生徒会選挙 始まります
「皆さん、おはようございます。ではさっそく今日の連絡事項ですが、生徒会選挙が始まります」
教室がにわかにざわついた。
「新設されたばかりの本校には、まだ生徒会はありません。しかし、生徒の自主性を重んじ、大人に頼らず自身で問題を解決できる人材となるべく、本校は生徒たちの発言権の強い学園を目指しています。そのため、生徒会には他校よりも強い権限が与えられます」
――言われてみれば、俺ら超能力者はただでさえ他人から利用されやすい存在だ。組織や目上の人に黙って従うようじゃ、将来が心配だよな。
なかなかいい方針だと、俺は感心した。
「というよりも、生徒会の権限は強くあるべき、と龍崎次官がおっしゃっていました」
――ただの学園マンガ脳じゃねぇか。俺の感心を返せ。
俺のジト目に気づかず、鶴宮先生はキビキビと連絡を続けた。
「具体的には、生徒会長と副会長は学園運営にかかわる理事会に参加できます」
――え? マジで?
俺と同時に、みんなも顔色が変わった。
「理事会には理事長である龍崎次官、校長、副校長、教頭、生徒会長、生徒会副会長の6人が参加できます」
「あ、すいませんっす。前々から思っていたんすけど副校長と教頭って何が違うんすか?」
ぴっと手を挙げて詩冴が尋ねると、鶴宮先生は再度、眼鏡の位置を直した。
「仕事の内容はほぼ同じです。ただし、校長先生不在の場合、代理を務めるのは副校長先生です。他、学校組織には校長先生しか触れられない書類などがあります。これは教頭先生でも触れてはいけませんが、副校長先生は触れられます」
「ふんふん、なるほど。教頭は教頭であってそれ以上でも以下でもない反面、副校長先生は副でも校長というわけっすね? 解説ありがとうっす♪」
――知らなかった。詩冴、ちょっとグッジョブ。
今まで、教頭の別名が副校長だと思っていた。俺って馬鹿だなぁ。
――でも、早百合次官は生徒大好きだし、そうなると6人中半分は生徒側の人間だ。これなら、生徒の気持ちを無視した独裁学園にはならないだろう。
流石は早百合次官だと、感心し直した。
「出馬資格は学年に関係なく全校生徒にあります。出馬は自由ですが、希望者は放課後、職員室に来てください」
「チャンスですわ!」
食い気味に、貴美姉弟の姉、貴美美方が勢いよく立ち上がった。
「今こそ、この世界最強の超能力者! 万物を灰にする灼熱紅蓮のマグマ使い! ボルケーノ貴美美方様の威光を見せつけ、凡民共を導く最大の好機ですわ!」
自信たっぷりに胸を張り、握り拳を作り、美方はやる気溢れる笑顔を作る。
「守方、貴方は後援者になりなさい」
びしっと指をさされた守方は、眠そうに目をこすった。
「任せてよ姉さん。落選したときに慰める言葉は最低10個は考えておくから」
「受かりますわよ!」
「はは、冗談だよ」
――守方って本当に苦労人だなぁ。
姉の突然の思いつきに振り回される弟さんに、1秒の黙とうを捧げた。
それでも一応、自分にだけ見えるAR画面を操作して、守方にメッセージを送っておく。
連絡先は、学園祭の時に交換済みだ。
けれど、心配メールの返信は意外な内容だった。
『むしろ僕がついていないと心配だから。こっちからお願いするつもりだったよ』
――守方って面倒見いいなぁ。
守方に幸あれと、俺は心の中で3秒間祈りを捧げた。
その直後、俺の視界に新着ニュースが流れてきた。
ホームルームや授業中は、学内ローカルネット以外の回線に繋がないのがマナーだが、家族からの緊急連絡や災害情報へ対応するため、強制ではない。
多くの生徒はマナーを守らないし、それは俺も同じだ。
だから、こうして新着ニュースが表示されるのだが、その題名に俺は戦慄を覚えた。
『日本の内峰美稲。貴金属を海水から作っていることが判明。都市鉱山ではない?』
『OU、国連に海水の使用制限をする条約作成を出願』
俺は息を呑み、他の生徒たちもざわついた。




