茉美とデート 後半戦
事件は、飲食店をしているの他の教室で起きていた。
男性客の一人が、頭にLIVEアイコンを表示させたまま騒ぎ、それを生徒たちが止めようとしている。
「皆様こんにちは! 今日おれはいま噂の異能学園の学園祭に来ています! いやぁ噂通り超能力者は美少女ぞろいですね! おっとそこにいるのはこの前アビリティリーグに出ていた子ですよね? ねぇねぇ、超能力で戦うのってどんな感じ? あれって強制? それとも志願制?」
手に握った立体映像のMRマイクを向けられた女子は嫌がり、周りの生徒が間に入ろうとする。
けれど男性客は強引に生徒を押しのけ、なおもLIVE配信を続けた。
「いいじゃん別にちょっとぐらい。日本には報道の自由と知る権利があるんだよ。ていうかおれの動画で宣伝してあげるんだからWINWINじゃん」
手前勝手な理屈を並べ立てる男に、茉美の額には青筋が三本ほど立っていた。
だから、彼女がアクションを起こす前に、俺は前に進み出た。
「学園内の撮影およびLIVE配信は禁止されています。LIVE配信をすぐにやめてください」
「お、四天王はっけーん。皆さん見てください、噂のスーパーテレポーター奥井育雄ですよ。アビリティリーグ創設の立役者って聞いてるけどこの学園祭もきみが手動してんの?」
あくまでも軽いノリの男性に、俺は毅然とした態度で臨んだ。
「貴方のしていることは肖像権の侵害です。電子チケットの注意事項通り、LIVE配信をした場合は留置場へ強制テレポートさせて貰っています」
「いいじゃんいいじゃん。別に盗撮しているわけじゃないんだからさぁ。だいたい肖像権っておたくらもう芸能人みたいなもんでしょ? 有名税有名税」
まるで反省の色が泣く、むしろテンションをあげていく男に、俺も我慢の限界が来た。
こいつには何を言っても無駄だ。
こいつには、情けをかける必要はない。
「ていうかむしろテレポートかけれるもんならかけてみてくださいよ。おれ、一度テレポートって体験してみたかったんですよ。あれ? もしかしておれ、世界初のテレポートの瞬間を配信した動画主なれちゃう系? みたいな?」
「じゃあ警告はしましたので。ほい」
男の姿が消えた。
当然、刑務所の留置場へ送ったのだ。
途端に、周囲から歓声が沸き起こった。
被害に遭っていた女子生徒とそのクラスメイトは俺に駆け寄り何度も感謝してくれた。
「ありがとう奥井ハニーくん、おかげで助かったよ」
「まったく、ああいう奴って必ず出てくるよな」
「ハニー育雄がいなかったら俺らじゃどうにもならなかったよ」
「やっぱ四天王ってすげぇな」
「お前がアビリティリーグに出ない理由わかるわぁ、チート過ぎるもんお前」
他の客たちも、惜しみない拍手を送ってくれる。
「あれがテレポートかぁ。初めて見たけど凄いなぁ!」
「なんかこうスカっとしたよな」
「やっぱり世の中こうじゃないと。奥井君、これからも頑張ってくれよ」
「さっきの男のは自業自得だな」
「告知されていたルールを破って警告も無視したんだから当然だ」
今日、何度目かわからない賞賛に、だけどなかなか慣れなかった。
異能学園に入学するまでは、逆だった。
小学校でも中学校でも、被害者である俺が加害者を糾弾すると、俺が責められた。
この程度の冗談も理解できず被害者面をするお前が悪いと責められた。
別にこれぐらい悪くもなんともない。被害妄想をするなと責められた。
皆で口裏を合わせて俺が加害者にでっちあげられることも、しょっちゅうだった。
さらに、俺が助けてあげた生徒が、俺を裏切り俺を売り飛ばし、坂東たちと手を組み俺をいじめてくることもあった。
けれど、今は違う。
法律、ルールに則り、悪党を裁いて被害者を助けても責められない。むしろ賞賛され、感謝される。
そんな当たり前のことが幸せで、照れくさかった。
対応に困った俺は、茉美に駆け寄った。
「じゃあそろそろ戻るか」
でもその前に、茉美は周囲の目線も気にせず、とびきりの笑顔をはじけさせた。
「かっこいいわよ、【ハニー】」
彼女の腕が俺の顔を抱き寄せ、温かい両手が遠慮なく頭をなでてきた。
周りからの黄色い歓声を聞きながら、俺はもう素直に幸せを噛みしめた。




