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ボルケーノ貴美美方様

「なっ!? なぁっ!? き、貴様、なんで!?」


 驚愕に目を見開き、後ろにたたらを踏む大使に、美方は過熱した咆哮を上げた。


「ワタクシは世界最強の超能力者! 万物を灰にする灼熱紅蓮のマグマ使い! ボルケーノ貴美美方様でしてよ! ワタクシこそ全ての超能力者の頂点に君臨せし超能力クイーン! 命ある限り、ワタクシのキングダムで超能力を原因に不幸になる生徒なんて、一人も認めませんわ!」


 太陽のように眩しく、神々しい覇気に、俺は眠気を忘れて思わず見入ってしまった。


 伊達や酔狂ではない。


 彼女こそは、真に王者の資質を持って生まれた英傑の器だった。


「ワタクシの学園の生徒を、いえ、ワタクシの親友を、返しなさい!」


 背中を噴火させて美方は、ジェット加速しながら、その手にガスバーナーのような炎の爪を形成した。


 大使たちが恐怖に表情を強張らせた。


 刹那、美方は大使たちの間をすり抜けて背後の壁に激突し、動かなくなる。


 大使たちは無傷だ。


 パワードスーツのコックピットを覆う防風ガラスの一部がオレンジ色に変色しているのが、唯一残せた爪痕だった。


「はははっ! 残念だったなメス属民! この防風の耐熱温度は3000度。ナパームの直撃にも耐えるのだ!」


 大使が嘲笑している間に、変色した部位が重力に負けてひしゃげ始めた。


「焼け死ぬ覚悟の特攻精神はいやはや見事。これが日本のカミカゼか? だが知っているかね? アメリカでは日本の特攻兵器のことを【馬鹿爆弾】と呼んでいるらしいぞ。まさに島猿らしい、劣等精神だなぁ! あははははははは!」


 ボディーガードたちが追従して哄笑すると、ついに垂れ下がったガラスが限界に達して、ぷつっと小さな穴が空いた。


 ――美方……。


 同時に、俺はありったけの熱情を込めて立ち上がり叫んだ。


「お前! 最高だぜ!」

「何!? 貴様!?」

「美稲は返してもらうぞ! テレポートォ!」


 暴風に空いた穴を通じてパイロットを対象に指定、パイロットは下水道に叩き込んだ。


 続けて、二人のボディーガードも下水道に叩き込む。


「な!? くそ! 何故急に!?」

「美方の猿真似だよ!」


 燃え盛る右袖を突き出すと、大使は唖然と口を開けて固まった。


 美方の燃やした絨毯の火を服に移して、俺も自分を燃やしたのだ。


 痛い。


 あまりにも痛い。


 だけど腕から手や肘、そして肩に登って来る激痛が、今の俺には福音だった。


 激痛が最高の気つけとなり、俺の意識と闘争心を支えてくれる。


 本来なら精神力を乱し超能力の使用を阻む苦痛を煮え滾るような怒りと意思力で従え、むしろ、痛みに比例して、いくらでも超能力を使えそうな気分だった。


「ぐぅっ、この属民が!」


 大使は怒りに任せて銃を構えて引き金を引いた。


 だが、銀色の麻酔拳銃はカチカチと音を鳴らすばかりだった。


「そんな!?」

「テメェ馬鹿か! さっき早百合さんに全部使ったの忘れてんのか!?」


 間接的に、早百合さんの奮闘が俺を救ったわけだ。


 その奇跡と早百合さんへの感謝を込めて、俺は全力で超能力を発動させた。


「外交特権のあるお前は逮捕されない! 法律はお前を守ってくれる! でもなぁ! 俺も日本の法律で守られているんだよ! 【正当防衛】っていうなぁ!」


 パワードスーツに乗り込もうとする大使を、下水道にテレポートさせた。


 銃を突き付けられ、パワードスーツに乗り込もうとした大使をテレポートさせたのだ。だれも文句は言えないだろう。


 最後に、俺はみんなを病院にテレポートさせ、俺自身は美稲の囚われているカプセルに覆いかぶさった。


 カプセルの中から、空ろな表情の美稲が俺に手を伸ばしてくれる。


「大丈夫だぞ、美稲」


 右腕が燃える痛みに耐えながら、俺はせいいっぱいの笑顔を作ると、床下にゲートを開いた。


 俺と美稲は、カプセルとパワードスーツごと、病院の駐車場に落ちた。



・今回短めですいません。この後はまったく別パートの生徒会長選挙パートになるので、キリのいいところで分けるとここになってしまいました。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 以前、本作について、超能力に目覚めた少年少女が異世界の敵と戦う話だと思って読んだら全然違った。というコメントがあったので。

 もしもスクール下克上がバトルモノだったら ハニー編


 東京の青い空が崩れ落ち、漆黒の孔が広がった。

 黑い、クロい、くろい。宇宙よりもなお暗い、真正の闇。無。

 そこから這い出す異形の怪物たちに、東京都民が誰もが漆黒を仰ぎ見ながら言葉を失った。

 地獄へと侵食される東京の空に、一人の男が降り立った。

 誤記ではない。本当に、空に立っているのだ。

 黑い。

 髪も、服装も、まとうオーラも、吐き出す息さえも黒いのではないかと思わせる、黒い男。

 頭から生えた二本のねじくれたツノが、男の禍々しさを際立たせた。

「フハハハ! 我が名は魔王サタンなり! 害虫人類諸君に告げる! 死ねぇ!」

 怪物たち一斉に絶叫した。孔から上半身を這い出させ、両手の爪や触手を地上の人類に伸ばす。

 誰もが思った。自分たちは助からない。あんなもの、自衛隊ですら叶うわけがないと。

「怪物の脳味噌と心臓を火山のマグマの中にテレポート」

 怪物が一斉に動かなくなった。

 サタンは頭上の部下たちを見上げて、まばたきをした。

「…………へ? え? ん? な、なんだ? 何が起こった? ええい撤退だ!」

 こうして、サタンと怪物の軍勢は異世界に帰った。

 東京は救われたが、それがたった一人の男子高校生の手によるものであることは誰も知らなかった。                 完

ハニー「本作がバトルものじゃなくてよかったなぁ……」




★本作はカクヨムでは302話まで先行配信しています。

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