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美稲との時間

 週明け。

 10月15日月曜日の朝。


 朝食を食べ終えた俺と美稲は、学校へは行かなかった。

いつもの貨物船の中にまっすぐテレポートして、金属生成とテレポートに勤しんでいた。


 巨大な輸送船の側面ハッチが海水に浸り、そこから銀色の細い川が何本も登ってきて左右に分かれ、それぞれが貨物室の奥へと駆け抜けていく様はいつ見ても面白い。


 この細い川、ひとつひとつが違う金属であり、赤い川は胴、金色の川は黄金だ。

川の行きつく先では、金属塊であるインゴットのピラミッドがみるみる生成されていく。


 その荘厳で壮観な光景には、未だに慣れない。


 ――あのピラミッドひとつひとつが金属資源の山って、何度も考えてもチート過ぎるだろ。


 しばらくして倉庫内がいっぱいになると、金属別に指定された倉庫へテレポートしていく。それが俺の仕事だ。


 この半年の間にテレポートさせた金属資源は膨大過ぎて把握していない。

 早百合さんの話では、政府が用意できる首都圏内の倉庫は全て飽和状態で、地下貯水槽の巨大空間まで倉庫代わりにしているが、そこもいっぱいらしい。

 自分でも、ちょっとテレポートさせすぎたかな、と反省したくなる。


「じゃあハニー君、今日は一日、一緒に過ごそうか? いや、今日からはしばらく毎日かな?」

「そ、そうだな」


 ハッチの近くに用意されたソファに腰を下ろし、美稲はテーブルの上に用意された紅茶セットでお茶の準備を始めてくれた。


 相も変わらず、美稲の口調や所作は上品で、自分の悪いところが見えてくる。

 ソファに座った俺は、自然と背筋を伸ばして、美稲が淹れてくれた紅茶をいただいた。


 すると、美稲は苦笑した。


「なんで緊張しているの? もっと楽にしていいよ。ほら」


 美稲は俺の肩に手を載せると、背もたれへと促してくれた。

 俺は抵抗することなく、ソファの背もたれに体重を預けて、リラックスする。


「よっと」


 俺のすぐ隣に座り直して、美稲には珍しく、だらしなく背もたれに体を預けた。

 俺に気遣ってなのか、でも、なんだか彼女の知らない一面を見たようにも見えた。


「ねぇハニー君、私と二人きりだと緊張しちゃう? 桐葉さんも一緒のほうがよかった?」


 ころん、と首を回して、美稲は遠慮なく尋ねてきた。

 貨物室はともかく、ソファの上でのシチュエーションが恋人同士みたいで、ちょっとドキドキした。


「いやいや、そんなことないって」

「かっこつけなくていいよ。私たち家族なんだから」

「いや、かっこつけてるわけじゃなくて」

「じゃあなんで態度がぎこちないの?」

「それは……」


 言い淀みながら、あらためて美稲を見つめた。


 オシャレで上品なハーフアップにヘアセットされた、長く艶やかな黒髪。

 神様が直接筆を引いたように整った形の良い眉。

 柔和な視線で俺だけを見つめてくれる大粒の瞳。

 筋の通った、けれど自己主張し過ぎない高さの鼻。

 桜色の愛らしいくちびる。

 可憐なラインを描く輪郭。

 それが、完璧な黄金比を基に配置されている。


 本当に、どこまでも芸術品のような少女だ。


 しかも、内面は外見に輪をかけて美しく、奥ゆかしくも勇ましい性格には、尊敬の念しか抱けない。


 こんな子が、俺と好意的に話してくれている。


 それだけで、何かの奇跡に思える。


「それとも、私はまだハニー君にとっては赤の他人なのかな?」


 冗談めかして明るく聞いてくる美稲に、俺は少し慌てながら説明した。


「いやぁ、そういうわけじゃなくて、ほら、美稲って上品でカッコイイから、一緒にいると自分の品性のなさを自覚して恥ずかしいというか」


 俺が苦笑いを浮かべると、美稲はややきょとんとしてから、微笑した。


「ふふ、ありがとう。カッコイイかぁ。うん、ハニー君に言われると嬉しいね」


 ぐっとあごを突き出して、美稲はお茶目なドヤ顔を見せてくれた。

 普段は完璧な女性が見せたお茶目顔は筆舌尽くしがたい魅力があって、ますます惹かれてしまう。

 なんだか、桐葉に申し訳ない。


「あ、目ぇ逸らした。ダメだよ。人が話している時は目を見ないと」

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