ユニコーンライダー
それからの顛末を説明する。
観客は全員VR観戦だったので、今回のテロで死人はゼロだった。
けが人は全員、茉美を含めた回復系能力者のおかげで完治、退院した。
新国立競技場はボロボロだが、美稲が一分で竣工日並に直してくれた。
地糸は当然、即刑務所送りだ。
そして、最大の懸念点であるアビリティリーグだが……。
9月1日の昼。
始業式を終えた俺らは、いつものようにリビングに集まり、打ち上げを行っていた。
『アビリティリーグ成功おめでとう!』
ハチミツティーを入れたガラスのコップで乾杯をしてから、俺らは一気に飲み干した。
「いやぁ、まさかこんな逆転劇が待っているとは思わなかったっすね♪」
「これもハニーさんたちのおかげですね」
言って、真理愛が表示させたMR画面には、俺らの活躍を紹介したデジタル新聞記事が掲載されていた。
そう、あの時、競技場内の映像は24か所に設置されたVRカメラで500万人の視聴者に生配信されていた。
当然、地糸との戦いもだ。
超能力廃絶主義団体のトップが殺人破壊テロを行ったのだ。
おかげで廃絶主義団体イコールテロ予備軍というイメージが浸透。
戦闘系能力者には同情の声が集まった。
それどころか、テロに屈することなく戦う俺らの姿はヒーロー視され、戦闘系能力者のイメージはうなぎのぼりだった。
「一時はどうなることかと思ったけど、ハニーくんたちのおかげで助かったよ」
舞恋が笑顔で胸をなでおろすと、早百合次官もニヒルな笑みを作った。
「日本中の廃絶主義団体は解体に向かっている。今後、奴らも表立った行動はできなくなるだろうな」
「ハニーさん、いいこいいこなのです」
麻弥が、もぎゅもぎゅと俺の頭をもみこむようになでてくれた。貢ぎたい!
「けど、今回は本当に【運】が良かったよな。桐葉と美稲の到着が遅れそうになったら貴美たちが来てくれたし、地糸のテロが起きたけどプラスに働いたし。【福の神】でもついているのか? そういえば貴美たちは来ないのか?」
俺の問いかけに、すぐ隣に座る真理愛が朴訥と答えた。
「彼女たちには断られました。『凡民たちのバカ騒ぎには付き合えませんわ』」
――やれやれ、美方らしい憎まれ口だぜ。
「『て、姉さんは言っていたけど年齢イコール友達いない歴だから恥ずかしがっているだけで今頃やっぱり行けば良かったと頭を抱えてベッドの中で足をバタバタさせていると思うからまた誘ってあげて欲しい』だ、そうです」
「守方も真理愛もソレ言っちゃ駄目なんじゃないか!?」
「?」
なんだろう。守方から真理愛と似た波動を感じた。
「じゃあせめてお礼に沖縄土産をあげよう。首里城の中で売っていたお菓子あったろ? あいつら買えたかわからないし、今度、持って行こうぜ」
おもむろに立ち上がり、俺は壁際に置きっぱなしにしていた紙袋の中から、キジムナーせんべいを取り出した。
そこで、ふと包装紙に描かれたキャラクターが目に留まった。
赤い髪と肌の、子供のようなキャラクター。たぶん、これがキジムナーだろう。
――ん? 赤い髪?
なんとなく気になって、俺はネットでキジムナーについて調べてみた。
どうやら、キジムナーは沖縄に伝わる精霊の一種で、ガジュマルの木の下に住む赤毛の子供で、会うとお金持ちになれるなどの幸運が舞い込むらしい。
「……」
ちらりと、桐葉のおっぱいに甘える麻弥を一瞥した。
ガジュマルの木の下で、誰かと話すパントマイムをしていた麻弥。
その後、赤毛の子供から貰ったと言う古銭。
彼女が髪飾りにしているソレが光るところを、俺は何度か目撃している。
「まさかな……」
俺が頬をかくと、背後から舞恋の恥じらった声が聞こえた。
「桐葉……これ、桐葉がその、ほら、しょ、ユニコーンライダーだってことが拡散されているけどいいの?」
――おっぱい好きだと全国に晒された俺のことも思い出してください。
「あ~、ボクは処女だって大声で叫んじゃったからね。別にいいよ、ボクの初めてはハニーに予約済みなんだから」
「何! 奥井ハニー育雄! 貴君はどこまで甲斐性がないのだ! いつまで桐葉に恥をかかせる!?」
「そうなんですよ。ハニー君って吊った魚にはエサをあげないんです」
「いや美稲、それ言葉の使い方間違っているからな? ていうかわざとだな? あとなんでジト目なんだ?」
「自分の胸に手を当てて聞いてごらん」
らしくない、いや、最近ではむしろ彼女らしい意地悪な笑みを浮かべて、美稲は横目を送ってきた。
「はぁっ!? ちょっと育雄! あんたこの前あたしと約束したばかりじゃない! 女の子を泣かせないって!」
●本作はカクヨムでは236話まで先行して配信しています。




