ヒロインも成長するのです
お昼休み。
俺らは食堂の長テーブルをひとつを占拠して、いつものメンバーに美方と守方と琴石を加えた十一人で昼食を取っていた。
俺の左隣に座る桐葉は、女性陣とおしゃべりに興じている。
俺が学校を休んでいた半月が、いい刺激になったのかもしれない。俺だけにべったり、という感じが減った。
――その分、家でのべったりが増えたけど……。それに変わったと言えば。
視線の先で、美方は美稲と楽しそうに喋っている。
その隣に、守方の姿は無い。
守方はいま、俺の目の前に座っている。
「なんか、お前が隣にいないと違和感があるな」
「いい傾向だよ。ボクへの依存が減っている証拠さ」
俺が前のめりに言うと、守方も俺に顔を近づけて、耳打ちをするように笑顔で呟いた。
「なぁ、美方ってなんで今まで友達できなかったんだ?」
あれだけ他人の為に頑張れる女子なら、普通に友達の一人や二人、いてもおかしくないだろう。
「そりゃあ態度があれだからね」
――なるほど、性格じゃなくて態度の問題か。
「じゃあなんであんな態度になったんだ?」
「姉さんはパパに憧れているんだよ」
「あー、あのやり手の投資家の父ちゃんか?」
「うん。小さい頃からパパの真似ばかりして、パパみたいな態度で、同級生から嫌われちゃったんだよね」
「止めてやれよぉ~」
俺が眉根を寄せると、守方も困った顔になった。
「う~ん、僕も止めたんだけどね。姉さんはパパが好き過ぎて、パパの娘が凡民に迎合なんてできないとか、パパに相応しい娘にならなきゃ駄目だとか、意固地になっちゃって」
「キツイなぁ……」
俺は辟易とした息を吐いた。
守方も頬を引き攣らせた。
「それでいつも誘われるの待っていて、たまに誘われても一度誘われただけでOKしたら待っているみたいだから一度断って二度目のお誘いで行くべきとか言って……」
「わかった。みんな現代っ子だったんだな」
「うん」
俺だって、よっぽど仲の良い相手でない限り、一度誘って断られたらそれで引き下がるだろう。
友人でもないただの知人の扱いなど、そんなもんだ。
だけど、自信過剰な美方はそうではないのだろう。
「じゃあ、美稲たちとは相性いいかもな」
女性陣に視線をほうって、俺は言った。
「みんなは態度が多少アレでも、根がいい奴とは割と楽しく付き合えるし」
スリのようにさりげなく茉美の胸をさわろうとしたシサエが肘鉄を喰らっていた。
「本当に?」
守方の苦い声に、俺は自信を失った。
「れ、例外はあるものさ」
俺が頬を引き攣らせると、また美方と琴石が火花を散らし始めた。
「見てみぃ、この中間発表を。ウチの支持率が41パーセント、そっちは29パーセント。これが現実や。アビリティリーグのPVなんてしょせん一過性のもんっちゅうことやなぁ!」
「浮動票がまだ30パーセントもありますわ! 勝負は来週の選挙前演説ですわよ! 美稲、今すぐ作戦会議をいたしますわよ!」
「それ、ウチの目の前でやってええんか……」
琴石がげんなりと肩を落とした。
続けて、美稲が困った笑顔で頬をかくと、食堂のMRテレビが流すニュースが、爆弾発言を口にした。
『続いて、超能力者管理委員会からのメッセージ。本日、我々は日本の内峰美稲を迎え入れることになった。今週の土曜日、11月3日以降、内峰美稲は超能力者管理委員会本部のある、OUで暮らすことが決まった。とのことです』
10人の視線が、一斉に美稲に向いた。
当事者の美稲は、きょとんとしながら自分の顔を指さした。
「え……私は何も聞いていないよ」
きな臭い状況に、俺は眉間に縦ジワを刻んだ。
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振り返りネタ
174話転売ヤー対策は万全だけど別の問題が より
せっかくの学園祭なんだからいいじゃんこれぐらい。
という手前勝手な理由で女子生徒を盗撮したり、強引にナンパしたり、触ろうとする一般客がいないとも限らない。
いや、中には【超能力者】というブランド目当てで、非戦闘系の女子をたぶらかす輩もいるだろう。
俺の彼女超能力者なんだぜ、と言いたいがためだけに女子生徒を口説く男の姿が、ありありと想像できた。
――モラル由来の問題っていつになったら無くなるんだ?
頭痛に耐えるように、眉間にしわが寄ってしまう。
すると、固くなった眉間に人肌が触れた。
眼を開けると、桐葉が人差し指と中指の第二関節を押し当てぐるぐると丸を書いている。
「ほぐれた?」
愛らしいほほ笑みに、胸がキュンとした。一日中でもこうして欲しい。
そして詩冴がこれでもかと眉間にしわを寄せていた。でも桐葉が無視しているとソファを指でいじりながらいじけ始めた。
その姿は、珍しくちょっと可愛かった。
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