表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

196/357

美女と野獣

 照明が落ちると、今度は村の背景が映り、桐葉がはけて、代わりに美稲と茉美が現れた。


 照明が点くと、俺は笑顔で身振り手振り、MRオブジェクトの村人たちに言って聞かせた。


「というわけで明日、俺と姫様の結婚式だからみんな来て欲しいんだ。母さん、俺、あの人と結婚するよ。そうしたら、姫様の呪いも解けるんだ」

「あらまぁ。怖い人だと思ったけど、貴方が選んだ人なら、きっとあのお姫様も素敵な人なのね」


 美稲が笑顔の一方で、ステージの端にいた狩人姿の茉美は吐き捨てた。


「森にすむバケモノの呪いが解けるだって? 冗談じゃねぇ。そんなバケモノがいるなら、このあたしの獲物にもってこいだわ! そうだ、いいことを考えたわ!」


 再びステージが暗転すると、今度は俺の部屋の背景だ。

 誰もいないステージの上で、俺は寝起きの演技をして、ドアを開けるパントマイムをした。


「ふー、よく寝た。さて、今日は姫様との結婚式だ……あれ? ドアが開かないぞ? かーさーん、ドアが壊れているみたいなんだけど? あれ? 窓も開かないぞ?」


 すると、外から美稲の申し訳なさそうな声がする。


「ごめんなさい。貴方を外に出すことはできないわ」

「え? どうしてだい母さん」


「狩人さんから聞いたわ。森の化物は、人の心を操り食べるって。貴方はあの化物に騙されているのよ」

「そんなことないよ母さん。俺は騙されていなんかいないよ!」


「心配しないで、今夜、村の人たちがあの化物を退治しに行くから。そうしたら、貴方の目もきっと覚めるわ」

「な、なんだって!?」


 ステージが暗転すると、俺と美稲は舞台袖へ。

 ステージは屋敷の謁見の間に戻るも、BGMに人々の喧騒が流れている。

 桐葉の元へ、舞恋が駆け込んだ。


「お逃げください姫様! 大挙した村人たちを門を破り、ここへ押し寄せるのも時間の問題です!」

「そんな、彼は? 彼はどうしたの?」

「あの男なら来ねぇよ」


 弓矢を構えた茉美が、舞台袖から踊り出した。

 極上の獲物を前によだれを垂らす肉食獣を思わせる声で、茉美は弓に矢をつがえた。

 殺意のこもった鋭い矢じりは、桐葉へと向けられている。


「姫様!」

「邪魔だ!」


 放たれたMR映像の矢が、舞恋に当たった。

 舞恋は胸を抑えて倒れ、動かなくなる。

 桐葉は怯え、ハチの巨躯であとずさった。

 茉美は、弱者をいたぶり楽しむ支配者のようにゆっくりと歩み寄りながら、背中の矢かごから新しい矢を手に取り、弓につがえた。


「さぁ、これで最後だな!」

「やめろぉ!」


 俺が飛び出し、茉美を背後からはがいじめにした。


「なっ、てめぇは家に監禁していたはずなのに!?」

「母さんを説得して出してもらったんだ! 俺の愛する姫様を殺させないぞ!」

「えーい離せ! あっ、あっ、あぁあああああ!」


 俺と茉美は舞台袖近くまで下がってから、茉美は舞台袖に向かって転んだ。

 ごろごろと、まるで人が階段から転がり落ちるような交換音が流れて、最後にバタリと音がした。


「姫様!」


 力無く床に座り込む桐葉に、俺は駆け寄った。

 けれど、俺が桐葉に触れる直前、遠くから深夜0時を告げる、鐘楼の鐘の音が鳴り響いた。

 すると、桐葉が床に両手をついて悲嘆に暮れた。


「もうダメよ……16歳の誕生日を過ぎてしまった……もう私は人に戻れない。ずっと、このバケモノのまま……」


 その姿はあまりにも可哀想で、俺は胸をぎゅっとしめつけられるような、いたたまれない気持ちになった。


 彼女は何も悪くない。


 桐葉だって、好き好んでハチの能力をもって生まれたわけじゃない。


 ハチの能力を持っていたって、その力で誰かを傷つけたわけじゃない。


 なのに、どうして桐葉が傷つかないといけないんだ。


 何も悪いことをしていない人が、どうして傷つかないといけないんだ。


 俺は硬く握りしめた拳をほどいて、泣き崩れる桐葉を抱きしめた。


「姫様、結婚しましょう」


●本作はカクヨムでは275話まで先行配信しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ