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日本経済再生完了! 異能庁が異能省になりました。

 放課後の仕事終わり。

 俺は桐葉とふたりで、早百合次官の執務室に来ていた。


「ほう、メイド猫カフェか。貴君らの能力を活かした、良い出し物だな」


 執務机を挟んだ向こう側から、早百合次官は椅子の背もたれを軋ませ感心していた。


「当日は私も楽しませてもらおう。それと、私からも報告がある」


 背もたれから背中を離し、早百合次官は執務机に肘をついた。


「先日、ついに日本円の価値が経済破綻前に戻った」

「おぉっ!」


 思わず、感動の声を上げてしまった。

 今年、総理大臣と日銀総裁の喧嘩が原因で日本は経済破綻し、日本円の価値はかつての十分の一にまで暴落していた。

 だが、それが戻ったということは。


「つまり、日本経済は復興完了したんですね?」

「うむ。これも貴君らのおかげだ。明日、皆の前でも正式発表をする」


 達成感に満ちたオトナの笑みを浮かべ、早百合次官は万感の思いを感じさせる声音で語った。


「国債の発行が止まり国家予算は去年の半分。日本円の価値が暴落して輸入は不能になった。だが、枝幸詩冴が山と海から足りない食料を集めてくれた。貴君が天然ガスをアポートして足りないエネルギーを集めてくれた。内峰美稲が金属資源と半導体パーツを用意してくれた。どうしても自給自足できないものは外貨の代わりに黄金で輸入できた。それらを企業に売り、予算を稼げた」


 早百合次官の言葉、ひとつひとつが、俺の思い出を揺り動かしていく。

 俺が思い出に浸る間、早百合次官も、まるで思い出を語るように、穏やかな声を利かせてくれた。


「他にも多くの、本当に多くの超能力者たちが各業界で奮闘し、予算問題と輸入問題は解決した。そうして日本は世界から信用を取り戻して、日本円の価値は再評価された。誇れ、貴君は、この国を救ったのだ」

「……」


 体育祭でいいだけ褒められまくって、なんだか照れくさくて反応に困った。

 だけど今は、確かな充実感と達成感があった。

 続けて、早百合次官は真摯な眼差しを俺を見つめて言った。


「本当に大したものだ。まったく、貴君らには感謝しかない。ありがとう」


 頭は下げず、だけど表情と眼差し、それに声音からは、確かな敬意を感じられた。


 仮にも、早百合次官は異能庁のトップだ。


 頭を下げては威厳を損なう。


 これは権力に胡坐をかいているわけではない。立場に相応しい作法だ。


 上に立つ者は、下の者に敬意を払い感謝はしても、媚びてはいけない。


「ありがとうはボクだよ。早百合次官がボクをハニーの護衛に推薦してくれなかったら、ボクはハニーと出会えなかっただから」


 言って、桐葉はそっと俺の左腕を抱き寄せてくれた。

 制服越しでも桐葉の体温とやわらかさを感じられて、気分良かった。


「それを言うなら俺もですよ。俺は早百合次官が見つけてくれるまではいわゆるボッチで、人生は辛いことだらけでした。それが、今じゃ桐葉なんて可愛い彼女と同居しちゃってますから」


 照れ隠しに、ちょっとおどけた態度を返した。

 すると、正直者の桐葉が余計なことを付け加えた。


「ボクだけじゃなくて真理愛と茉美もだし美稲のハーレム入りも秒読みだよね」

「あ、こら、まだそのことは!」

「ふふふ、なるほど、私の計画通り、ハニーのハーレム化プロジェクトは着々と進行しているようだな」

「顔が悪くなっていますよ!」


「くくく、前にも言った通り、貴君らは注目株だからな。世間慣れてしていないお嬢さんをたぶらかして逆玉に、なんて悪い男が寄ってくることは必至だ。私としては貴君が針霧桐葉、内峰美稲、枝幸詩冴、有馬真理愛、恋舞舞恋、山見麻弥、三又茉美、貴美美方、琴石糸恋をコンプリートしてくれれば助かるのだ」


「最後に余計な二人が入ってますよね?」


 俺がちょっと語気を強めると、早百合次官は不敵な笑みを浮かべる口元に指を沿えた。


「貴美弟から陳情があってな。治安維持の観点から姉さんを世に解き放つは危険なのではにー君という首輪をつけたいと」


 ――守方。お前は姉をなんだと思っているんだ?


「あと琴石糸恋はほれ」




 早百合次官が展開したMR画面に、体育祭の動画が流れた。

 画面の中では、俺がHカップの谷間に顔をうずめ、琴石がトロけた赤面で甘い嬌声を上げている。


「あぁん! このままやとウチ、お嫁に行かれんくなってまう! 殿方に貰われるまでは、清いカラダでないといけんのに!」


「ちょっ! カメラは止まっていたはずじゃ!」

「悪いな、これは私が個人的に撮影したものだ」


 早百合次官の顔が、悪代官と取引をする越後屋のように怪しい笑みを作った。


「ふふふ、よいではないかよいではないか。おっぱい国民の貴君ならば、琴石糸恋のHカップは無視できまい?」

「だ、誰がおっぱい国民ですか!? なんの根拠があって!?」


 早百合次官は真顔の脊髄反射で、桐葉を指さした。


 ――どうしよう。否定できない。でも頑張る。


「ッッッ、別に俺は、好きになった女の子が豊乳だっただけで別に豊乳だから好きになったわけじゃありませんよ!」


 がばっ。


 早百合次官がスーツの前を開いて、桐葉より二回りは大きいスイカバストを突き出した。


 反射的に、俺の視線はそのスイカップに釘付けられた。

 その間、実に3秒。


 俺が正気に戻って顔を上げると、早百合次官は先程とはうってかわり、勝ち誇るように爽やかな笑みを浮かべた。


「そうか、私のことも好きだったのか。これは困った困った。まぁだが、貴君がどうしてもと言うならば善処しようではないか」


 ――や、やられたぁああああああああ! これでもう俺はおっぱい国民と認めるか早百合部長と結婚するかの二択になってしまったぁああああああああああああ!


「それで針霧桐葉、今日はデートなどはするのか?」

「ううん。今日はこれから写真撮影だよ」


 俺を無視して、二人で会話を始めた。置いてかないで。


「もう準備ができているのか? 衣装は作らないのか?」

「最近は貸衣装屋も種類が充実しているからね。カタログでいいのがあったんだよ。これから撮影スタジオでホームページ用の画像を撮って、PVは明日以降かな」

「そうか、順調で何よりだ。それと私の方も順調だぞ。経済再生完了の功績で、来週から異能庁は総務省から独立し、異能省となる」

「本気で凄いですね。異能部ができてから半年しか経っていませんよ」


 省と言えば、国家機関の最高峰だ。


 国防を司る防衛省。

 予算を司る財務省。

 産業を司る経済産業省。

 学問を司る文部科学省。


 これらと並び、同等の権限を持つことになる。


「いや、これも貴君らのお陰だ。予算問題と輸入問題、異能学園運営、OU問題を解決し、アビリティリーグという新たな産業まで産み出した。今や、貴君ら超能力者は政治家同様、この国にはなくてはならないVIPだ。いや、政治家は代えが利く分、むしろ貴君らの方が重要だな」


「それは褒めすぎですよ。これでも16歳のガキなんですから、調子に乗らせないで下さいよ。人間、しくじってからじゃ遅いんですから。それより、異能庁が異能省になったわけですけど、早百合さんは次官から何になったんですか?」


「いや、省も庁もトップの肩書は事務次官だ」


 ――なんだ、じゃあ今まで通り早百合次官て呼べばいいのか。


「だが、せっかく出世したのに名前の呼び方がそのままでは味気ない。ここはより親密になるためにも【早百合ちゃん】と呼んでくれてもいいぞ」


 俺と桐葉はテレポートで離脱した。

 視界が消える刹那、早百合次官の表情が曇ったのは、見間違いじゃないだろう。


●本作はカクヨムでは250話まで先行配信しています。

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