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最悪のリベンジマッチ


 関係者ルームで、美方と守方を茉美のヒーリングで治療しながら、俺はあらためて二人にお礼を言った。


「ありがとうな! お前らのおかげで助かったよ」

「ふふん、それほどでもありますわ」

「役に立てたようで何よりだよ」

「にしてもお前らあんなに強かったんだな?」


 俺が褒めると、美方は椅子の上でふんぞり返った。


「もっと褒めなさい。そして崇め讃えなさい!」

「まぁ一日一試合が限界だけどね」

「そうなのか?」


 守方の説明に、姉の美方が補足した。


「えぇ。ワタクシたちは消耗タイプですの」


 超能力には、俺のテレポートのように無制限に使えるタイプと、体力のように使った分だけ力を消耗してしまうタイプがある。

 どうやら、ふたりは後者らしい。


「さっきので、今日の分の力は使い切ってしまいましたわ」


 嘘ではない証明とばかりに、美方は手の平にゴルフボール大の炎を作り出した。

 ちろちろと揺らめく炎は弱弱しくて、とてもではないが攻撃に使えるとは思えない。


「ぼくも、水道の蛇口みたいに水を流すのが精一杯かな」

「そっか。でも本当に助かったよ。あとはお前らも楽しんでくれよ。何せこれが本当のメインイベントだからな」


 俺は窓の外、フィールド中央で向かい合う桐葉と美稲を見やった。

 デバイスを通して、視線の先にいる二人の会話が聞こえてきた。


『じゃあ、始めようか桐葉さん』

『ああ。これでもボクらはメインイベントだからね。さっきの試合に負けないよう、派手にキメるよ!』


 言うや否や、桐葉は両手に毒針を形成して戦闘形態へ。全身にハチを模した武装を装備した最終形態は、ある程度戦ってから盛り上げ要素として使う予定だ。


 会場に試合開始のファンファーレが鳴り響く。


 美稲が構え、桐葉が前傾姿勢に飛び出した。


 直後、新国立競技場の解放天井を通り、隕石のような勢いで何かが落ちてきた。


 桐葉は寸前でバックステップを踏んで回避した。


 二人の間に落ちてきたそれは、白煙をまとい立ち上がった。


 その威容に誰もが息を呑むのがわかった。


 同時に、俺は腹が底冷えするような恐怖を思い出した。


「パワードスーツ、OUか!?」


 果たして、フィールド上に降り立ったのは獣を思わせる逆関節の機体だった。

 サイズ的に、パワードスーツというよりも二脚戦車か。

 シャトル型のコックピットの底からはガトリング砲を握った二本のアームが伸び、こちらを狙っていた。


『見つけたぞ、内峰ぇええええええええええええ!』


 スピーカー越しの絶叫音声を聞いて、俺はコックピットに目を凝らした。


 すると、搭乗者は、異能力者廃絶主義団体、『異能社会を考える会』の会長、地糸排郎だった。


『龍崎ぃいいいいいい! 奥井ぃいいいいいいいい! 有馬はどこだぁあああああああああ! 全員殺してやるぅううううう!』

「早百合次官、あいつは捕まったんじゃないんですか?」

「そうだ。しかし逃亡の可能性は低いと判断され、裁判が始まるまでは自宅で待機となったらしい」

「なるほど。伊集院の時と同じですか。OUは、俺らに恨みを持つ相手に兵器を与えて鉄砲玉にするのがよほど好きならしいですね。そんで……」


 ガラス窓越しに、俺は地糸へテレポートを仕掛けた。


「テレポートが発動しません。あれも、複製作成の能力者が作った兵器みたいです」

「そうか」


 俺の情報に、早百合局長は冷静にどこかへ連絡した。


「総理、試合中にOUのものと思われる機体が襲撃してきました。至急、自衛隊と機動隊の出撃準備をさせてください。準備が整い次第アポートします」


 伊集院の時と違い、地糸は素人だろう。

 別に俺らが戦わなくても、本職に任せればいい。

 だから俺も楽観視していたのだが、早百合次官は眉を吊り上げて、声にドスを利かせた。


「出撃させられないとはどういうことですか!? 新国立競技場を戦場にするわけにはいかない? では我々が敵を外におびき出せば……市街戦は禁止? 競技場の中で片を付けろ? しかし、確かに競技場の中で戦車や戦闘機は運用できませんが……ッ」


 鼻の頭にしわを集めてから、早百合次官は舌打ちをした。


「伊集院を倒せたのだから貴君らならなんとかできるだろうと言われた」

「はぁっ!?」


 俺に続いて、茉美たちも素っ頓狂な声をあげた。


「それはおかしいでしょうが!? テロが起きているのに学生に対処させるって!」

「どこの手抜きマンガの展開っすか!」

「わたしたち見捨てられちゃったんですか!?」


 普段はおとなしい舞恋まで、大声を出して怯えた。

 麻弥はどうすればいいかわからず、ぱたぱたと部屋の中を歩いていた。

 真理愛は、念写で相手の情報を集めていた。流石に冷静だ。


「早百合次官、総理がOUと繋がっている可能性はないんですか?」


 俺の問いかけに、早百合次官は痛みに耐えるように苦し気に答えた。


「流石にそれはないだろうが、ブラック企業の社長が如く感覚が麻痺しているのだ」


 それは聞いたことがある。

 無理難題を押し付けられた社員が、死ぬ気で自らを酷使して解決した。すると、社長はその難題を毎回振るようになったと。


「俺らは一度、予知能力者でパワードスーツ装備の伊集院を撃退している。だから総理は勘違いしているんだ。俺らはテロ兵器を倒せるぐらい強いって」


 舞恋たちが青ざめると、美方が立ち上がった。


「ならばワタクシたちが」


 美方は凛々しい表情だが、その背後では守方が心配そうな顔で、首を横に振っていた。


「気持ちは嬉しいけど、無理はしないでくれ。あいつは俺が倒す。あの兵器の性能はわからないけど、俺には【ゲート】がある」

「ハニーさん、ご武運を」

「ああ」


 真理愛の言葉に送り出されて、俺はフィールドへテレポートした。


・本作はカクヨムでは232話まで先行公開しています。

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