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美稲を救う奇策!

 OU国内にある超能力者管理委員会本部へ、美稲を引き渡すよう要求された総理は最初、あからさまに渋っていた。


 あれだけ馬鹿にしていた6Gを持ち出す口ぶりから、6G社会を牽引する世界のリーダー国の総理になりたいという欲望が見え隠れしている。


 だが、OU大使がノーベル平和賞に総理を推薦すると申し出た途端、総理は顔色を変えた。


 何をもってして6G社会と呼ぶか基準がない。


 後世の人が、総理の任期が終わった後の時代を6G社会の始まりと解釈したら、総理の名前は残らない。


 何よりも、世間は内峰美稲個人を6G社会の立役者と解釈するだろう。


 一方で、ノーベル平和賞は解釈もへったくれもない。


 公式記録で、総理個人の名前が永遠に刻まれるのだ。


 ノーベル平和賞を手にした総理大臣となれば、アメリカからの沖縄返還を成し遂げ【20世紀生まれ初の総理】【人事の佐藤】【政界の団十郎】【早耳の栄作】など数々の異名を持つ昭和の偉人、佐藤栄作総理以来、実に66年ぶりの快挙になる。


 そう口説かれた総理は、頬をニヤけさせて、鼻息を荒くした。


 早百合さんに吐き捨てたように、元から総理はデジタル嫌いのアナログ人間だ。


 超デジタル社会の総理という抽象的なものよりも、ノーベル平和賞受賞者、というわかりやすくて権威に溢れたモノに惹かれるのは、至極当然なのだろう。


 

 総理が、美稲をOUに売り飛ばした理由はわかった。

 けれど、これは無理だと俺は絶望した。


「総理は名誉に目がくらんで盲目になっている。これじゃ説得できないぞ」

「え? そうなの!?」


 よくわかっていない舞恋に、俺は説明した。


「総理はノーベル賞受賞者になることで頭がいっぱいだ。美稲をOUに引き渡すことを正当化するために、あらゆる曲解拡大解釈を駆使してイチャモンをつけてくるだけだ。実際、6G社会にもケチをつけていただろ?」


「あぅ……」

「それに、もしも総理を説得で来ても美稲の言う通り、もう契約は終わっている。総理がOUに契約の撤回を申し出ても、OUは了解しないだろうな」

「ぐぅっ! 万策尽きたっす!」

「諦めるな!」


 詩冴が頭を抱えると、早百合さんが激を飛ばしてきた。


「万策が尽きたならば、一万一個目の策を考える! それが戦いというものだ! 白旗を振っても、勝負には勝てん!」


 早百合さんの気高い意気込みに、俺は再び、挫けかけた心を奮い立たせた。

 やっぱり、早百合さんは将の器だ。


 生徒会長選挙の時に、俺はリーダーに必要なのは人気と部下を回す能力だと言った。


 でも、実際にはもう一つある。

 それが、皆の士気を上げる腕だ。


 少なくとも、早百合さんがリーダーの組織なら、部下たちの心が折れることはないだろう。

 俺も、早百合さんがいれば100年は戦える気がしてくる。


「ですね。じゃあ俺もちょっと頑張りますよ。えーっと、とにかく総理をどうにかするのは無理だから……」

「総理がダメなら誰を殺せば、血の制裁を誰に加えればいいんですの!?」

「姉さん、とりあえずモラルの勉強をしようか?」


 美方の叫びに、俺はぴんとくるものがあった。


「待て、美方の言う通りだ。総理が駄目なら誰をどうすればいいんだ?」


 みんなの視線が、俺に集まった。

 次の瞬間、早百合さんもハッとしてくちびるに触れた。


「そうか、我らの目的は総理を説得することではない。美稲をOUへ引き渡さない事だ。総理の説得は、必ずしも必要ではない」

「はい。OUのほうから断る、あるいは美稲を引き渡さなくてもいい合法的な理由があれば、いいはずです」


 生徒会選挙の時と同じだ。

 目的をはっきりさせる。

 早百合さんの言う通り、俺らの目的は総理を倒すことじゃない。美稲のOU行きを中止にすることだ。


「OUを説得するのは難易度が高いんで、合法的に美稲のOU行きを回避する方法、たとえば、OUが美稲を受け入れられなくなるようなことってなんでしょうか?」

「受け入れ予定の超能力者管理委員会本部の施設が火事、天災などで失われる、あるいは……」


 桐葉が顔を上げた。


「治安の悪化!」


 早百合さんが指を鳴らした。


「それだ。OUがテロや内紛で治安が悪化すれば、美稲の生命保護の名目で、OU行きを中止できるだろう」


 その案に、俺は大きく賛同した。


「それで行きましょう! ただ、内紛が起きたら関係ないOU国民が犠牲になるし、犯罪行為は俺らがあとで裁かれかねません。ここは、OUにツケを払わせましょう」


「反政府組織を刺激した、デモ活動だな」

「なら、私の出番ですね」


 膝の上に麻弥を抱きしめながら、真理愛がキュピーンと鋭いオーラを出した。

 無表情で無感動な声なのに、やる気に溢れていた。


「美稲さんの引き渡しは四日後、11月3日の土曜日。それまでに、出来得る限りの情報を念写します」


「悪いな真理愛。いつも大事なところはお前頼みで。けどOUのスキャンダル、バラまいてくれるか?」


「お任せください、麻弥さんの探知と舞恋さんのサイコメトリーを合わせれば、私にわからないことなどありません」


「任せるのです」

「わたしも頑張るよ」


 むふん、と息を吐く麻弥と一緒に舞恋が意気込むと、美稲が口を挟んできた。


「待って。そんなことをしたら、また真理愛さんが狙われるわ。ただでさえ、真理愛さんの存在は各方面から警戒されているんだから」


 リビングの空気が、僅かに静まった。


 美稲の言う通りだ。


 この作戦が成功すれば、それこそ、真理愛の力は大国をも脅かすと証明することになる。


 そうなれば、真理愛の存在は全世界から危険視されることになる。


 だけど、俺にはある考えがあった。


「なら、情報の出どころが真理愛だってわからなければいいんだろ?」


 俺の不敵な笑みに、美稲は頭上に疑問符を浮かべた。



★本作はカクヨムでは301話まで先行配信しています。

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