茉美とデート 前半戦
真理愛とのデートを完了させた俺は、続いて茉美と一緒に校内を回った。
メイド服姿の茉美と一緒に廊下を歩いていると、ちょっと変な感じだ。
「さっきの真理愛、すっごい満足げだったわよ。あんたやるじゃない」
ニカリと笑って、茉美は俺の頭をぐりぐりと撫でてきた。
俺は犬か、と思うも、茉美にこうされるのは嫌じゃない俺がいる。
「いやぁ、最初はハーレムなんて反対だったしちゃんと女の子ひとりひとりを幸せにできるのか不安だったけど、心配し過ぎだったみたいね。えーっとこういうのなんて言うんだっけ?」
「杞憂か?」
「それそれ、杞憂。あたしの杞憂だったみたい」
茉美は歩幅広くて歩くのが早いので、男子の俺でも歩幅を合わせることなく、普通に歩く。
けど、普段、みんなで歩いている時は別だ。
みんなと歩くときは、茉美が麻弥や舞恋に歩幅を合わせているのだろう。
態度はぶっきらぼうで勝気だけど、茉美は他人への気遣いができるいい子だ。一緒にいると、それがよくわかる。
「けど安心しちゃだめよ。これからも桐葉や真理愛を泣かせたら許さないんだから。今後も全員に100ずつの愛情を注ぎなさいよ」
「つまり茉美にもだな?」
「なっ!?」
途端に茉美の頬が赤く染まって、サイドテールがぴょこんと跳ねた。
ちょっと歩調をゆるめながら、俺の顔を恨めし気に睨んできた。
「だってそうだろ? 茉美だって俺の彼女なんだから」
「うぅ、うるさいわねぇ、わかっているならわざわざ口に出すんじゃないわよぉ」
茉美はくちびるをとがらせた。可愛い。
「あーあ、まさかあたしがハーレム要員の一部になるなんて。半年前のあたしが知ったら自殺もんよ」
後悔しているのか? と俺が尋ねようとすると、茉美は吹っ切れたように言った。
「でもしょうがないわよね。好きになっちゃったんだから。それも、今のあんたを」
なかなか恥ずかしい発言に、俺は口をつぐんだ。
「あたしは、桐葉や真理愛を大事にするあんたが好きなんだよね。大好きな女の子を守るために頭を使って、体を張って戦って、その姿に惚れた。だから、あんたが独り身だったらあんたに惚れていない。あんたが桐葉や真理愛と別れて悲しませてあたし一人を選ぶとか言われても喜べない。あたしの恋って、最初からこうなる運命だったんだわ」
だから、と言葉を挟んでから、茉美は睨みながら俺の肩に拳を押し付けてきた。
「これからもあたしらを大事にしなさいよ。それなら、美稲たちをハーレムに加えてもいいから」
その姿が可愛くて、イイ女過ぎて、俺は抱きしめたい衝動に駆られてしまう。
けれど、その前にひとつ、伝えなければいけない。
「なんか麻弥はもう俺の彼女らしいぞ?」
「えっ!? マジで!? いつ!? あんたロリコンだったの!?」
「いや、なんか自然消滅ならぬ自然発生っていうか、さっき唐突に麻弥が琴石にそう自己紹介していた」
茉美はうつむいて額に拳を押し当てた。
「くっ、あんたが麻弥を口説いたらドロップキックからのジャーマンスープレックスをキメるつもりだったけど」
――殺害予告!?
「まさか麻弥のほうから、これじゃあんたを殺せない……」
――殺したいんですか!?
「ね、ねぇ、あんたもしかしてちっちゃいのもイケる口なの?」
豊満な巨乳の下で腕を組む茉美に、俺は苦笑いならぬ怒り笑いを作った。
「お前も美方と同じでけっこうハレンチ脳だよな?」
「なぁっ!? この健全と品行方正が服を着て歩いているようなあたしのどこがハレンチ脳なのよ!?」
そうやって顔を真っ赤にして否定しているところが可愛いのだが、きっと茉美にその自覚はないだろう。
――こいつこの数分でどれだけ俺の好感度を稼いでいると思っているんだ?
そこへ、俺の視界に着信マークが映った。
問題発生を示す、AR表示だ。
表示をタップすると、事件の発生場所と内容が展開された。
――ちっ、またか。
実は、真理愛とのデートや、舞恋や麻弥と回るときも、何度も呼び出された。いい加減、嫌になって来る。
「デート中に悪い、トラブル発生だ」
「やれやれ、やっぱりバカは湧くのね。いいわよ。あたしに気にしないで行ってきなさい」
「本当に悪い。この埋め合わせは絶対にするから」
だけど、俺が申し訳なさそうにすると、茉美は明るい表情でウィンクをくれた。
「バッカ、気にすんじゃないわよ。あたしはみんなを守るあんたのことが好きなんだから。ここで行かなかったら見損なうわよ」
「……茉美」
「ほらほら早く行った行った。そんであたしの好感度稼ぎなさいよね、ハニー」
最後の一言が効いて、俺は握り拳を作って頷いた。
「ありがとうな。じゃ、行くぞ」
「へ?」
俺は、茉美ごと現場へテレポートした。




