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真理愛とデート前半戦

 舞恋、麻弥と遊んだ次は、真理愛の番だ。

 恋人である真理愛とは、二人きりでデートをすることにしている。


「これが、俗にいう縁日というものなのですね」


 体育館では、二年生の出し物で縁日が開かれていた。

しゃてき、金魚すくい、わたあめ、リンゴあめ、型抜きなどの店が、軒を連ねている。

 どのお店も大盛況で、体育館は大勢の人でにぎわっていた。


「真理愛は縁日はじめてか?」

「はい。幼い頃から、こういう場とは縁がなかったので」


 裕福な家庭で厳しく育てられた真理愛のことだ。


 普通の子供が体験して当たり前の遊びが許されなかったのかもしれない。


 もっとも、それは俺も同じだ。


 ――まぁ、俺の場合はただのボッチで親から禁止されていたわけじゃないけど。


 子供の頃、独りで縁日を回っていたら、坂東グループに見つかって馬鹿にされた。それが嫌で、翌年からは縁日には行かなかった。


 遠い過去の辛い記憶。

 だけど、現状が幸せ過ぎて、今では笑い話だ。


 ――人間、大事なのは今と未来だよなぁ。


 今と未来不幸なら、過去が幸せでも人は嘆く。


 過去がどれほど不幸でも今と未来が幸せなら、人は笑い話にできる。


 過去は変えられないが、これからの生き方で笑い話にはできるのだ。


 とか、哲学的なことを考えていると、周囲の声が耳朶に触れた。


「おいあれ、真理愛じゃないか?」

「すごーい、キレー」

「真理愛のメイド服最高すぎるぅ!」

「高一だし整形、じゃないよな? 天然であれかよ」


 有名人で日本三大美少女の一角を確実に担える真理愛は、周囲からの注目を集められるだけ集めていた。


 けれど、正当な理由なく真理愛に声をかけるのはルール違反だ。


 四天王に限らず、基本、ナンパや勧誘、写真撮影のたぐいは、全面禁止だ。


 破れば、留置場送りの対象となる。


「ハニーさん、金魚すくいをいたしませんか?」

「お、金魚飼いたいのか?」

「いえ、小さな命を預かるような身分ではありません。ですが、テレビで目にして憧れていたのです」


 クールな無表情を悩まし気にちょっと崩して、恥じるようにうつむいた。


「その、取れた金魚は返すのでやってみてもよろしいでしょうか?」


 ――かわいい。


「俺の許可なんていらないさ。真理愛がやりたいならやろうぜ。一緒にな」


 真理愛の表情が、1ワットほど明るくなった。

 僅かな変化ではあるものの、普段の無表情無感動ぶりを考えれば、大きな変化だ。


「二人分たのむ」

「あいよ」


 俺は、今日のために下ろしてきた現金を先輩の男子生徒に手渡した。

 今の時代、電子マネーが当たり前ではあるものの、学園祭で読み取り装置は導入できない。

 なので、学園祭は今どき珍しい現金支払いが鉄則だ。


「さてと、どいつを狙おうか」


 俺がポイを握ると、真理愛が冷静に口を開いた。


「金魚は一匹一匹体調が違います。できるだけ元気が少なくても、動きの鈍い個体を狙いましょう」

「詳しいな」

「金魚すくいの極意は、昨日、検索しておきました」


 ――やる気まんまんだな。


 でも、真理愛が自分のやりたいことをやってくれて、おねだりしてくれて嬉しい。


 今まで毒親に虐げられて、やりたいことも言えない真理愛だけど、これからはたくさんわがままを言って欲しいし、叶えてやりたいと思う。


「というわけで金魚の体調の念写しましょう」


 刹那、巨大水槽の水面に、金魚一体一体の体調が表示された。


 表示は、まるでMRアイコンのように金魚につきまとっている。


そして、その全てに【体調不良】【病気】【衰弱】と表示されている。


「素晴らしいです。ハニーさん、ここの金魚は全て【体調不良】で【病気】で【衰弱】しているのでどれも動きが鈍く捕まえ放題です。なんという優良店でしょうか!」


 ――真理愛さぁああああああああああああああああああああん!


 周囲の客の目線が冷たい。


 みんな、金魚すくい屋から一歩引いている。


 俺からお金を受け取った男子生徒が慌て始めた。


「な、何を言うんだ有馬! みなさん違います! これはなにかの間違いです! 俺らは業者に頼んで受け取ったから俺らは被害者です!」


 言っていることがわけわからなくなっているが、とりあえず必死だった。

 俺は心の中で、黙とうを捧げるような気持ちで謝罪した。


 ――ごめんなさい……。


「見てくださいハニーさん、一匹すくえましたっ」


 その間、真理愛は見事に金魚をすくい、無表情で達成感溢れる眼差しを送ってきた。


 ――この子は、俺が一生かけてお世話しないと。


 そんな使命感が湧いて止まらない。

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