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美稲と詩冴とデート 後半戦

「なぁ美稲、こんな話を知っているか?」


 美稲の瞳が注視してきてから、俺はゆっくりと語り始めた。


「西洋人の赤ん坊が三人いる。そのうち、保育士がAとBだけを可愛がり、Cを可愛がらなかった。そうしたら、可愛がられたAとBの赤ちゃんは保育士に嫌悪を示したんだ」

「流石は赤ちゃん、差別する悪い大人は嫌いなんだね」


 美稲は優しい目で喜んでくれるも、この話には続きがある。


「けど、西洋人の赤ちゃんCをアジア人の赤ちゃんDに変えて同じ実験をしたら、AとBは保育士に嫌悪を示さなかったんだ」

「ッ……」


 美稲はわずかにまぶたを上げてから、ふと残念そうに視線を下へ傾けた。

 頭がいいだけに、美稲はすぐに察してしまう。


「ご明察。つまり、人間は赤ん坊の頃から排他的で差別的なんだ。けど、詩冴には差別とか上下関係って感覚がないんだ。あいつには、人間が本能的に持っている壁がない。ほんと、凄い女子だよな」


 いい奴すぎて、知り合えたのが嬉しくて、自然と笑みが漏れた。


「今回の演劇にしたって、桐葉のイメージアップの為だろ? ネットで桐葉に否定的な意見があるからって、友達のためにこんな大掛かりなことをわざわざやるとか信じられねぇよ」


「うん。私もそう思う。前に読んだ本に、無償の愛はあっても無償の友情はないんだって。愛は一方的に尽くすものもあるけど、友情は何か得がないと働かない。だけど詩冴さんにはそれがある」


 美稲の言っていることは、少しわかる。


「一人で日本の食料肉事情を解決して、四天王と崇められる詩冴さんは、世間的には桐葉さんより格上。桐葉さんを助けても利得はない。だけど、詩冴さんは桐葉さんのことが大好きで、桐葉さんのためならいくらでも労力をかけられる。これって素敵なことだよね」


「それは美稲も同じだろ」

「ふぅん、そう思ってくれるんだ」


 美稲の瞳が、きらりと黒く光った気がする。


「な、なんだよその意味深な目つきは」

「ううん、別に。ふふふ、じゃ、一緒に暇を潰そ」


 言って、美稲は俺の手を取り歩き出した。

 俺の手を引く美稲の足取りはいつもよりも軽やかに見えるのは、気のせいだろうか?



   ◆



 30分後。

 学園祭を満喫した俺と美稲は、中庭へと足を運んだ。

 けれど、そこに詩冴の姿は無かった。

 アルビノで純白の長いツインテールと言う目立つ容姿を見つけられないわけがないのだが……。


「美稲、いたか?」

「ダメ、こっちにもいないみたい」


 二人で手分けして中庭を探してみたものの、やはり詩冴の姿は見つけられなかった。


「原稿を書くのに夢中になっているのか?」


 視界に着信マークが表示されたのは、俺が首を傾げた時だった。

 着信マークを素早くタップした。


「お、詩冴か? いまどこにいるんだよ?」

『枝幸詩冴は預かっている。他の四天王と針霧桐葉と共に屋上へ来い。他人へ連絡すれば殺す』


 太い、男の声だった。

 俺は背筋に戦慄が走る中、冷静さを保とうと努めた。

 けれど、俺が開いての情報を引き出そうとする前に、通話は途絶えてしまった。


 俺の顔色から、剣呑な事態を悟ったのだろう。

 美稲は声を硬くした。


「ハニー君、もしかして」

「ああ、OUだ。四天王全員で屋上に来いとさ。連中、学園祭でもお構いなしだ」


 俺は、手に汗を握りながら歯を食いしばった。


「大丈夫だ。すぐに詩冴をアポートすれば」

「待ってハニー君。それだと犯人を捕まえられないわ」


 意外な言葉に、俺は耳を疑った。


「そんなのどうでもいいだろ。大事なのは詩冴の安全だ」

「だからこそだよ!」


 語気を強めた美稲の迫力に気圧され、息を呑んだ。


「アポートで詩冴さんを助けてもそれは一時的なこと。犯人を捕まえないと、同じことの繰り返しになっちゃう。OUは倒せなくても、実行部隊を倒すか諦めさせるかしないと、本当の意味では助けられないわ」


 将来まで見据えた美稲の言葉に、俺は自分の浅はかさが恥ずかしくなった。


「ごめん」

「謝らないで。ハニー君は、詩冴さんのことが本当に大切だから咄嗟にアポートしようとしただけでしょ? ハニー君は私の分も怒って。その代わり、私がハニー君の分も考えるから」


 なんだか馬鹿にされている気もするけど、美稲に言われると悪い気がしない。

 それに、こうやって彼女が冷静に対応してくれるおかげで、俺は落ち着けた。


「ありがとうな、美稲。それで、俺はどうすればいいんだ?」

「まず、相手の指示通りにするの。それで、犯人を確認してから助けるの。もしもパワードスーツとか、テレポートの効かない相手だったら、悔しいけど犯人確保は諦めて逃げて」

「パワードスーツなら、俺のゲートを使えば倒せるんじゃないか?」

「過信しちゃダメだよ」


 小さく首を横に振って、美稲は俺をたしなめてきた。


「いくらテレポートがあっても、ハニー君は戦闘訓練を受けていないただの高校生なんだよ。それに、相手だって対策を打っているかもしれない。今まで勝てたからって、自分は兵器よりも強い、なんて調子に乗ったらダメだよ」


 美稲の真摯な言葉に、またも恥ずかしくなる。

 彼女の言う通り、俺は図に乗っていたのかもしれない。

 

 テレポートは強力だけど、だからと言ってなんでもできるスーパーマン気取りは違う。

 現実はフィクションとは違う。

 これまでは奇跡的に上手くいっていたけど、次も奇跡が起きるとは限らないんだ。


「美稲の言う通りだ。よし、じゃあまずみんなに連絡だ」

「うんっ」


 美稲は頼もしい表情で、凛と頷いた。

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