GカップとHカップ合わせて5200グラムなり!
深いまどろみの中から徐々に意識が覚醒していく中。
まず、最初に目覚めた五感は、触覚だった。
温かくやわらかい幸せの重量感が心地よい。
それから、何かいい匂いがする。
花の香りでも、果物の香りでもない。
だけど、とてもいい匂い。
――!? これは桐葉の匂いと感触だ!
いい加減俺も慣れてきた。
はいはいわかっていますよ。
桐葉が眠っているんでしょう?
そして目を開けたら桐葉と目が合って「おはようハニー」
俺だっていつまでも毎朝フォオオオでドキュンしたりしないんだぞ。
今日こそはゆっくりと目を開けてからクールに「おはよう桐葉」とクールに言ってやる。
俺は右半身を支配する感触に向けて体を転がそうとして、動けなかった。
――馬鹿な。左半身にのしかかるこの重みは!?
徐々に意識が覚醒していくと、五感も、触覚も覚醒していく。
いま、俺の体は左右から別の重量感に包まれていた。
肌寒い初冬には嬉しい温もりだが、いったい誰が?
俺は感覚を研ぎ澄まし、冷静に推理した。
この重量感、麻弥じゃあない。
真理愛でもないし、彼女はミニハニーさんと名付けたカッパのぬいぐるみ(解せぬ)を抱いて寝ているはずだ。
詩冴もボリューム不足だ。
茉美は……惜しいけど違うな。
左半身を包み込む抜群の低反発力と重量感は、桐葉に比肩しうる逸材だ。
となると……。
「ねぇ桐葉さんこれ、ハニー君、起きているよね?」
「起きているね。さっきからピクピク痙攣しているのが伝わってくるもん」
左右からぷにっと頬を突かれた。
目を開けても天井は見えない。
俺の視界を覆うように、桐葉と美稲の美貌が世界を左右に分けていた。
「ふぉぉおおおおおお!」ドキュン!
鼻の奥に血の匂いが広がった。
桐葉と美稲。
日本が誇る二大美女の寝起きドッキリに、理性がチンパンジー並の寝起き男子たる俺は大興奮だった。
下半身に眠る暗黒龍の封印は解除済みだ。
「聞いた美稲? ふぉーだって」
「どうしよう、ちょっとこれ、楽しいかもしれない」
――やめて美稲。お前まで暗黒面に堕ちないで! お前は数少ない良心枠なんだから!
桐葉のHカップが右腕周辺を、美稲のGカップが左腕周辺をずっしりと下敷きにしている。
その殺人的な圧力に、邪悪な妄想が止まらない。
頭の中で詩冴が「Gカップの重さは左右合わせて2200グラム、Hカップは3000グラムっす♪」と余計な情報を吹き込んでくる。
――やめろ。人の頭の中にまで出てくるな!
日々、詩冴が仕入れてくるエロ雑学のせいで、俺の妄想力はメキメキと鍛えられているのだ。
「ちなみに奥井ハニー育雄、Jカップの重さは5000グラムだ!」
――早百合さんまで出てくるなぁ!
俺が誰かにSOSを送ると、廊下からダダダダダッ、と荒々しい足音が響いてきた。
「ちょっとハニーあんた! まさか美稲を連れ込んであぁああああああああああああ遅かったぁあああああああああああああああ!?」
頭を抱えて顔を真っ赤にしながら茉美が悲鳴を上げた。
ちなみに詩冴いわく、Fカップの重さは1600グラムらしいけど、茉美はもっとある気がする。
「ハニー! そこになおりなさい! 今日という今日はあたしのヒーリングデスブロウであんたの煩悩を消し飛ばしてやるわ!」
「なんて矛盾した技名だ!」
逃げたいけど身じろぎすると左右の豊乳がモチモチして動けない。
だがデスブロウのカウントダウンは秒読み。
一体どうすれば!?
俺が独りで孤独に懊悩としていると、美稲が茉美へ手を伸ばした。
「茉美さんも一緒に寝る?」
「え?」
茉美の怒り顔と歩みが止まった。
「左右は私たちが使っているけど、今ならまだハニー君の上というか、正面が空いているよ?」
美稲の優しい手が、俺の胸板とお腹にぽんぽんと触れてきた。くすぐったくて気持ちいい。
「そうそう。ハニーの上、空いているよ?」
艶やかな声音で、桐葉も誘うように五指を滑らかに動かした。
茉美は拳を緩めて息を荒らげながら、じっと、食い入るように、まじまじと俺の胸板を見下ろしながら、深く何かと葛藤するように瞳を震わせた。
いま、彼女の中で文明人としての矜持と本能的衝動がが、百進百退の攻防を繰り広げているに違いない。
そして、血を血で洗う仁義なき戦いの果て、薄氷の勝利を収めたのは……。
「アッフゥ!」
茉美は自分のお腹にデスブロウを叩き込み、床に倒れた。
白目を剥いて倒れる彼女の顔には、一片以上の悔いがあった。
「茉美ってムッツリだよね? ふふ」
「茉美さんも素直になればいいのに」
――ありがとう茉美。お前が来てくれなかったら俺の幸せな家族計画はきっとブチ壊されていたよ。
流石に、この状況で桐葉と美稲にいかがわしいことをしようとは思わない。
俺は、偉大な女戦士茉美に深い黙とうを捧げた。
――黙とう……………………………………………………………………………。
◆
「あれ、今日は舞恋と麻弥もいるんだ?」
回復した茉美がリビングに顔を出すと、テーブルには同居していない舞恋と麻弥の姿もあった。
「麻弥がみんなで朝ご飯食べようって言うから」
「ハニーのテレポートで呼んでもらったのです」
何故か麻弥が得意げだった。でも可愛い。
茉美も食卓テーブルにつくと、俺らは朝食を食べながらテレビを入れた。
テレビ、とは言っても、昔のように液晶テレビやプラズマテレビ、有機ELの物理ディスプレイのことじゃない。
今、【テレビ】と言えばテレビ局が流している動画、という意味で使われる。
視聴には、MR画面が使われる。
テレビを年代物のテレビジョンで見るのは、高齢者だけだろう。
俺はMR画面を自分以外にも見える可視モードにして、70インチサイズで壁際に展開した。
すると、朝のニュースで総理大臣が衆議院を解散総選挙すると宣言した。
「選挙、か。つってもどうせ与党は変わらないんだろうな」
「戦後95年、ほとんど与党は動かずじまいだからね」
美稲の言葉を引き継ぐように、桐葉がため息を吐いた。
「日本を経済破綻させたやらかしを考えれば与党交代が妥当だけど、ボクらが解決しちゃったからね」
「早百合様は、現在の与党政権下で異能大臣を務めております。早百合大臣が与党傘下にいる以上、ハニーさんたちの功績は巡り巡って現総理大臣の功績と見る人もいるでしょう」
ニュースに映る総理は、今回の経済破綻を再生させたように、日本がかかえる問題は与党が全て解決してみせると声高に叫んでいた。
「はんっ、自分の不始末を他人に拭かせて自分の功績気取りってダブルスタンダードより悪いわね! ハニー、あいつ殴っていい?」
「殴るな殴るな」
「茉美、焼いた食パンで舌を切ったから直して欲しいのです」
麻弥がべーっと舌を出すと、中央部分に赤い筋が入っていた。
「それならシサエが舐めて治しぶぼぁっ――」
詩冴の顔面に裏拳をブチ込んでから、茉美は麻弥の舌に指先を触れさせてヒーリングをかけた。
「麻弥、わたしの食パン焼いていないからふかふかだよ。交換しよっか?」
「ありがとうなのです舞恋」
――なんだろう、麻弥を眺めていると総理への怒りが鎮まっていくのを感じる。心がとても清らかだ。
「平和でいいね、ハニー」
俺と同じ気持ちらしい桐葉が、花がほころぶように咲ってくれた。
その笑みに、俺は家族を持つ幸せを深く味わった。
桐葉、美稲、詩冴、真理愛、茉美と暮らして、時にはこうして麻弥と舞恋も一緒に食事をする。
なんて幸せな光景だろう。
けれど、だからこそ食事を再開すると選挙のことが気になった。
前回、俺は無能な総理大臣のせいで愛する家族の一人である美稲を失いかけた。
あんな想いは二度としたくない。
今の総理が総理である限り、その不安はつきまとうのだ。
――いっそ、早百合さんが総理をしてくれればいいのに。
そう願わずにはいられなかった。
★本作はカクヨムでは303話【じゃあボクとえっちなことしたい?】まで先行配信しています。




