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日本の黄金保有量

いつもの仕事終わり、俺、桐葉、美稲、詩冴、真理愛、麻弥、舞恋、茉美の8人は、異能省の次官執務室、つまりは早百合さんの部屋を訪れていた。


 理由はもちろん、OU主導で推し進められていた国際法、海水使用制限法案についての報告を聞くためだ。


 ソファに座ってテーブルを囲み、真理愛が給仕してくれた紅茶を片手に、俺は早百合さんの言葉に耳を傾けた。


「結果は、貴君らもニュースを見て知っているだろう。残念ながら、法案は可決した。本日より、海水から金属粒子だけを抽出することは国際法違反となる」


 無感動に、淡々と報告する早百合さんに、俺は尋ねた。


「でも、法的拘束力はないんですよね?」

「うむ。また、投票はかなりの接戦で、世論もOU以外の諸外国民は違和感を覚えている。これは、ネットの反応をランダムに抜粋し、翻訳したものだ」


 早百合さんは執務机から立ち上がりながら、MR画面を展開。


 とある映像を表示させて俺らに見せながら、自分もソファに座った。


 議長のように、俺らを左右に一望できる位置に座った早百合さんが紅茶を飲む間、俺らはMR画像に注視した。


 そこには、なるほど、OUと自国政治家へのアンチコメントが多い。



 国連はOUの言いなり。

 OUに忖度しましたね。

 国際連合じゃなくてOU属国連合に改名しろ。

 海水から貴金属を抽出したら環境破壊ってエビデンスあるの?

 魚介類の生育に貴金属粒子が不必要なのは養殖産業を見れば明らか。

 OUからいくらもらったんですか?

 日本が安定的に金属資源を供給してくれるなら値段も安定していいじゃん。



 そうした書き込みに、舞恋が胸をなでおろした。


「よかった。これなら日本人がいじめられずに済みそうだね」

「恋舞舞恋の言う通りだ。最大の懸念点が解消され、私としても安堵している」


 ――最大の懸念点が日本人差別か。舞恋は当然として、早百合さんも優しいよなぁ。

 同じように安心した様子の美稲が、落ち着いた声で尋ねた。


「それで私はどうしましょうか? この分なら国際法を無視して海水から金属を抽出しても良さそうですけど」

「諸外国が経済制裁をしてこないなら、ボクとしては続けてもいいと思うよ」


 桐葉の言う事も間違っていない。

 国連は世界政府ではないし、国を裁く権力はない。

 まして、OUの独断で勝手に決められた法律ならなおさらだ。


「ふむ、難しいな。貴君たちの言う通り、国際法は特定の国に被害を与えない限り、無視したところで罰則はない。だが、一部の市民団体やOUは声高に反日活動やジャパンバッシングを正当化するだろう。それに、日本はきちんと国際法を遵守する国、というこれまで積み上げてきたイメージも、できれば崩したくはない」


 早百合さんの言う通りだ。

 どんなに理不尽な法律でも守る。

 そうした日本人の几帳面さ、勤勉さは、国際的な信用に繋がっている。

 けれど、海水からの資源抽出をやめれば、日本は資源輸入国に逆戻りだ。


 それだけは避けたい。


「むっ、すまん、総理からのメッセージだ」


 軽く手を挙げて話し合いを中断してから、早百合さんは小さく息を吐いた。


「内閣総理大臣様からの勅命だ。OUの要求通り、海水からの資源抽出を無期限停止とする。日和ったな」


 ――ひよったな。


 思わず、心の中で反芻してしまう。


「しかし、総理の判断も間違っていない。どんなに理不尽な法律でも、日本は守る。他国に付け入る隙を作らない。それもまた戦略だ」


 ――同じ回答でも、総理と早百合さんだとまるで印象が違うな。


「ならどうしますか? メタンハイドレートみたいに、俺のアポートで採算の採れない鉱脈から採掘しますか?」

「いや、その必要はない」


 俺の提案に、だけど早百合さんは不敵な笑みを返してきた。


「実はな、もう無理に美稲が海水から資源を生成する必要はないのだ。この半月、内峰美稲が尽力してくれたおかげでな」

「よしっ」


 珍しく、美稲はちっちゃなガッツポーズを作った。

 どうやら、彼女は状況を理解しているらしい。


「各種金属の備蓄量は、日本の年間使用量100年分に達している」


 早百合さんのキメ顔に、俺や舞恋はぎょっとした。


「ひゃくねん、ぶん?」

「うむ。だが、100年後には土から取れるケイ素と炭素を主成分にした新素材が主流になっているだろう。つまり、未来永劫、日本が金属資源に困ることはない。これも全て、内峰美稲と奥井ハニー育雄の努力の賜物だな」


 早百合さんに褒められて、俺と美稲は目を合わせた。


 嬉しそうな美稲の表情に、彼女と過ごした半月を思い出す。


 能力を使い続けた美稲はどうかわからないけど、俺は毎日朝から晩まで美稲と映画、アニメ、ドラマ三昧&ダラダラ雑談三昧だったので、何も尽力していない。


 他にしたことと言えば、美方が生徒会長になるための方法を考えたり、PV動画のチェックや応援メッセージの投稿をしたぐらいだ。


 ――こんなに楽して褒められていいのだろうか?


「無論、今後、何かの事変が起きて金属使用量が跳ね上がればその限りではない。可能なら今後も海水を利用したかった。だが、せっかく日本円の信用も回復して、今、日本は経済破綻から立ち直った奇跡の国として世界から注目されている。わざわざイメージを悪くすることもないだろう」


「それに、やろうと思えばハニーのアポートで採算の採れない鉱山からアポートすればいいしね」


 桐葉が腕に抱き着いてきた。温かくて心地よい。


「さらに加えるならば、それこそ表向きは都市鉱山から生成している設定なのだ。日本中のゴミから生成すればいい。都市鉱山に含まれる黄金は6800トン分だぞ」

「で、これまで美稲が生成して俺がテレポートさせた黄金て何十万トン分なんですか?」

「ぬ? いや、何十万ではなく、いや、黙秘しよう」


 ――数百万トンいってたぁああああああああああああああああああああ!?


 何も考えず、漫然とルーチンワーク的にテレポートしていた自分が恐ろしくなってくる。

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