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ハチミツ色の君

 その日の夕方。


 仕事が終わった俺、桐葉、内峰、詩冴、恋舞、山見、有馬の七人は、スーパーで食材を買うと、詩冴の家に集まった。


 詩冴の住む社宅のリビングのテーブルには、以前も作ったハニートーストと、口直しの紅茶が並び、みんなで談笑に花を咲かせていた。


 女三人寄れば姦しいとは言うけれど、六人も集まれば騒がしくて当然だ。


 もっとも、桐葉と山見はほとんど喋っていないけど。


「それで映画見ているときにポテチ一袋食べちゃったんすけど、この短時間で200キロカロリー摂取したのかと考えると罪悪感が半端ないんすよねぇ」

「あー、それわかるなぁ」

「恋舞さんもそういう経験あるんだ。まぁ私もだけどね」


 詩冴の話に恋舞が同意して、内峰が照れ笑う。


「ご安心を。世の男性は女性が思っているほどガリガリ好きではありません。多少お肉がついても問題ありません。むしろ過度なダイエットでバストが痩せることを危惧すべきです。そうですよね、奥井さんっ」


 ――なんで俺に振るんだよ!? そしてその達成感溢れる瞳はなんなんだよ!


 有馬はクールで、山見同様に基本が無表情なのに、瞳の奥から伝わってくる感情が半端じゃない。


 ちなみに、山見は小さな口で、ハニートーストをリスのようにもちもちと食べ続けている。可愛い。


「それより詩冴、親に許可とかいいのか?」

「あー、シサエの両親は数日に一回しか帰らないから気にしなくていいっすよ」


 この広い社宅に事実上の独り暮らしか。

 中学時代からそんな環境なら、彼女のかまってちゃんも、当然かもしれない。


「そういえばキリハちゃんの能力ってなんなんすか? 戦闘系っすよね?」

 期待通り、詩冴が遠慮なしに聞いてくる。

「それは……」


 桐葉は、逡巡するように、恋舞たち警察班へ視線を巡らせた。

 どうせもうバレているから、と迷っているのかもしれない。

 でも、その迷いを踏み潰すように、俺が口火を切った。


「桐葉の能力はハチの力を再現するホーネットだよ。空を飛ぶわ蜜蝋で相手の自由を奪うわ糸でブン回すわ、どこぞのアメコミヒーローかってレベル。坂東っていうアイスキネシストが俺に絡んできたときも、一方的にボコって最後は毒針でKOだよ」


「ハ、ハニー……」

「なのにみんな桐葉のことを毒針が怖いとか言うんだぜ、酷いだろ?」


 桐葉が、ぎゅっとくちびるを硬くしてうつむいた。

 すると、五人は同時に行った。


「「「「「あー、あるあるぅ」」」」」


「……え?」


 きょとんとする桐葉の前で、有馬はキリっと告げた。


「念写でカンニングやリベンジポルノをしていると根も葉もない噂を立てられました」


 続けて、探知能力者の山見がお人形さんのような無表情で、声にトゲを含ませた。


「わたしのあだ名、警察犬でした。失礼です」

「わたしなんてみんなに触るなとか言われたよ……」


 サイコメトラーの恋舞が肩を落とすと、


「能力者あるあるだよねぇ」


 と内峰が同情した。


「そうそう。人気者になる人でも、誹謗中傷かやっかみのどっちかは絶対言われるっすよねぇ。シサエも『うるさい』とか『うざい』とか『話が長い』とか言われてクラスの打ち上げやクリスマスパーティーはいつもハブられましたもん!」


「うん、お前のそれは違うんじゃないかな。あと山見はテーブルの下で何しているんだ?」

「え? わっ!」


 桐葉が視線を落とすと、山見がテーブルの下から顔を出して、膝の上に座ってきた。


 同じ高校一年生なのに、桐葉と山見では、大人と子供ほども体格が違う。


 山見は、ちょこんと座ると、桐葉の豊満な胸に、後頭部を埋めた。


 それから、のほほん、とリラックスし始めた。


「桐葉はいい匂いなのです」

「そりゃリアルに蜂蜜の匂いがするからな。髪と目の色も、能力の影響らしいぞ」


 山見は桐葉の艶々の亜麻髪に触れ、手遊びを始めた。


 けれど、桐葉はそれを許さなかった。


「勝手に座らないでよ」


 そう言って山見を抱き上げ、冷たくも床に下ろした。


 山見は、表情を変えずに、しょんぼりとしたオーラを出した。器用な子だ。


 能力のせいで嫌な目に遭ったのは、桐葉だけじゃない。同じ能力者同士なら、そして詩冴たちとなら、桐葉も友達になれると思ったけど、考えが甘かったか。


 俺が自分の無力に失望すると、桐葉は椅子から立ち上がった。


「ハニー、さっきスーパーでホットケーキの材料買っていたよね?」

「ん、ああ」

「貸してくれる? ボクのハチミツたっぷりケーキ作るからさ。それでみんなに、ボクの蜂蜜と銀蜂養蜂場の蜂蜜、どっちが上かわからせてあげるから」

「キリハちゃん蜂蜜作れるっすか!?」

「当たり前だろ。他にも美容にいいローヤルゼリーやプロポリスも作れるよ。ローヤルゼリーは酸味が、プロポリスは大人の苦味と甘味が特徴なんだ。キミたちにもごちそうするよ」


 桐葉の申し出に、女性勢は盛り上がる。

 一方で、桐葉は表情を作らず、無愛想に尋ねた。


「ねぇ、キミたち、ハニーの友達なの?」

「当然っす! シサエたちはハニーちゃんのズッ友っすよ!」

「……そう、ならボクの……身内だね」


 身内。

 友達とも、ただの同僚とも取れるグレーゾーンの単語。

 けれど、桐葉がみんなのことを仲間だと認識してくれたのは、一歩前進だと思う。

 とりあえず、今はこれでいい。自然とそう思えた。

 無意識に、俺は口元が緩んでいた。


「ハニー、桐葉におっぱい枕をするようお願いして欲しいのです」

 ――ん?


「ハニーさんはいつも桐葉さんの手料理を食べているのですか?」

 ――あれ?


「ハニー君、くれぐれも節度を持った同棲生活を心掛けてね」

「いやおい! なんでお前らまでハニー呼びなんだよ!?」

「ほえ? なんでって友達の兄弟をお兄さんとか弟さんとか呼ぶ感覚っすかね」

「なんで桐葉基準なんだよ!?」


 鋭くツッコむも、詩冴は身を反らして回避のジェスチャーを取った。


 そしてこの日以降、ハニーは俺のあだ名になった。


 山見の犬扱いと、どっちが酷いだろうか。

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