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ウエディングエンド

「姫様、結婚しましょう」

「え……でも私、もう呪いが、ずっと、この姿のままなんだよ?」


 耳元ですすり泣き、傷だらけの声を漏らす桐葉の体を強く抱きしめながら、俺は彼女を安心させるように、本音を口にした。


「構わないよ。だって君は俺と会った時からずっとハチだったじゃないか。俺はハチの君しか知らない。俺はさ、ハチの君が好きなんだ」


 笑顔と共に、桐葉の口にキスをした。


 彼女の熱い舌を口全体で求めながら、まつ毛を触れ合わせながらハチミツ色の瞳を見つめた。


 濡れた瞳の奥には、桐葉の熱い愛が映っているように感じた。


 まぶたがゆっくりと閉じて、桐葉はキスにだけ集中した。


 ちょっと長めに、10秒以上もキスが続いた後、ようやく俺らの口は離れた。


 桐葉は目から大粒の涙を溢れさせながら、だけど表情は満ち足りていて、頬を赤らめながら、満面の笑みを見せてくれた。



「ハニー、大好き!」



 細めた眼から流れ落ちた涙が床に落ちて、明かりが消えた。


 詩冴がナレーションを送る間に、俺らはステージに勢ぞろいする。


 明かりが戻った時、背景はお屋敷の前で、空には太陽が昇っていた。


俺は村男の衣装を脱いで下に着たタキシード姿で、ブーケを被ったウエディングドレス姿の桐葉と並んでいた。


 美稲たちはみんな村人、あるいは家来の服装で、俺と桐葉に拍手を送ったり、紙吹雪を巻いている。


 その中には詩冴もいるのだけど、彼女だけはくるりと客席に振り返りウィンクをひとつ。


「こうして、お姫様と青年は結婚をしました。二人の間には子供も生まれ、村は繁栄したそうです。とある時代の、とある土地のお話です」



 その言葉を最後に幕は下りた。


 幕越しに聞こえてくる拍手と歓声に、俺らは演劇の成功を確信した。


 だけど、ひとつだけ気になることがある。


 桐葉は、外見も蜂人間となる最終形態になっていたはずだ。


 なのに、今の彼女はウエディングドレス姿だった。


「桐葉、その姿なんだけど……」

「う、うん、ボクもびっくりだよ」


 珍しく、桐葉自身も少し動揺していた。


 今の桐葉は、まったく新しい姿になっていた。


 白いドレスから伸びた腕は、ハチを模したガントレットに覆われ、指先は鋭利な刃になっている。


 けれど体はウエディングドレスを思わせるシルエットで、胸など、体の各部が鎧に覆われている。


 まるで、アニメに出てくる姫騎士だ。


「なんか、新しい形態に覚醒したみたい。ハニーがゲート能力を覚醒させたみたいに。今までよりもずっと力が湧いてくる。たぶん、これがボクの、本当の最終形態なのかな?」


 超能力を発動させるのは精神力。

 なら、桐葉の精神が能力に影響しても、おかしくはないだろう。


「綺麗だな」


 自然と突いて出た言葉に、桐葉は一瞬頬を赤らめるも、すぐにいつもの、俺をいじめるときの蠱惑的で小悪魔的な、セクシーな笑みを作った。


「ハニーのえっち」


 両手で、胸部プレートの隙間から見える胸の谷間を手で隠す。


「そ、そういう意味じゃないやい! そ、それとありがとうな詩冴。こんな土壇場で脚本書き換えてくれて」

「これぐらいお安い御用っすよ」


 自慢げに背を反らし、詩冴はぽよんと胸を叩いた。


「でもまだっすよみんな。これからが、本番っす」


 詩冴が笑顔になると、ステージ上には学園祭実行委員が上がってきた。

 そう、次の演目は、ミスコンだ。


●本作はカクヨムでは先行して275話まで投稿しています。


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