き、期待なんかしていないぞホントだぞ!
一時間後。
朝の準備を終えて登校した俺らは、担任の鶴宮先生が来るまでの間、いつものメンバーで雑談をしていた。
「それでハニーちゃん、詩冴って一緒に暮らしてもいいんすか? あの家、流石にもうキャパオーバーっすよね?」
「あー、それならさっき早百合次官からメッセージが届いたぞ。高級官僚用の官舎マンションの最上階が10人でも住める二階建て仕様になっているから、そこに引っ越しだ」
俺の返答に、詩冴は頭を抱えた。
「ん? マンションなのに二階建て? それってあれっすか? ドラマやアニメのセレブが住んでいる、マンションの中の一部屋なのに中が一軒家みたいになっていて、リビングが上の階まで吹き抜けで二階の高さにドアが並んでいてそのひとつひとつが部屋になっているあれっすか?」
「そうそう、あんな感じだ。メゾネット式とか言ったかな」
言って、俺が早百合次官から送られてきた部屋の画像を見せると、女性陣の顔が華やいだ。
どうやら、高級タワマンクオリティの内装に大満足らしい。
家にこだわりを持つところは、みんな女の子だなと思う。
まわりの生徒たちは、
「ついに枝幸も陥落したか」
「いやいや三又が陥落した時点で誰が陥落しても不思議じゃないだろ」
「噂じゃ2組の琴石も攻略済みらしいぞ」
「ラノベの主人公かよ」
「流石はハニー、この男女平等社会でハーレムを作るところにシビれる憧れるぅ」
「枝幸って純白のアルビノ巨乳美少女でコスプレ似合いそうだよな」
「ぐっ、あの淫獣はまたハーレムを増やしましたの。なんて汚らわしい!」
「羨ましいなら姉さんも入れて貰えば?」
「シバき倒しますわよ!」
とか言っている。
というかF6と貴美姉弟たちだった。
「ていうか毎晩俺と一緒に寝ている姉さんがそれ言う?」
「なんですって!? じゃあ貴方はワタクシに一人で寂しく寝れと言いますの!?」
「言わないよ。だから毎晩姉さんが寝付いた3秒後にウサちゃんと交代しているじゃないか」
「ワタクシはウサちゃんなんて抱いて寝ていませんわ! フザケたことを言うと名誉棄損で訴えますわよ!」
「まさか、棄損するだけの名誉なんて姉さんにあるわけないじゃないか」
「ファアアアアアアック!」
――仲いいなぁ……。
あれはあれで、理想の姉弟の形なのかもしれない。
「部屋が足りなくても大丈夫。ボクはハニーと同じ部屋でいいから」
「クールな顔で何恐ろしいこと言ってやがる」
「ハニーだって本当は期待しているんでしょ?」
小悪魔的な笑みで俺の頬をつっつく桐葉。
「き、期待なんかしていないぞ、ほんとだぞ」
「ならニヤけんじゃないわよ」
茉美が寸止め空手チョップを俺に浴びせてきた。
――俺の技を盗るな。
心の中でささやかな抗議をすると、教室のドアが開いて、担任の鶴宮先生が入ってきた。
「はい皆さん席についてくださーい、これから朝のホームルームを始めます」
今どき珍しい、MRではない物理眼鏡の位置を直しながら、鶴宮先生が呼びかけると、生徒たちは次々自分の席に戻っていった。
俺らは、俺を中心に桐葉たちがぐるりと囲むように座っているので、すぐに定位置につけた。
ヒールをカツカツと鳴らしながら鶴宮先生が教卓の向こう側に立つと、知的な眼差しで俺らを見回した。
「皆さん、おはようございます。ではさっそく今日の連絡事項ですが、生徒会選挙が始まります」
●本作は【カクヨム】で275話まで先行投稿しています。




