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会いたくない高校時代の同級生

「やっと見つけたぞ奥井ぃいいいいいい!」


 飲食店が立ち並ぶ大通りを歩いていると、正面奥から見慣れたくない連中の顔が迫ってきた。


 それは、前の高校の連中だった。


 俺と美稲が出会い、そして坂東にいじめられていたのに、誰も助けてくれないどころか坂東の腰ぎんちゃくをやっていた、あの高校の連中だ。


「げっ」


 という声が漏れたのも、仕方ない。

 連中は息を切らしながら、俺らの前で立ち止まった。


「やっと見つけたぜ」

「お前の連絡先誰も知らないし。中学時代の奴までさかのぼったのに」

「高級官僚の専用官舎に住んでいるって聞いて、この辺ずっと探したぜ」

「お、久しぶりの内峰さん、相変わらず美人だなぁ」

「すげぇ、ナマ真理愛」

「こんなにいるなら一人ぐらい、くふふ」


 後半の三人は特に会いたくなかった。

 下水道シュート欲求が高まる。

 嫌な予感しかないけど、社交辞令として聞いておく。


「見つけたって何か用か?」


 俺が促すと、連中は目を輝かせた。


「異能学園の学園祭チケットくれよ」


 ――そう来たかぁ。


 察した。

 ずぅん、と頭が重たくなるような気分だった。


「倍率100倍とか当たるわけないだろ」

「だから奥井から関係者チケット出してもらおうってことになって」

「とりあえずこれ、名簿。追加分はまたあとで送るから連絡先教えてくれ」

「おい、あの子って確か体育祭の恋舞だろ?」

「ああ、Gカップの」

「ぐへへ、おとなしそうな顔して体は派手だなぁ」


 ――うしろの三人はもう何かしらの未遂罪で逮捕していいんじゃないか?


「どうしたの茉美? なんで耳を塞ぐの?」

「いいから舞恋、あんたは聞いちゃダメよ」


 ――茉美ってほんと女子には優しいよな。つまり詩冴は女子でない。


「俺らにそんな権限はないから他を当たってくれ」


 俺はすげなく断るも、連中はいやらしい愛想笑いを浮かべて食い下がってきた。


「嘘言うなよぉ。四天王でユニークホルダーで一人で日本の燃料問題を解決したお前が頼めば一発だろ?」

「ていうかクラスメイトだし家族とか親友とか身内用ってことでさぁ」

「ケチケチしないでチケットの10枚や20枚ぐらいなんとかしてくれよ」


 あまりに図々しい物言いにイラっと来た。

 桐葉が冷淡な表情になっているので、俺は先んじて口を開いた。


「嘘じゃない。俺は異能学園じゃただの一生徒でなんの権限もない。功績を盾に強盗まがいのことをする気もない。【元】クラスメイトってだけで友達じゃないだろ? 自分の命令に従わなかったらケチだ? お前らのそういう自己中なところが大嫌いなんだよ」


 俺の正論武装に、連中は愛想笑いを引っ込めた。

 正攻法が駄目だとわかると、今度は泣き落としならぬ怒り落とし、ようは暴力だ。


「自己中ってなんだよ! オレらはただ学園祭チケットくれって頼んだだけだろ!」

「傷ついたー、今のは名誉棄損だわ、お詫びにチケットよこせよ」

「でないとSNSに今のこと書き込んじゃうぞ?」


 三人目が自分にだけ見えるARウィンドウではなく、俺らにも見えるよう、MRウィンドウを展開した。


 SNS画面には、すでに四天王奥井育雄に暴言を吐かれたと表示されている。


 あとは、更新ボタンをタップするだけだ。


 あまりに汚いやり口に、俺はイラ立ちが加速した。


 だが、次の瞬間、SNS画面が一瞬乱れて、勝手にLIVE動画が始まった。


 どうやら、今この状況が配信されているようだ。


 ――真理愛? 待て、ていうことは……。


 画面を俺らに見せている連中は事態に気づかず、勝ち誇ったドヤ顔でニヤついた。


「そんな怖い顔すんなよ。お前は黙って学園祭のチケットをよこせばいいんだよ」

「じゃあビジネスの話しようぜ。実はチケットを一枚10万円で売るつもりなんだ。お前にもわけまえやるからさぁ」

「心配しなくてもお前はスターなんだから100人や200人分ぐらいちょろいだろ?」


 当然、この映像も全てLIVE配信中だ。

 視聴者数は1万人を超えて、コメントも連投され続けている。

 だが、俺らに画面を見せているこいつらは気づいていない。

 自分たちが、地獄の底へ全力疾走していることに。


「俺は権力を振りかざすことはしないし犯罪は御免だ。俺についてデマを流すなら、名誉棄損で法的措置を取らせ貰うだけだ」

「強がるなよ。お前も知っているだろ? 無罪を勝ち取っても社会的評価は変わらないもんだ。一度流れた噂は誰にも止められないぜ?」


 視聴者数が5万人を超えたところで、一人の男子が俺の肩に腕を回してきた。


「お前だって今の地位は失いたくないだろ? 有名税だと思って諦めな」

「ハニーから離れろ!」


 桐葉が指先に毒針を形成すると、MR画面を表示させている男子が口笛を吹いた。


「ひゅ~、今の動画いっただきぃ♪ こいつをネットに流せばお前らは社会的に……ヴぇあ!?」


 自身のMR画面を目にして、男子は目玉が落ちそうなぐらいまぶたを開けて固まった。


「なぁっ、なんでこの状況がLIVE配信されているんだよ!? 削除! 削除! あれ!? 消えねぇぞ!」


 そりゃ真理愛の能力で念写したもんだからな。

 削除しても、真理愛が念写を辞めない限り、すぐに再念写されるだろう。


「さては真理愛! テメェの仕業だな! こんなのプライバシーの侵害だ! 今すぐ止めろ!」


 男子たち6人が慌てふためきながら怒鳴って来るが、俺らは真理愛を守るよう人壁を作った。


「やめろ! 俺らに触れたら留置所にテレポートさせるぞ!」


 構わず、6人は俺らに迫った。


「やれるもんならやってみやがれ!」


 先頭の男子が俺の胸ぐらをつかんできた瞬間、俺はテレポートを発動。

 6人の姿は消えた。

 今頃、留置場の壁か鉄格子に激突していることだろう。


「なるほど、こういう感じか」


 いい予行演習になったけど、まだ学園祭ではないので、警察署の人を驚かせてしまっただろう。

 俺は、事情を説明するために一人、警察署へテレポートした。

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