政党たちの炎上が止まらない!
その後、当然だが各政党からは猛抗議が入った。
が、犯罪は事実なので、抗議をしたことが逆に国民の信頼をさらに落とした。
青桜党に抗議した全ての政党は、絶賛炎上中だ。
翌、12月8日土曜日にも汚職議員50人を検挙。
続く日曜日には汚職を含む、職業とは関係のない買春や強制わいせつなどの罪を犯した議員たちを検挙した。
これで有力候補に潜む犯罪者は一掃された。
そして10日月曜日の放課後。
仕事終わりの俺は、真理愛たち警察班を異能省の講堂ではなく、とある撮影スタジオにテレポートさせた。
真理愛がいつもの無表情で無感動に成果報告をしてくれた。
「本日は予定通り、パワハラやセクハラ、モラハラ現場の映像を動画サイトに投稿しました」
「凄く悪い人はみんな捕まえたから今日はちょっと悪い人を捕まえたのです」
真理愛の隣で麻弥も誇らしげだ。
無表情無感動なのに誇らしげだとわかるのが不思議である。
「お疲れ。今日も大活躍だな」
国会乱闘で警察が出動しないように、政治家同士や身内、秘書などに対して行った暴力暴言でどの程度警察が動いてくれるかはわからない。
もしかすると警察上層部に圧力がかかり、逮捕までは至らないかもしれない。
それでも、イメージダウンは避けられないだろう。
「見てハニー、今日もニュースが大荒れだよ」
桐葉の展開したMR画面にはニュース一覧が並んでいる。
上から下まで逮捕された候補者関連がズラリだ。
「う~ん、流石にちょっとかわいそうかも」
数少ない良心である舞恋が苦笑を漏らした。
「何を言うっすか舞恋ちゃん! こいつらはハラスメントという名の犯罪に手を染めた悪党っすよ! 被害者の気持ちを考えれば終身刑でもいいくらいっす!」
「鏡を見て言え」
俺が鋭くツッコむと、守方がストップをかけた。
「そろそろ撮影始めるから静かにね」
俺らは一斉に口をつぐんだ。
そう、ここは撮影スタジオ。
そしてカメラを向けられているのは、椅子に座って対面する早百合さんと美稲だ。
今日は、選挙用動画の撮影日だ。
早百合さん単独の動画は事前に撮影済みのものを投稿したが、やはりここは顔の売れている美稲との対談が必要だろうと言うことになったのだ。
守方や美方、糸恋も手伝いに来てくれている。
動画が始まると、美稲は笑顔で挨拶をしてから、早百合さんに質問をした。
「ではさっそくですが早百合さん。青桜党の多くの候補者は、政治家経験のない、いわば素人ですよね? なのに新政党樹立なんてして、当選後は大丈夫なんですか?」
本来なら、対立候補が言うべき指摘を、あえて身内である美稲にさせる。
その上で、早百合さんは自信たっぷりに応対した。
「なるほど、確かにもっともな疑問だ。だが、考えてもみろ。現在、各大臣の中で、担当業界のプロがどれだけいる? そも、すでに日本政府は政治歴十年以上のベテランぞろいだが、国民の暮らしはまるで良くはならん。むしろ経済破綻をしたぐらいだ」
早百合さんの言う通りだ。
政治家に政治経験が必要だと言うのなら、政治経験豊富な今の政治家たちは、どうして日本の抱える問題を解決できないのか。
その理由を、早百合さんは握り拳を作って語る。
「政治家にとって、政治経験はほんの一要素に過ぎない。真に必要なのは、国を良くしたいという強い意思だ! 断言しよう。今の政府には、日本国を、そして国民の暮らしを良くしようという意思はない!」
凄い。言い切った。
「だから、出馬したのですか?」
「無論だ。国とは、土地とその土地に生きる民草のことだ。我が愛国心を体現する為には、政権を取るしかない。議席の過半数を取り、政治家の襟を正す! そして、税金を正しく使うのだ。血の税と書いて【血税】。ならば、その税で私腹を肥やす者などヒルも同然だ!」
戦国武将よろしく、タフな面持ちと屈強な声で断言する。
失言スレスレどころか、もはや失言である。
なのに、悪印象はまるでない。
むしろ、カッコよかった。
同じ言葉も、吐いた人で印象は大きく異なる。
これが人望、カリスマ性、いや、英雄力とでも言うべき王者の資質だ。
「それに、候補者の多くは各省庁の官僚や知識人だ。皆、各業界の実務を知るスペシャリストだ。約束しよう。我が青桜党が政権を取った暁には、その業界の専門家を各大臣に据え、省庁と密接な連携を行い、国政を執り行うと!」
ますますボルテージを上げてから、ふと、早百合さんはクールな笑みを浮かべた。
「それに、私を含め官僚ぞろいだからこそ、よく働くぞ。官僚はブラック労働だからな。なんてのは冗談だ。ははは」
自身も異能省の官僚である早百合さんが言うと、まるで冗談に聞こえない。
というか、早百合さんの仕事量が天井知らずで心配になってくる。
「それはいいですねぇ。一度国会議員にも庶民の気持ちを体感してもらいたいものです」
「信賞必罰! 停滞は許さない。国会での居眠りなど言語道断! 全ての政治家に働いて貰うぞ、国民の為になぁ!」
「はい、カット。二人とも良かったよ」
守方がカメラを止めると美稲が息を吐いてリラックスした。
早百合さんは不変だった。
「お疲れ美稲。はい飲み物、早百合さんもカッコ良かったですよ」
俺は二人の労をねぎらった。
「ありがとう、ハニー君」
「これは私の好きなコーヒー、覚えていてくれたのか?」
「もちろんですよ」
「助かる」
言って、缶コーヒーを口にすると、早百合さんの視線が動いた。
「む、他の政党からの連絡か……ほう」
早百合さんの顔が、感心したように目を見張った。
「どうしたんですか?」
「向こうから討論選挙番組を持ちかけてきた。生放送のな」
「何かの罠じゃないんですか?」
「面白いではないか。受けよう」
俺は訝しむも、早百合さんは即答だった。
「討論なら、今までも散々執り行って来たではないか。そして勝ってきた」
早百合さんは自信たっぷりだった。
「今回もそうならいいんですが……」
俺は、ちょっと不安だった。
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