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自称神をテレポート


 だから俺は、周囲の客が注目する中で鋭く言った。


「『お客様は神様』、はことわざじゃないぞ」

「は?」


 周囲の客や生徒の口からも、おっさんと同じような疑問詞が漏れた。


「昔、演歌歌手の三波春●さんが歌う時に、神前で祈るときのように雑念を払っている、と言った言葉が曲解されて、客を神様だと思っていると勘違いされて生まれた俗説だ」


 おっさんはバツが悪そうに周囲の視線を気にしながら、取り繕うようにまくしたてた。


「ご、語源がどうだろうと曲解だろうと、今の日本社会に浸透している言葉ならそれでいいだろう!」

「ことわざはことわざ。ルールでもマナーでもない。じゃあお前の人生はことわざを遵守して生きているのか? 客が神様は三波さん個人の心構えで他の人も順守しなければいけないものじゃない。あんたは他人の座右の銘に従うのか?」

「うぐ、そ、それ、は……」

「だいいち、客っていうのは店が提示した金を払って商品やサービスを受ける人間のことだ。金も払わず不当な行為を強要するお前は客じゃない。ただの営業妨害野郎だ!」


 語気を強めて、俺が立て板に水とばかりに滔々と言いあげると、周囲から拍手が起こった。


 おっさんは歯を食いしばりながら周囲を見回し、たじたじだ。


 これで帰ってくれればいいのだが、


「おまっ、よくも恥をかかせてくれたな!」


 おっさんは、怒りに任せて俺の胸ぐらにつかみかかってきた。

馬鹿は感情をコントロールできないが故の馬鹿であり、馬鹿に理性的な行動など望むべくもなかった。


「テレポート」


 俺はわざとらしく指を鳴らすアクション付で、おっさんを留置場へ送った。


 執事服の襟を正してから、俺はお客様たちに軽く会釈をした。


「では、引き続き猫とスイーツを楽しんでくださいね」


 再び拍手が沸き上がり、みんなが俺に歓声を送ってくれる。

 舞恋と真理愛が駆け寄って、俺の腕を取った。


「ありがとうハニーくん、助かったよ」

「先程の論破は見事でした。詩冴さんや美稲さんを彷彿としました」

「そんな、大したことないよ」


 実際、付け焼刃の知識だ。


 ああいう客が来るだろうと、事前に客は神様理論についてネットで調べて、用意していたセリフをそのまま口にしただけだ。


 それでも、舞恋と真理愛を助けられて満足だ。


「じゃ、俺もう行くよ」


 そう言い残して、俺はバックヤードへ戻った。

 すると、美稲と桐葉が、明るい笑顔で待ってくれていた。


「ハニー君、さっきの見ていたよ。流石、みんなのハニー君だね」

「みんなのって……」


 それはどういう意味で? と尋ねたかったけど、その前に桐葉が抱き着いてきた。


「カッコ良かったよハニー。ほんと、ハニーのこと全部好き」


 両手で俺の頭から首筋を、背中から腰を撫でまわして、まるで桐葉は俺の全部を体で感じようとするように抱きしめてきた。


 必然、ちょっとイケナイ気持ちになってしまう。


 ――くっ、沈まれ俺の暗黒龍! 落ち着け俺の衝動! RECするな美稲!


「じゃあハニー、次はボクと一緒にデートだよ。一生に一度しかない高校一年生の学園祭、いっぱい楽しもうね♪」

「お、おう」


 キスの射程距離から甘く誘われて、俺はさらに滾る本能と戦い続けた。

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