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ハニーとイチャラブしたい

 という悪魔のささやきで、俺の理性はあっさりと崩壊した。


 そして、俺の手が茉美のおっぱいに伸びると同時に、俺の視界にはドアから顔を覗かせるRECモードの美稲と早百合さんがいた。


「あの、二人は何故そこに?」

「朝チュンの波動を感じたのだ」

「同じくだよ。続けて続けて」

「■■■■■■■■!」

「おふぅっ!」


 茉美が声にならない悲鳴を上げて俺の腹に拳をめり込ませてきた。

 俺は鈍い激痛に悶絶した。


「あ、ごめんハニー! じゃあもう元気になったみたいだからあたしは行くわね」

「いま、元気じゃなくなったけどな」


 腹を抑えながら俺が恨み言を漏らすと、茉美はごめんごめんと謝りながら、耳打ちしてきた。


「そういえば、美稲を助けてから『いいこいいこ』してなかったわね。あとで、いっぱい『いいこいいこ』してあげるわね」


 ――何!?


 俺がぴくりと反応すると、茉美ははにかんだ笑みを残して、部屋から出て行った。その背中を、美稲が追いかけた。


 俺が【あとで】の具体的な時間を想像しながらわくわくしていると、早百合さんが部屋に残っていることに気づいて表情をあらためた。


「な、なんですか早百合さん」

「さんではなく早百合ちゃんと呼んで欲しいのだがな。まぁいい、貴君には、あらためてお礼を言っておこうと思ってな」

「桐葉と美稲に、じゃなくてですか?」


 討論番組で活躍したのはあの二人だ。

 俺に礼を言うのは、筋違いというものだろう。

 けれど、早百合さんはゆっくりと頭を振った。


「今回のことではない。今年一年を通してだ」


 まるで遠い昔を懐かしむように、細めた眼差しには慈愛がこもっていた。


「昔の私は、いわゆるボッチだったんだ」


 ベッドに腰を下ろして、早百合さんは上体を起こす俺に目線を合わせてくれた。


「幼稚園でも、小学校も、中学校も、高校も、大学も、私に友はいなかった。どれだけ努力をしようと、私には組織を変える力がなかった。どれだけ正論を並べ立てても、教師たちにとって私は邪魔な生徒であり、クラスの中心人物たちとも折り合いが悪かった」


 俺は想像した。


 早百合さんのことだ。きっとブラック校則などに真っ向から反論したに違いない。けど、きっとクラスのボスとも言うべき生徒にも突っかかり、全方位を敵に回したんだろう。


 その姿が、かつて坂東亮悟に逆らいイジメられていた俺自身と重なって、妙なシンパシーを感じてしまう。


 完璧超人の早百合さん相手に、テレポートしか能が無い自分が共感することに自嘲すると、彼女は続けて言った。


「それは大学を卒業して官僚になっても同じだった。総務省で私は組織の抱える問題、業務の効率化などを上層部に陳情し続けたが、すべて【伝統】の二文字で切り捨てられたよ」


 今度は早百合さんの方が自嘲気味に笑った。

 悲しみを押し殺すような表情に、胸が辛くなった。


 それは、出会ったばかりの頃の桐葉が友達なんていらないと言った時の感情に近かった。


 どうしてこの人がそんな理不尽な目に遭わないといけないのだと、冷たい憤りが胸に渦巻いていくのを感じる。


「だがな、そんな私を救ってくれたのが貴君だった」

「へ? あー、まぁエネルギー問題を解決したのは俺のアポートですけど、それは大袈裟じゃないですか?」


 今年の4月。日本は経済破綻して円が紙切れになったせいで、石油を輸入できなくなった。


 けれど、俺が海底からメタンハイドレートをアポートすることで、燃料問題は解決した。


「金属資源も6G半導体も作ったのは美稲ですよ」

「そんな単純な話ではないさ。わかりやすい所で、その内峰美稲を坂東から救ったのは貴君だ」

「それは、まぁ」


 計画初期の頃の話だ。


 俺や美稲と同じ高校に通うアイスキネシストである坂東亮悟は、自分だけプロジェクトから外された恨みから美稲を襲った。


 それを助けたのが俺だ。


「内峰美稲だけではない。貴君はプロジェクトの中心人物となる少女たち全員を救い、心の支柱となり、皆をまとめている。プロジェクトがこうも上手くいったのは貴君のおかげと言えよう」


「そ、それは褒めすぎじゃないですか?」


「いや。断言してもいい。貴君がいなければ、プロジェクトはとん挫、良くて半減だったろう。無論、私は異能部部長のままか、せいぜい局長止まりだろう。感謝してもしきれないさ」


 有無を言わせない空気で断言されては、反論できなかった。

 反論すれば、逆に早百合さんの心を踏みにじるようで気が引ける。


「まったく、貴君とはもっと早くに出会っていたかったよ。もしも貴君が私の同級生なら、小学校や中学校、いや、せめて高校か大学で友となっていれば……そんな風に思うことがある……」


 しみじみと呟く早百合さんの言葉は、かつて俺が美稲たちに言った願いでもあった。


「それ、俺も前に美稲たちに言いましたよ」

「そうなのか?」

「はい。俺や桐葉、美稲、詩冴たちが小学校の頃に出会っていれば、俺らはもっと幸せな子供時代を過ごせただろう、てね」


 そうすれば、劣等感や自己否定感、孤独感にさいなまれることのない、当たり前の子供時代を過ごせるはずだった。


「だけど過去は変えられない。だから、その分、これからを楽しく生きようと俺らは誓ったんです」


 今まで手に入れられなかった幸せを、これからみんなで作っていこうと。


「それは素敵だな……貴君ならきっとできるだろう。では彼女たちのことは任せたぞ。ハーレムの主として、必ず幸せにするのだ」

「ハ、ハーレムってそんなっ」


 俺が慌てると、早百合さんは痛快そうに笑った。


「ははは、そう恥ずかしがるな」

「早百合さんが変なことを言うからじゃないですか……」


 俺は恨みがましく睨むも、早百合さんが元気に笑ってくれて嬉しかった。


「では、私はそろそろ家に戻ろう。テレポートを頼めるか?」

「あ、そのことなんですけど、もう早百合さんもここに住みませんか?」

「いいのか?」

「部屋は余っていますし、詩冴を中心にみんなも歓迎しますか」

「ふっ、では私も貴君のハーレムに加えてもらうとするか」

「え?」ドキン

「だが荷物を取りに行きたいし、一度、家に帰してくれ」

「はい」


 返事をして、すぐに俺は早百合さんをテレポートした。


 ――待てよ。


 早百合さんの姿が消えてから、ふと気づいた。


 ――早百合さんて、俺と同じ気持ちなんだよな?


 俺と桐葉たちは今、同じ家と高校で楽しく過ごしている。

 けれど、早百合さんは?


 俺らが楽しく過ごす間、執務室で独り仕事を片付け、独りで食事をする早百合さんを想像して、嫌な気持ちが胸をよぎった。


 8歳年上の上司ということもあり、俺は今まで桐葉たちと早百合さんを分けて考えていた。


 でも、早百合さんは四捨五入すれば同い年だと、何度も主張してきた。


 あれはただのジョークだと思っていたけれど、ジョークに見せかけた訴えのように思えてきた。


 自分も貴君たちの輪に入れて欲しいと、失った子供時代を取り戻したいと。


 もしもそうなら、俺は早百合さんの気持ちに応えたい。


 安い同情ではなく、俺自身が早百合さんを好きだから。


 俺だって、早百合さんと一緒に過ごしたい。


 俺らのお姉さんとして、一緒に暮らしてくれたら、きっと楽しいだろう。


 でも、その確証はない。

 もしも俺の勘違いなら、とんだピエロである。

 自分のすべき道に悩み、俺は頭を抱えた。

 桐葉がスケスケのネグリジェ姿で部屋に入ってきたのは、その一秒後だった。


★本作はカクヨムでは344話まで先行配信しています。

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