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暴力系ヒロインがデレるの可愛いよね

 目を覚ますと、俺はベッドの上で仰向けに眠っていた。


 ウサギの鳴くような声に首を回すと、ベッドの横に茉美がしおらしく座りこんでいた。


 珍しく左右の眉を八の字に垂らして、心配そうな顔をしている。

 どうやら彼女が介抱してくれたらしい。


「ん、ありがとうな。流石は医療班。我が家の白衣の天使枠だな」


 にやりと笑いながらからかってみるも、茉美は不安げな表情で顔を伏せた。


「どうした? 元気がないぞ?」

不安に押し潰れそうな顔でうつむきながらも、俺の反応が気になるように視線だけを俺に向けてくる。

茉美の上目遣いはべらぼうに可愛い。俺が美稲なら確実にRECしちゃう。


「……あの、ね。さっきはごめんなさい。ドロップキックしちゃって」

「なんだ、そんなことか。ヒーリングだし痛いだけで怪我していないし気にしなくていいぞ」


「気に、するわよ」


 口をもごもごさせながら、茉美は弱々しく答えた。


「ケガしなくたって、痛くするのはよくないし、ハニーだって、麻弥を痛くする人がいたら嫌でしょ?」

「宇宙に放り出すぞ」

「ほら」

「え?」


 俺は考えた。

 茉美の言う通りだ。

 ケガをしなければいいわけがない。

 痛い思いをさせる。

 それだけで十分罪だ。


 茉美に殴られ過ぎて感覚が麻痺していたけど、よくよく考えてみればこれは立派なDVだ。


 でも、俺は茉美のことは大好きだし、そんな茉美をDV扱いはしたくなかった。


「いや、でもほら茉美には普段から色々とお世話になっているし」


「良いことをしていたらその分、悪いことをしてもいいっていうのはおかしいと思うわ。それってただの契約やポイント制、免罪符稼ぎじゃない。良い事って、見返りを求めないから善行なんだし尊敬されるんだとあたしは思う」


 朴訥と語りながら猛省し続けながら、茉美は肩を縮めた。


「あたしね、小学校の頃から中学まで、総合格闘技のジムに通っていたの」

「ああ、前に言っていたな」


「ジムだと、冗談交じりに殴ったり蹴るのは普通だし、みんなで叩き合っていたからそれ普通だと思っていた。でもやっぱり、試合でもないのに殴るのってよくないことだと思う」


「…………」


 ――茉美、本当に反省しているんだな。


 これが改心というものなのか。俺は、彼女の成長にちょっと感動していた。

 同時に、茉美は本当にいい子なんだと思った。

 普通の人は自省なんてできない。

 むしろ他人から非難されても自身の罪を認めようとはしない。


 なのに、彼女は誰に言われるでもなく、自分で気づいて改めて、しかも謝罪までしている。


 並大抵の人間にはできないだろう。

 そんな子が俺の未来の妻だと思うと、感動がさらに深くなった。


「それに、子供の教育にもよくないし」


 ――ん?


 健全な育成ににつかわしくないワードに、俺の下半身に眠る暗黒龍がアップを始めた。


「将来、子供ができたとき、あたしがハニーを叩いていたら、子供も真似すると思うんだ」


 ――こ、子供ぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!?


「~~~~~~~~~~ッッッ!」


 子供の教育という、この世で最も健全で真面目で大切で【純】な悩みを吐露する茉美に、純粋悪の塊である俺の脳裏を、正反対のイメージが駆け抜けた。


 どんどんしおらしくなる茉美が秒単位で可愛くなる。

 肩を縮めることで左右から腕に挟まれた胸がサイズアップする。

 俺の中でY染色体由来の衝動が加速する。


「そそ、そうだな。子供の教育によくないよな。だからこれからは直していかないといけないけど、今までのことは全然気にしなくていいぞ」


「そ、そういうわけにはいかないわよ!」

「いやむしろ痛くされていることよりも気持ちよくしてもらっているほうが多いと思うし!」

「なぁっ!?」


 茉美は真っ赤にした顔を上げながら、両腕で大きな胸を抱き隠した。

 彼女の胸は巨乳の詩冴よりもなお大きいため、彼女が関節技や締め技をしかけてくるたび、堪能してしまっている。

 茉美の眉が八の字から逆八の字に機首を上げたことで、俺はガード態勢を取った。

 けれど、茉美は握った拳を振り上げることなく、むしろ下ろした。


「……か、確認だけど、さ……ハニーって、おっきいおっぱい好きなの?」

「へ?」


 かなり今さらな質問に、俺は一瞬呆けた。


「いいから、こ、答えなさい、よ」

「そ、そりゃ、好きだ、ぞ」


 けれど、はっきり口にするのは恥ずかしかった。


 巨乳大好きおっぱい国民ですなんて、人前で言える奴がいたらそいつは変態だ。つまり俺はちょっと変態だ。


 茉美の顔がさらに赤くなった。


「じゃあ、あたしのおっぱい……好き?」


 なんだこの羞恥プレイはと思うも、本人に聞かれたら答えないわけにはいかないだろう。


「す、好き……です」


 茉美は顔の赤みが、耳、首筋まで達して、とうとう、襟から覗く肌色のすべてが赤く染まった。

 目頭にちょっと涙を溜めながら苦悩するように瞳を逡巡させると、彼女は荒くなる息を整えるように大きく息を吐いた。

 大きな瞳と視線がかち合うと、彼女はFカップバストを突き出した。


「じゃあ、ね。これからはあたしが一回痛くするごとに、あたしのおっぱい、好きにしていいわよ」


「!!!!!!!!!!!!!?」


 ニュートンが木から落ちるリンゴを目にした時でも、これほどの感動はなかっただろう。


 アメリカ大陸を発見したコロンブスでさえも、これほどの感動は味わえなかっただろう。


 茉美が。

 あの、三又茉美が。

 自分のおっぱいを好きにしていいと言っている。

 この価値を理解できるサピエンスは、きっと俺だけだろう。詩冴はサピエンスに含めない。


「じゃあ早速、さっきの分」


 そう言って、茉美はベッドの上に身を乗り出してきた。

 俺の下半身では、暗黒龍の復活祭が始まった。

 内なる理性と衝動が100進100退の攻防を繰り広げながらも、


『桐葉とはもう裸も見てるし一緒に寝てるしこれぐらいよくね?』


 という悪魔のささやきで、俺の理性はあっさりと崩壊した。


★本作はカクヨムでは339話まで先行配信しています。

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