の候補者たちを薙ぎ払うこともできるが、そんなことすれば独裁政権のイメージがついて党運営にも支障をきたすだろう」
それは、俺らも同じ意見だった。
「なら、なんとかして支持母体を崩さないといけないですね」
「貴君の言う通りだ。しかし、戦後90年の長きにわたり与党を続けた最大政党、日の丸党の支持母体は生半可ではないと。何せ、日本の財界人たちが多く名を連ねている。その影響力は計り知れないだろう」
「それってつまり、日の丸党が財界と癒着しているってことですよね?」
「そうだな。日の丸党が与党であったほうが、彼らにとって都合がいいのだろう」
「それは犯罪にならないんですか?」
早百合さんは難しい顔をした。
「財界人の機嫌を損ねれば、私が政権を取った時に財界が敵に回る。彼らに真理愛の力は行使したくないな」
「なら逆にこちらに取り込むとか。早百合さんが総理の方が儲かると思わってもらえれば」
「信用は一朝一夕で買えるものではない。難しいだろうな」
「そうですか」
俺が肩を落とすと、桐葉が冷めた声で尋ねた。
「早百合さん、連中は、このまま手をこまねいてくれるんですか?」
「どういう意味だよ?」
俺には理解できなかったが、早百合さんは辛そうな息を吐いた。
「そこが問題だ。特に、日の丸党と富士山党は、半世紀以上にわたって日本の巨大政党であり続けたプロの政治屋だ。このまま黙って見ているとは思えん。知っているか? 明治大正の頃は、政治家の暗殺などは珍しくはなかったそうだ』
「まさか!?」
早百合さんの酷薄な声に、俺は思わず立ち上がった。
「流石に現代の選挙でそれはないだろうがな」
「で、ですよね。すいません、OUのこともあって、少し神経質になってしまいました」
自分に言い聞かせるように言って、俺は胸をなで下ろしながらソファに座った。
心臓の鼓動が、少し早くなっていた。
「だが、それぐらい政治屋は本気な生き物であり、手段を選ばない人種ということだ。少なくとも、このまま負けるようなことはしないだろう。まぁ、つまらない手なら既に山ほど打たれているがな。私への殺害予告や、アビリティリーグのボイコット運動を呼び掛けるメッセージが関係各所に吐いて捨てる程に来ている」
まるで、お気に入りのタバコが売り切れだった、ぐらい気安く語る早百合さんに、俺はやや怖いものを感じた。
「我々が過半数を取れない無力な与党ならまだいい。だが、もしもうちが政権を取れなければ、与党はアビリティリーグや異能学園を廃止に追い込むだろうな」
予想していなかった事態に、俺は心臓が硬くなるような恐怖を味わった。
アビリティリーグと異能学園がなくなる。
それだけは、絶対に避けたかった。
アビリティリーグは、戦闘系能力者に居場所を与えつつ、世間に超能力者が危険ではないと教えるためにはなくてはならないコンテンツだ。
同じように、異能学園は超能力者みんなの居場所だ。
超能力者は、多かれ少なかれ浮いた存在だ。
けれど、異能学園では誰もが普通の高校生でいられる。
――いや待て!
「その場合、早百合さんも」
「クビだろうな。反逆者を異能大臣に据えておく理由はない」
なんでこんな単純なことに気づかなかったのだろうと、俺は自分の迂闊さに嫌気がさした。
――最初から選挙には勝てて当然と思っていたせい、か。
「それだけは、絶対にさせません」
重たい声が、喉の奥から溢れ出す。
桐葉たちの表情も真剣味を増し、緊迫した空気が流れた。
すると、不意に早百合さんが視線を動かした。
「待て、連絡だ……ッッ、ふざけるな!」
顔色を変えると、早百合さんは声を荒らげながら机を叩いた。
「どうしたんですか!? まさか!」
青桜党の候補者が襲われるなどの事態を想像しながら俺が尋ねると、早百合さんは机の上で握り拳を震わせた。
「指揮権を発動させられた! 真理愛の力で逮捕した候補者が全員釈放された!」
「なっ!?」
「それだけではない。パワハラ問題で暴力罪などで取り調べを受けていた候補者も全員不起訴処分だ。警察上層部に政治的圧力がかかったらしい」
「ミイナちゃん、指揮権てなんすか?」
「ちょっと複雑なんだけど、法務大臣が持っている権限で、今回みたいに逮捕状が出ている人の逮捕をやめさせたりできる権限かな」
つまり、候補者全員が帰って来る。
支持母体の全員が、彼らに投票する。
自分たちの最大の強みである真理愛の力が通じなくなったことで、俺は奈落の底に落ちるような絶望感に息ができなかった。
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