殺しなさいよぉおお!(赤面)
放課後。
いつも通り異能省でせっせと労働に勤しんでいた。
美稲はダイヤモンド半導体の材料であるダイヤモンドパーツを無限に作り続ける。
6G対応の新型デバイスの需要は国内だけで1億台。全世界で60億台以上。
ダイヤモンド半導体はいくらあっても足りやしない。
詩冴は、日本中の特定外来生成物の駆逐が済んだので、太平洋上空を飛行機で飛びながら一帯の魚を日本近海へと誘導した。
俺は1000人以上の超能力者たちをそれぞれの仕事場へテレポートさせ、桐葉は俺のボディーガード。
みんなをテレポートさせ終わると、俺は茉美と一緒に国内外から集まった治療不可能な重病患者の治療に当たる。
俺が患者の体内から【毒素】【異物】【ウィルス】【ガン細胞】【腫瘍】をアポートで綺麗に抜き取ってから、茉美が患部をヒーリングで再生させる。
余命数か月と言われた90歳過ぎの大富豪は大喜びで俺と茉美に感謝してくれた。
世界中の様々な言語で、あるいはたどたどしいカタコトの日本語で「ありがとう」と言われると、甘くてくすぐったい嬉しさと達成感があった。
「今日もまた、随分と色々貰ったな」
「そうね……」
東京の大学病院の一室で、俺と茉美はテーブルいっぱいの高価な贈り物を前に頬を引き攣らせていた。
「あたし、宝石とか貴金属って趣味じゃないのよね」
「まぁ、気持ちは嬉しいけどな。それだけ俺らを評価してくれているってことだろ。あ……」
「あって、そっちも?」
「ああ。今まで治療したセレブたちから結婚式や誕生パーティーの招待状メールがまた届いたけど茉美もか」
「当然。できれば参加したいんだけど、そんな時間ないわよ。年度内に中学三年までの勉強終わらせて、二年生になったら高校一年生と二年生の勉強を合わせて一年で終わらせるのよ。放課後は異能省での仕事もあるし、今更だけどあたしらって過密スケジュール過ぎよね」
「ほんとだな」
「その隙間を縫って桐葉たちとイチャラブしているあんたを尊敬するわよホント」
胸にグサリとくる一言に、俺は閉口した。
「そ、そういうこと言うなよ……」
「おかげであたしに全然まわってこないし……」
「え?」
俺が顔を上げると、茉美の顔がボンッと赤くなった。
「いやっ、いまのはちがっ、くないけど別にそういうことしたいわけだけどやれって意味じゃなくて! くっ! 殺しなさいよぉ!」
赤面涙目で茉美が叫んだ。
病院でなんてことを口走るんだと呆れつつも、俺は反省した。
「ごめんな。気づけなくて」
言って、俺は茉美を優しく抱き寄せた。
「ッッ!?」
腕の中で茉美は体をピンと張って硬直させ、みるみる体温をあげながらふにゃりと脱力していく。
彼女が体重を預けてくると、量感たっぷりの双級がぐんにゅりと俺の胸板に押し付けられて気持ちよかった。
「茉美ってちょっと乱暴だけど、なんだかんだで面倒見が良くて優しくて、すごく可愛い女の子だよな。ずっと一緒にいたいぞ」
「ッッ!」
照れ隠しとばかりに、茉美は俺を睨みながら拳を振り上げた。
でも、すぐにゆっくりと拳を下ろして、また俺に体重を預けてくれた。
「こ、このことはみんなには内緒だからね」
「わかってるよ。じゃあ、まずは真っ赤な顔を治さないとな。でないとすぐにバレちゃうぞ」
「なら離しなさいよ」
「離していいのか?」
「……ばかぁ」
猫が甘えるような囁きで耳元が幸せだった。
茉美は麻弥とはまた別ベクトルで、ずっと膝の上で愛で続けたくなる子だった。
でも、そんな甘々な時間は、視界に映り込んだ緊急ニュースで消し飛んだ。
【日の丸党候補者、逮捕者多数】
赤面から一転、茉美は軽く青ざめながら苦笑いを浮かべた。
「うわぁ、とうとう始まったわね」
「あぁ、ついに終焉が始まったぜ」
俺も苦笑いを浮かべるも、今度の今度も、やっぱり相手に同情しなかった。
★★★本作はカクヨムでは325話まで先行配信しています。




