総理を潰そう会議!
仕事終わり。
俺、桐葉、美稲、詩冴、真理愛、麻弥、舞恋、茉美、早百合さん、美方、守方、琴石、12人のフルメンバーで、うちのリビングに集まった。
桐葉のハチミツ入り紅茶を手に、みな、怒り心頭に発していた。
「なんやのあのクソジジ、あれが総理のすることかいな!?」
「凡民を導くべき最高級国民が愚民同然のクズとは! あのクズには血の制裁が必要ですわ!」
「気持ちの上では、姉さんに同意だね。あれは酷すぎる」
「ハニー、ボクも、あの雑魚は生かしておきたくないよ」
「ハニー! あのクズ総理をここにテレポートするのよ! あたしのヒーリング千本ノックで嫌でも言うことを聞かせてやるわ!」
「全シサエが怒っているっす! 害虫の海に溺れさせてやるっす!」
「まぁ待て、そうことを急くな」
手を突き出して、皆の怒りを制してから早百合さんは真摯な面持ちで美稲に向き直った。
「内峰美稲。こんなことになって申し訳なく思う。四月に、私が貴君を国家再生プロジェクトに誘わなければこんなことにはならなかったのに」
早百合さんは深く、誠意をもって美稲に頭を下げた。
早百合さんは悪くない。彼女が頭を下げる必要はないのに、真面目な人だ。
「だが安心してくれ! 貴君は、私が命にかえても必ず助ける! 貴君を巻き込んだ責任は、私が取る! それこそが、上に立つ者の使命だ!」
腰を曲げたまま、けれど顔だけはわずかに上げて、早百合さんは毅然とした態度で美稲へ弁明した。
その姿に、俺は少し感動すら覚えた。
――本当に、これぐらいカッコイイ大人ばかりだといいんだけどな。
今まで、俺がいじめられても見て見ぬふりをしてきた教師たちと比較しながら、俺は早百合さんの助けになりたいと感じた。
「頭を上げてください。早百合さんが頭を下げることじゃないですよ」
俺が思っていたのと同じことを言いながら、美稲は早百合さんに頭を上げさせた。
「私がプロジェクトに参加しなければ、日本は経済再生できませんでした。そうなったらきっと大勢の日本人が犠牲になったはずです。だから私は、早百合さんには感謝しているんですよ」
「……ありがとう」
背筋を伸ばした早百合さんは、膝の上で強く拳を固めた。
「それよりも許せないのは総理です」
優し気な表情をあらためて、美稲は強く、凛と瞳を輝かせた。
「早百合さんは私たちを使い、立派に日本を再生させました。今回の全責任は総理にあります。あの総理個人が、私を売り飛ばしたんです」
「ああ、その通りだ! 奴が売ったこの喧嘩、買い占めさせてもらうぞ!」
美稲と早百合さんが笑みを交えると、絶望的な状況なのに、頼もしさしかなかった。ゾクリと、背筋が武者震いを覚えた。
「マリアちゃん! あのゴミ総理のスキャンダルを全てバラまくっす!」
流石の俺も同感だ。
今すぐにでも、あの総理を失脚させなくてはいけない。
けれど、意外な人物が待ったをかけた。
「それは無意味だよ」
当事者の美稲が、厳格な表情で、ティーカップをソーサーに置いた。
「国を代表する総理が約束した以上、それは国家間の契約よ。その総理が失脚しても、契約は履行されるわ」
美稲の理性的な説明に、詩冴は口をつぐみ、舞恋はしょんぼりと肩を落とした。
「そんな……でも、それじゃあ美稲は……」
「くそ、八方塞がりか」
「諦めないでハニーくん」
舞恋はテーブルに身を乗り出して、俺を励ましてくれた。
「今からでも総理さんを説得して、OUと交渉し直してもらおうよ」
その必死な表情に、俺は止まりかけた頭を働かせた。
――そうだ。ここで諦めてどうする。諦めても美稲は救えない。
美稲も、桐葉と同じだ。
美稲は、もう一生分苦しんだ。
もう、彼女は幸せになっていいしなるべきだ。
まだ桐葉と会う前、プロジェクトに参加したばかりの時、俺は美稲に救われた。
昔の俺は坂東たちグループにいじめられて、でも誰も助けてくれなくて、他人なんて嫌いでボッチをやっていた。
だけどプロジェクトに参加してからは、美稲の優しさ、聡明さ、分け隔てない公平さが、世の中にはこんなにいい奴もいるんだと思わせてくれた。
もしも、桐葉に出会っていなかったら、俺はきっと美稲に恋をしていただろう。
それに、想い人じゃなくても、今は一緒に暮らす家族だ。
俺にとって、内峰美稲は、どんなことがあっても、絶対に守り切りたい存在だ。
「総理を説得……総理が美稲を引き渡さないメリット、あるいは引き渡すことでのデメリット……それを説明できれば協力させることもできるか……」
そこへ、虚空に視線を走らせていた真理愛が声を上げた。
「わかりました。どうやらこれが、総理大臣が美稲さんをOUに引き渡したい理由のようです」
真理愛が俺らみんなに見せてくれたMR画面には、総理がOU大使館の大使と、密談をしているシーンだった。
★本作はカクヨムでは300話まで先行配信しています。




