麻弥たんは合法です。合法なんです。
「「「早ッ!?」」」
俺と茉美と詩冴の声が重なった。
「ていうか真理愛。その二号さんてのやめてくれ。なんか俺がみんなに順番を決めているみたいじゃないか!」
「二番目に付き合い始めた女性という意味なのですが、ダメでしょうか?」
「駄目駄目、絶対駄目」
俺が真理愛を説得していると、美稲がふと気づいた。
「あれ? でも麻弥さんはまだ一緒に暮らさないの?」
「はい。麻弥さんの話では、お父様の許可がなかなか下りないそうです」
淡々と答える真理愛に、俺はちょっと安堵した。
「だよな。ていうか普通高校生の時点で同棲とかしないし、付き合うイコール同居じゃないだろ?」
「麻弥さんは頑張って説得しているそうですが、日に日にお父様のヘイトが溜まる一方でなかなか進展しないそうです」
――なんか俺めっちゃ憎まれているぅ!?
「そういえば、お父様と言えば、最近、日本刀をご購入されたそうです」
――狙われているッ!?
恐怖で、心臓がキュッと冷たく引き締まるのを感じた。
「みんなこっち来て、お風呂凄く広いよー♪」
俺の気も知らず、桐葉が明るい声を呼び掛けてきた。
その誘いに、詩冴、真理愛、茉美が駆けていく。
最後に残った俺の手を、美稲が引いてくれた。
「ほら、一緒にいこ」
「お、おう」
怒涛の衝撃情報の数々に思考停止していた俺は、美稲と一緒にお風呂場へ足を延ばした。
そして、思わず感嘆の声が漏れた。
お風呂場は、軽く大浴場、は言い過ぎでも中浴場ぐらいの感じはする。
ジャグジーとジェットバス付の浴槽は広く、十人ぐらいで入っても、なお余裕がありそうだ。
壁にはサウナ室へ続くドアがあり、そちらも同時に十人が座れそうなスペースが確保されている。
高級ホテルのお風呂場みたいな内装に、女性陣は否応なしにテンションをあげていた。
やっぱり、女子としてはお風呂にはこだわりたいらしい。
真面目な美稲ですら、すてき、とばかりにうっとりしていた。
ちなみに、窓はなく完全に隔離された密室型だ。
それが、秘密の空間という感じがして、一瞬、官能的な妄想がふくらみかけた。
――いかんいかん、俺は理性ある文明人なのだ。卑猥な妄想は大敵だぞ。
「ハニー、これだけ広いとみんなで一緒に入れるね」
「ぶっふぉあっ!」
妄想が復活して、反射的に噴いてしまった。
――くっ、桐葉め、なんて高度な精神攻撃をしてくるんだ!
彼女を憎みなら睨みつけるも、桐葉は楽し気に笑っていた。なんて小憎たらしい美少女だろう。
「そうっすね! ここにいるみんなで入れるっすね!」
「はい、じゃあお風呂は俺の時間、詩冴の時間、それ以外の子の時間に区切るぞ。異論は?」
「「「「なーし」」」」
「差別っす!」
茉美と真理愛と美稲と桐葉に抗議する詩冴の横を、美稲がすり抜けて俺に一言。
「ハニー君、私に構わず、みんなとイチャイチャラブラブしていいからね」
頬を赤らめ口元に手を添える美稲は可愛いも、行き届き過ぎた気遣いが辛かった。
「あ、それと席を外して欲しい時は言ってくれれば外で小一時間暇つぶししてくるから。遠慮しないでね」
――赤面ウィンクで何ド下ネタ言ってるんだよ。そんな子じゃなかったろ。絶対詩冴の影響だ。そうに決まっている。
俺が怒りと憎しみと喪失感を込めた瞳で詩冴を睨んだ。
「なんでガチめにシサエを睨んでくるっすか!? 怖いっすよハニーちゃん!」
その時、ふと視界に新着ニュースが表示された。
【国連、海水使用を制限する国際法締結に向けて協議。採択決定か?】
えっ!? という声が、その場の全員の口から洩れ出た。
条約は、加盟しなければいい。
だが、国際法はどうなるんだ?
一抹以上の不安に駆られ、俺は息を呑んだ。




