男の友情を感じる主人公
「そうっす、ハニーちゃんは頭が良くて閃きのあるアイディアマンっすよ、ぐへへ、ところで社長、メイド喫茶に興味はございやせんかすか?」
「なんだろう、お前に褒められても少しも嬉しくないな」
俺が詩冴のことをどう思っているか、一目瞭然だろう。
クラスの女子たちも、ドン引きしている。
「だってみんなのメイド姿見たいっす見たいっすぅ~! エロメイド服着てくれないと猫カフェに協力しないっすぅ~!」
「珍妙な動きをやめろ、手足をのたくらせるな、さりげなくエロ要素増やすな」
俺が苛立ちながら語気を強めて命令すると、意外にも詩冴は姿勢を正した。
やっと俺の気持ちが通じたかと思った矢先、詩冴は悟りを開いたお釈迦様のように穏やかな顔で、涅槃に入るように自然な動きで膝と腰を折り、三つ指を点いて額を床に下ろした。
「今生のお願いでございます。ミニスカセクシーメイド喫茶をお願い致します」
「女子が土下座するな! 床に額をこすりつけるな汚いだろ!」
俺は詩冴を椅子の上にテレポートさせてから、彼女の額の汚れをゴミ箱にテレポートして洗浄した。
クラスの女子たちからごみを見るような視線を浴びせられながら、詩冴は恥辱と雪辱と凌辱に耐え忍ぶような声を絞り出した。
「くっ……せめてふりっふりの甘ロリメイド服を着て欲しかったっすッッッ!」
「ん、ふりっふりの甘ロリメイド服なら着てみたいのです」
「というわけで俺らの出し物はハチミツスイーツを出すメイド猫カフェに決まったわけだが他に意見はあるか?」
F6の呼びかけに、みんなは当然とばかりに同調して、メニューや服装、猫の種類などの案を次々出した。
俺と桐葉と美稲と真理愛と舞恋と茉美も次々案を出した。
「扱いに差があるっす! 待遇改善を断固要求するっす!」
「そこはオヤジと合法ロリの差かな。今年で16歳とは思えないピュアさを見習え」
「うん? わたしの誕生日は3月だから、今年で15歳なのです。2025年生まれなのです」
「まさかのリアル年下!?」
――なんだろう、急に麻弥が妹属性に見えてきた。
「なぁ麻弥、ちょっと俺のことをお兄ちゃんと呼んでみてくれないか?」
「どうかしたのですか? おにいちゃん」
――貢ぎたい!
尊死寸前の胸キュンに、俺は心の中で悶えた。
「ちょっとお待ちなさい! ワタクシは反対ですわ! 何故、名家たる貴美家のワタクシがメイドなどと従者の真似事をしなくてはいけませんの? かしずくのは客のほうではなくて?」
腰に左手を当て右手を天に突き上げる残念お嬢様に、俺はげんなりとした。
その隣で、弟さんの守方が俺にウィンクを送って来る。
「でも姉さん、はにーくんたちのおかげでヘビえりまきと手乗りサソリせずに済んだんだよね?」
「うぐっ」
美方の傲慢顔で石のように固まった。
「貴美家の御令嬢が庶民から受けた恩も返さないんだぁ、へぇ」
「ワ、ワタクシは頼んでいませんわ。あれは、結果的にああいう形になっただけですわ!」
守方が自分のMR画面をタップすると、美方の音声が流れた。
『いいですこと奥井淫獣育雄! たとえ非合法な手段に打って出ても必ずその手に勝利をつかむのです! でないとワタクシの首がヘビに、手の平がサソリに!』
「いつ録音しましたの!?」
「いつって聞かれたらそれは姉さんがこのセリフを喋っている時だけど?」
「だから疑問詞ではなく感嘆詞ですわ! バカバカバカ!」
美方は手を伸ばし、長身である守方の頭を叩き始めた。
だけど、守方はまるでこたえていない。
いつもの眠そうな笑みを浮かべたままだ。
「だいいち、ワタクシは給仕何て今まで一度も……」
美方が言い淀むと、守方は口元をにやつかせた。
「ふ~ん、そっか~、姉さんてスーパーエリートなのに従者ごときにもできることさえできないんだぁ」
「何を言っていますの!? 給仕ぐらいできますわ! ようはお茶を入れたり料理を運べばよいのでしょう?」
「わぁ、さっすが僕の自慢の姉さん、頼りになるね」
胸の下で腕を組み、鼻息を荒くする姉に、弟守方は笑顔を見せた。
そして、美方には見えないよう、背中に回した手で、俺にグッドサインを送ってきた。
――ありがとう守方。ありがとう神様。守方を生んでくれて。
守方に、生まれて初めて男の友情を感じながら、俺は心の中で熱く感謝を捧げた。




