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救出作戦開始!

「それで、内峰女史はいつ、引き渡してくれますかな?」

「そのことなのだが、貴国の治安回復と我が国の世論が納得するまでは無理ですね。逆に尋ねますが、現在OU国内の情勢はどのように?」


 早百合さんの鋭い眼光を受けながら、大使は余裕を崩さなかった。


「おやおや、一国の大臣ともあろうものが情報リテラシーの低いことだ。あれはメディアが大袈裟に報道しているだけですよ。いつの時代も反政府グループは存在するものです。それに、我が国が用意した超能力者管理委員会本部の施設は安全そのもの。ご希望でしたら、我が国へ視察へ来てもよろしいですよ?」


 そうしてそのまま帰してはくれないのだろうと、俺は腹の中で悪態をついた。


「いや、遠慮しよう。それよりも信頼回復が最優先だ」


 早百合さんの遠回しの指摘に、大使は見下げ果てるように大袈裟な溜息をついた。


「我が国の汚職報道を真に受けているのですか? やれやれ、これだから若い人は。やはり、貴方のような若輩者に大臣は早かったのでは?」


 年齢マウントを取りながら、大使はなおも舌を回した。


「あれらは全て捏造です。そもそも、国体を貶めるような、反OU派に都合の良い情報が都合よく出るわけもない。それこそが捏造の証拠です。もっとも」


 大使の視線が鋭さを増した。


「日本の有馬真理愛なら可能なのでしょうが?」


 だが、早百合さんは揺るがなかった。


「それは無理ですよ。念写は【事実】を映し出す能力であり、映像を作る能力ではありません。故に貴君たちの汚職が嘘であるなら真理愛には絶対に念写できません」


 さしもの大使も、これには鼻にシワを集め、早百合さんを睨み返すことしかできなかった。


 皮肉を利かせた外交戦の空気は独特の重さがあって、俺は戦々恐々とした。


 ――学生同士の口喧嘩とは緊張感が違うな。


 桐葉と糸恋に、早くして欲しいと願うと、不意に大使が悪意のある笑みを作った。


「ところで、秘書からは七名と聞いているのですが?」

「二名はお手洗いを借りているところですが、大使館は広い。迷っているのかもしれませんね。様子を見に行ってもよろしいですか?」

「いや、それには及びませんよ」


 大使が歯を見せた途端、部屋がノックされた。


「どうやら、お連れ様が到着したようですな」


 俺はまさかと思い振り返った。

 すると、応接室のドアが開いて桐葉と糸恋が秘書さんと共に現れた。

 ただし、秘書さんは青ざめ、桐葉の腕には気を失った幼女が眠っている。


「ただいまハニー。帰りに何故か美稲の妹を見つけたよ」

「美見!」


 美稲が喜びの声を上げて、すぐに駆け寄った。


「何ッ!? き、貴様らどうやって!?」

「あ~、この子の捕まっとった部屋はねぇ、なんや知らんけど、ねんねしている人がぎょうさんおったわぁ」


 眠り毒を使ったであろう糸恋は、しらじらしく笑った。

 大使とボディーガードに動揺が走るも、桐葉は構わず舌を回した。


「で、旅行鞄の中から子供匂いがするから変だと思って開けたら、なんでか行方不明中の内峰美見ちゃんがいたんだよねぇ」


 桐葉が勝者の笑みを浮かべると、早百合さんが攻撃を引き継いだ。


「これはおかしいですねぇ。我が国の行方不明者が何故、それも旅行鞄に詰め込まれた状態で大使館に? じっくりと説明していただきましょうか?」

「し、知らん! 私は無関係だ!」

「見苦しいな。少女をサイコメトリーすれば言い逃れはできないぞ?」


 早百合さんが声にドスを利かせると、大使は焦燥感からか表情を硬くした。

 けれど、大使はまるで開き直ったように鼻で笑った。


「はっ! だからどうした?」


 強気に姿勢を正して、一歩前に進み出てきた。


「大使である私は【外交特権】で逮捕されない。私は法に守られているのだ!」

「な、なんですの?」


 美方が混乱すると、守方が答えを求めるように早百合さんに目配せをした。

 守方の視線に、早百合さんは憎らし気に声を濁らせた。


「残念だが事実だ。外交官は日本にいる間、逮捕されることがない」


 あまりに理不尽な特権に、俺も黙ってはいられなかった。


「なんでそんなものがあるんですか!?」

「ひとつは外交使節は国の代表であり国は他国の法律に支配されないという考え方で、もうひとつは外交使節の業務を効率的に行うためだ。当然、国家を代表する外交使節が犯罪をするわけがないという信頼の上に成り立っている法律だ」


 言われてみれば、日本生活に不慣れな外国人が習慣の違いから軽犯罪に触れてしまい、そのたびに警察へ出頭していたら、業務に支障をきたす。


 早い話が「外人さんだから仕方ない」を明文化したものなのだろう。


「だが、昨今では外交特権に胡坐をかいて、日本国内で犯罪に走る外交官があとを絶たないのが実情だ。無論、土下座外交が常態化している日本政府に対応する気などない」

「なんですのそのゴミみたいな特権は!」

「姉さん、状況考えて」


「そういうわけだ。外交特権を持つ私は日本の法に縛られない。いや、むしろ日本の法が私を守ってくれるのだ! そして、大使館の敷地内はOUの領土であることを忘れるな」


 ――は? こいつ何を言ってッ――。


★本作はカクヨムでは302話まで先行配信しています。

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