政治家の待遇ってチート過ぎないか?
「もっとも、使い道が法律で決まっていないから、高級料亭の飲食代や議員の息子の飲食費に使われたこともあって問題になったね」
「「横領じゃん!」」
「しかも、国会議員は新幹線を含めて全線無料で乗れるJRパスが貰えるうえに、飛行機も地元と東京の往復が月四回までなら無料。なのに文書通信交通滞在費と言って、給料とは別に、郵便代と交通費が毎月一〇〇万円貰えるんだよ」
「マジで!?」
「マジすか!?」
二人の目が点になり、口を開けたまま固まった。
そこへ美稲が追い打ちをかけた。
「ちなみに、領収書の公開が義務付けられていないから何に使ったか分からないわ。過去にこのお金を投資運用に流用したことがバレて、問題になった議員もいるわね」
「うむ。くわえて海外視察の時も国がお金を出すことになっている。衆議院は180万円まで、参議院は上限なしで全額負担してくれる。しかもビジネスクラスだ」
「全額って、それじゃ海外視察の名目で海外旅行し放題じゃない!?」
「これでもマシになったのだぞ? 前はファーストクラスだったからな」
「待遇バグってんの!」
「落ち着け茉美、早百合さんだぞ」
「え、あ、すいません」
目上の人を前に、茉美は恐縮して言葉遣いを正した。
――普段は乱暴だけどこういうところ律儀だよな。あと落ち込んだ茉美かわいいな。
病院の続きをしたい欲求を抑える。
「気にするな。前から言っているだろう。私と貴君たちは四捨五入すれば同じく20歳。つまりはタメなのだ。気にせずタメ口で早百合ちゃんと呼ぶがいい」
何か期待を込めた眼差しを、俺は全力で無視した。
すると、桐葉が早百合さんの説明を引き継いだ。
「他にも議員宿舎は送迎バスもあって、こうした給料以外の公費も合わせると、国会議員一人あたり一億円の予算がかかっていると言われているよ」
「億!? 億!? 億って何よ億って!?」
茉美が復活した。
「そこ、強調するんだな……」
「万より上の位……一億ってそれいくらっすか?」
「一億だよ」
「何人いるの?」
「ん?」
くわっ、と茉美が吠えた。
「だから! その特権階級共は何人いるかって聞いてるのよ!」
「えーっと、早百合さん」
「衆参合わせて七〇七人だ。つまり、国会議員にかかるお金だけで、毎年七〇七億円もかかっている」
「それいくらよ!?」
「だから七〇七億円だって、今日のお前どうした茉美、テンションおかしいぞ」
「お、おかしくなんてないわよ!」
顔がちょっと赤い。
病院での一件を引きずっているならちょっと申し訳ない。
「ちなみに日本中の子供たちを魅了する永遠のヒーロー【こしあんマン】の作者の遺産が七〇〇億円と言われているぞ」
「日本一稼ぐ児童漫画家の遺産が毎年消えてるの!?」
「消えてるぞ。だから政治家が道徳に外れたことをしでかすと、こんな人間に一億も税金を使う意味があるのかって騒がれるんだ」
「待ちなさいよハニー。前に国会中継で寝ている人とか話を聞いていない人とか自分の管轄のデータを把握していない人とか見たけど、あいつらにも……」
「使っているな、税金」
「そんな連中に一億とかいらないでしょおおおおがぁあああああああああ!」
茉美が叫ぶ。
詩冴が背後から胸を揉む。
茉美の肘鉄が顔面にめり込む。
床でのたうち回るがみんな見ないふりをした。
詩冴はつまらなさそうに立ち上がった。
――みんな、詩冴の扱いに慣れてきたな。
「だから私はこうした優遇措置を撤廃したい。政治家は貴族でも特権階級でもない。ただ国政を担うという職業の一般人なのだからな」
早百合さんが言い切ると、周囲から拍手が湧きあがった。
「政治家ってこんなに優遇されていたんだな」
「マジで寄生虫じゃねぇか」
「そりゃ不正行為してでも政治家になろうとするわな」
「封建時代の貴族かよ」
「これが無くなったら、滅茶苦茶お金浮くよね」
「青桜党がんばれ」
「当然、あたしらはみんな青桜党に入れますよ」
「つか他に選択肢ないだろ」
「うちの選挙区からだと、●●候補だな」
俺も、思わずため息が漏れた。
「自分で自分たちの待遇を悪くする公約とか、何度聞いても凄いよな」
桐葉も頷いた。
「給料を減らすって言ったり、当選後に給料を一部辞退する人ならいるけどね。それに個人レベルならともかく、制度にここまで深く切り込んだ公約を政党全体が掲げるのは初めて見たよ」
それは決して俺の勘違いではないのは、みんなの反応を見れば一目瞭然だ。
「それで早百合さん、明日からも他の候補者を逮捕するんですか?」
「うむ。だが、やり過ぎは禁物だ。前にも説明したように、やりすぎると対抗勢力を粛正する独裁政権のイメージがつくからな」
しかし、と挟んで、早百合さんは厳格な声で告げた。
「もとより犯罪者は逮捕されるのが道理だ。政治家だから、選挙期間中だから捜査、逮捕しないというのはおかしい。パワハラやモラハラという名でオブラートに包まれた暴力傷害罪もしかりだ。犯罪を犯したならば、捕まるべきだ」
「早百合大臣のおっしゃる通りです。政治家だからと秘書や運転手に暴力暴言は許されません」
真理愛の背後で、茉美が挙動不審になった。
――安心しろ。いざとなったら俺がドMで喜んでいることにしてやるさ。
「ほんと、人の嫌がることをする奴って最低だよね」
と、日々強制わいせつの罪を重ねる桐葉も同意した。
俺はアンニュイな気分になった。




