OUからの刺客!
言われた通り、俺は桐葉、美稲、真理愛の四人で、学園の屋上へテレポートした。
周囲を見回すと、電話で聞いた男の声に呼ばれた。
「こっちだ」
端の金網に大きな人影がある。
四人で駆け寄ると、それは詩冴の首を左腕でホールドした、コート姿の男だった。
指紋を残さないためか、両手には手袋をはめている。
サングラスで顔はよくわからないが、たぶん、アジア系だろう。
右手には銀色に光る拳銃が握られている。
ゴツイ銃口は、詩冴のこめかみに押し付けられている。
おかしな行動を取れば殺すという、無言の圧力だ。
「詩冴!」
「…………」
「詩冴?」
おかしい。
あの詩冴が、無言だった。
恐怖で声も出ない、と言うわけでもなさそうだ。
その場に佇む詩冴の目はうつろで、焦点が定まっていない。
よく考えてみれば、詩冴の能力を使えば敵の隙を突くこともできるだろう。
なのに、どうしておとなしく捕まっているんだ。
――とにかく、まずはアポートで詩冴を救出だ。
俺が自分の能力を意識した瞬間、機先を制するように、男が口を開いた。
「おっと、アポートはやめたまえ。わかるよ、アポートで彼女を取り戻し、テレポートで私を留置場へ、それがお前の狙いだろう? 本当に、テレポートというやつはチート過ぎる」
まるで負けを認めた悪役のように、男は自嘲気味に苦笑した。
――なんだこいつ? 何を企んでいるんだ?
「だがね……君がチートであるように、私もチートなのだよ」
そう言って、彼は四枚の紙きれを取り出し叫んだ。
「我に従え!」
途端に桐葉、美稲、真理愛が膝から崩れた。
「ぐっ、な、なんだ……これ……」
「眠い……意識が、ハニー、君……」
「これは、あの男の超能力……奴の能力を……念……写……」
真理愛は両手を屋上に着いて、動かなくなる。
「みんな!?」
――まさか、詩冴も!?
俺が悲鳴を上げると、男は勝利を宣言するように高笑った。
「ははは! 四天王に最強能力者も、能力そのものを封じられたら形無しだな!」
男は痛快そうに笑いながら、得意げに語った。
「私の能力はコマンドライター。相手の名前と命令を書いた紙を相手に見せ、キーワードを叫べば相手を意のままに操れる。いかなる能力も気絶してしまえば関係ない」
男が投げ捨てた紙には、
針霧桐葉 気絶する
内峰美稲 気絶する
有馬真理愛 気絶する
と、書いてある。
でも、なら最初から自害する、と書けばいいはずだ。
意のままに操れる、というのはハッタリで、実際はある程度の制限があるのかもしれない。
――それとも、拉致が目的か。なら、輸送手段は? ……ん? いや待て、待て待て待て。
そこまで思考して、俺はある違和感に気づいた。
「パワードスーツを使った派手な破壊工作などいらん。プロフェッショナルは必要最小限の行動で、スマートに仕事を済ませるものだ。だが褒めてやろう。高校生の身でありながら、OUのリーサルウエポンであるこの私を引きずり出した実力をな。さてと、ではお前たちを……ん?」
二本の足で立ち背筋を伸ばす俺と視線を合わせてからたっぷり3秒。
男のサングラスが、ずるっと落ちた。
「……待て、何故お前は平気なんだ?」
「何故って、いや、俺が聞きたいんだけど?」
そうなのだ。
桐葉、美稲、真理愛の三人は、確かに意識が混濁し、今にも気絶しそうになっている。
なのに、俺は全然、まったく、欠片の影響もなかった。




