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最悪のシナリオを回避したい

「で、これまで美稲が生成して俺がテレポートさせた黄金て何十万トン分なんですか?」

「ぬ? いや、何十万ではなく、いや、黙秘しよう」


 ――数百万トンいってたぁああああああああああああああああああああ!?


 何も考えず、漫然とルーチンワーク的にテレポートしていた自分が恐ろしくなってくる。


「あの大丈夫っすかサユリちゃん!? 地球全土の埋蔵量が23万トンなんすよね!? OUの言う通り、金相場暴落しないっすか?」

「それは安心しろ。馬鹿みたいな量を市場に流さない限り、金相場は守られる」


 前のめりになる詩冴を落ち着かせるため、早百合さんはやや早口に説明した。


「ダイヤモンドの時にも説明しただろう。相場とは備蓄量ではなく流通量で決まる。日本が備蓄黄金を市場に流し、市場が黄金で溢れ、需要に対する供給量が増えるに従い、徐々に価格は下落するのだ。仮に日本政府が1000兆円刷っても、全額日本銀行に預けていて、インフレになると思うか?」


「あ、それもそうっすね」


 詩冴は浮かせた腰を下ろして、ソファに深く座った。


「それにいま思ったんすけど、海水の使用を制限されて良かったかもしれないっすよ」

「なんでだ?」


「だってハニーちゃん考えてもみてほしいっす。そもそもシサエたちにとって最悪のシナリオって、ミイナちゃんがOUや国連の管理下に置かれることっすよね? でもぉ、OU主導で国連が海水から金属の生成を禁止したってことは連中もできないわけで、もうミイナちゃんを拉致られる心配がないってことっすよね?」


 詩冴の分析に、舞恋と茉美が笑顔になった。


「あ、それもそうだね♪」

「よかったじゃない美稲」

「これで安心ですね」

「美稲、おめでとうなのです」


 無表情のまま、笑顔のオーラを出す真理愛と麻弥も、祝辞を送った。


「ありがとう、と思っていいですか?」


 美稲が硬い表情で尋ねると、早百合さんも声を硬くした。


「そうだな。可能性があるとすれば、ダイヤモンド半導体目当て、あるいは……」


 間を置いてから、早百合さんは真顔で言った。


「自ら海水から金属の生成を禁止しておきながら美稲の身柄を要求してOU国内で秘密裏に金属の生成をさせる可能性か」


 早百合さんの爆弾発言に、詩冴と茉美が笑い転げた。


「いやいやいや早百合ちゃん、いくらなんでもそれはないっすよぉ」

「そうですよ早百合大臣。そんなのもう極悪どころの話じゃないですよ。ねぇ」

「え、あぁ……」


 茉美は俺に同意を求めてくるも、俺はすぐには肯定できなかった。


 信じられない話だが、世の中には現実味がないほど非常識な国家がいくつかある。


 自国ファーストを追求するために、国際法も国際条約も破り他国民を傷つけ搾取し、なのに罪を追求されると逆ギレして被害者面して逆に謝罪を要求する国は実在する。


 他にも、他国に行為Aをやめるよう責め立て糾弾しておきながら、自国では行為Aを平然と行いつつ、自分たちのはノーカンと言い捨てる国もある。


 OUだってそうだ。


 OUは二度、パワードスーツによるテロを行っている。


 学園祭に送り込まれた男を含めれば、テロの数は三回だ。


 サイコメトリー検査による証拠や逮捕した犯人の証言を基に、日本政府はOU政府へ追及するも、OUは知らぬ存ぜぬを繰り返し、日本側の自作自演だと国際社会に訴えている。


 そんな極悪非道で子供じみたことをする国があるわけがない、というのは、日本の常識に染まりきった、世間知らずの思考回路だ。


 ――でも、下手に不安を煽ることもない……。。


「そ、そうだな。世界で唯一黄金を生成できる生きた鉱山、なんて身分は人間には重すぎる。これからは大手を振って休もうぜ」


 美稲を安心させるようにそう呼びかけるも、彼女は被りを振った。


「ううん、これで終わりじゃないよ。これからはダイヤモンド半導体のダイヤモンドパーツ、毎日1000万個作っちゃうんだから」


 むん、と意気込むように力こぶポーズを作り、美稲は凛々しく笑った。


「働き者だな」


 と、苦笑を漏らしながら、俺は美稲の肩に手を置いた。


「でも、もう学園生活を犠牲にしちゃだめだぞ」


 中学まで、美稲は八方美人で嘘にまみれた学生生活をしてきた。

桐葉同様、美稲にも、ちゃんとした学園生活を取り戻して欲しい。

そんな俺の気持ちを汲んでくれたのか、美稲は嬉しそうにほほ笑んでくれた。


「うん、ありがとうハニー君。じゃ、美方さんの応援がんばろうね」

「ん、おぅ……」


 それでもやっぱり他人のために働こうとする美稲に、俺は心の中でズッコケた。

でも、これが美稲のいいところで、美稲らしいところだ。


 友達の選挙活動を手伝う。


 それもまた、青春の一ページだと、俺は納得した。


―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―

振り返り企画 名場面

184話真理愛とデート後半戦 より

 ハニーくんが縁日で真理愛の為にカッパのぬいぐるみを取ってあげる。



「おめでとうございまーす! さぁお前の愛を彼女にどうぞ!」

「先輩ノリ良すぎ。ほい、真理愛、俺からのプレゼントだ。その前にこのウリ坊は真理愛の部屋にテレポートさせてと」


 カッパを受け取った真理愛は、我が子を慈しむように抱きしめて、鼻から下をうずめた。


「ありがとうございます。毎晩、抱いて眠りますね」


 ぬいぐるみで半分隠れているのも、彼女が笑顔であることは一目でわかった。


 普段は無表情無感動な美少女が見せる満ち足りた笑顔の魅力は底無しで、俺は無限の達成感に奥歯に力が入った。


「この子はミニハニーさんと名付けましょう」

「えっ!? それ俺!? まさかエロガッパ的な意味じゃないよな!?」

「……教えません」

「今の間は!?」


 俺の達成感に、一抹の不安がよぎった。



●本作はカクヨムでは299話まで先行配信しています。

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