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王者の資質

「だから、その時の映像を使ってPVを作ればいいんだよ」


 美稲の提案に、舞恋がきょとんとした。


「でも、生徒会とアビリティリーグは関係ないんじゃないかな? 世論調査でも、『アビリティリーグじゃカッコ良かったけど、生徒会長にするには不安』て書き込まれていたし」

「いや、大丈夫だと思うぞ」


 舞恋の疑問に、俺は応える。


「舞恋の言う通り、アビリティリーグと生徒会長は関係ない。だけど、人間は単純に好感度の高い人に投票したくなるものだからな」

「でも、そういう理由で選ばれて意味あるの? さっきは……」


 舞恋が気にしているのは、ネガキャンの話だろう。

 さっき俺は、美方が良いのではなく、琴石が駄目だから消去法で選ばれてみ意味がないと言った。

 けど、今度は事情が違う。


「消去法が駄目なのは、美方が望まれていないからだ。でも、アビリティリーグのPVで人気を稼げば、理由はどうあれ【貴美美方】個人が望まれているわけだから、不適切じゃない。もちろん、これが国政を担う政治家じゃ駄目だ。けど、学校の生徒会長ぐらいならこれでもいいと思うぞ。幸い、美方は人柄にも問題……ないし」


「今の間はなんですの?」

「いや、別に」


 普段の口調はあれだけど、他人のピンチを見過ごせない性格には、好感が持てるのは事実だ。


 桐葉と美稲の到着が遅れた時、美方たちが代わりに試合をしてくれなかったら、アビリティリーグは失敗していたかもしれない。


 そうしたら、桐葉たち戦闘系能力者が差別されない社会を作るという俺の夢は潰えていた。


 正直、美方にはかなり感謝している。


「それに、実は組織の代表者に一番大事なのは人気だしな」

「え? そうなの?」


 不思議そうにする舞恋に、俺は頷いた。


「ああ。逆に聞くけど代表者、たとえばわかりやすく、王様に一番必要なのはなんだと思う?」

「うんと、やっぱり頭の良さかな。問題が起こってもそれを解決する方法を思いつく人でないと」


 よくある答えはに、俺は前に教育系動画で見た内容を思い出した。


「そうだな。でも、どれだけ優秀な人でも限界がある。それに、王様が一人で全ての問題を解決していたら、王様が病欠した途端に国が周らなくなるだろ」

「あ、そっか。じゃあどうするの?」


 意外に説明好きの面がある舞恋だけど、聞き役に回っても素直な態度で可愛かった。


「実務は最初から部下にやらせればいいんだよ。経済については財務大臣、法律については法務大臣、国防については防衛大臣ってな具合に、各方面の専門家に任せれば、レベルの高い仕事ができる。それに、王様が急死しても国を支える屋台骨は揺るがない」


「でも、それじゃあ王様は何のためにいるの?」

「部下を上手く回すため、それから広告塔になることだよ」

「広告塔?」


「複雑な仕事は、専門的な知識のある人じゃないとわからない。昔、アベノミクスって経済政策があったけど、あれだって多くの国民にはどういうものなのか、それをするとなんで景気がよくなるのか理解してもらえなかった。だから最初から世間は批判的だったし、失敗したときはさらに批判されまくった」


 両手の平を広げて、爆発四散のジェスチャーをしてから、俺は続けた。


「政治、経済、法律、外交のプロじゃない国民に政策を理解してもらうのは難しい。けど、王様に人気があれば、みんなあのお方がされることならって納得してくれる。最近、世界史で三頭政治ってやったろ?」

「あ、カエサルさん?」


 古代ローマにおいて、人気者のカエサルと、優秀なポンペイウスと、資産家のクラッススが政治を支配していたことを三頭政治と呼ぶ。


 どんな政策も、長身イケメンでトーク力抜群のカエサルが民衆に呼びかければ支持され、費用はクラッススが支払い、ポンペイウスが実行すれば、他の元老院は誰も逆らえなかった、という話だ。


「そうだ。組織の代表に必要なのは組織をひとつにまとめてみんなに自分の言うことを聞いてもらえる人気だ。実際、人間は話の内容が論理的に正しいかどうかじゃなくて、喋っている相手への好感度で良し悪しを決めているとも言われるからな」


 滔々と言い切るも、このままでは誤解が広まってしまう。

 俺は舞恋の反応を制するように手を突き出し、「もちろん」、という言葉を挟んだ。


「当然だけど人気取りが上手いだけの無能は駄目だ。【衆愚政治】って言ってな、選挙は早い話が人気投票だ。だから政治家として無能でも人気取りが上手い奴が当選する。結果、愚かな民衆が選んだ国会議員は無能だらけになって国は傾く。だから人気だけじゃ駄目だ。だけど、一定の人気は絶対に必要なんだ。人気者を優秀な部下が補佐すれば最高。今回だと守方だな」


 美方と違い、守方は常識人だ。

 美方が広告塔になって、実務は守方が行えば、いい生徒会になるだろう。


●本作はカクヨムでは276話まで先行投稿しております。

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