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最強マグマ能力!VS究極水流能力!

 20分後。

 桐葉と美稲が接待から解放されるや否や、俺はふたりを関係者ルームにアポートした。


 二人は慌てた様子で開口一番、俺に状況確認を迫った。


「遅れてごめんハニー! 試合は!?」

「お客さんにはなんて言ったの!?」


 まくしてたててくる二人を安心させるように、俺は歯を見せて笑いながら、窓の外を指さした。


「VR視聴者には、サプライズマッチを始めますって言ったよ」


 窓越しに見えるフィールドの様子に、桐葉と美稲は息を呑み目を丸くした。



 それは、あまりに現実離れした光景だった。

 MRで作られたモブ観客映像に囲まれた中、フィールドでは……。


「ボルカン・トライグレネードォ!」


 美方の突き出した拳から紅蓮に焼けた岩石が三方向から放たれ、守方の近くで炸裂。灼熱の華を咲かせた。


 対する守方は地表にうごめく大量の水で壁を作り出し、火炎と爆発の衝撃を相殺。

水飛沫を四散させた。


 すかさず、守方は頭上に黒雲を練り上げ叫んだ。


「タケミカズチ招来!」


 空中要塞のような威圧感を誇る漆黒の雲が稲光を放ち、一瞬白く発光すると中に怪物のようなシルエットを浮かび上がらせた。


 次の瞬間、紫電が大気を駆け抜け、青龍の姿を形成しながら美方に襲い掛かった。


「笑止千万でしてよ!」


 美方が手を一振りすると、四方の地面から避雷針が生え、サンダードラゴンを地中へと逃がしてしまった。

 その様はまるでドラゴンを使役する女神のようだった。


「さぁ、姉に見せてご覧なさいな。貴方の、ありったけを!」

「その言葉、後悔しないでね」


 守方が地面を踏みしめると、床が揺れて津波が生じた。


 洪水を思わせる怒涛の水柱の中には巨大な氷がいくつも混じり、まるで土石流だ。


 衝撃が、客席まで届く。


 とてもではないが、観客を入れることはできない。VR視聴限定にして本当に良かった。


 氷のひとつをサーフィンのように乗り回し、守方は実の姉を押し潰しにかかった。


「これがぼくのありったけ。リヴァイアサンの怒りだよ!」


 だが、それでもなお美方は眉を一つ動かさず、戦乙女のように背筋を伸ばして構えていた。


御美事おみごとですが、それでも!」


 美方の両足が炸裂。

 赤黄色のジェット噴射で空間に尾を焼きつけながら、氷水流の津波に突っ込んだ。

 彼女が前に構えるのは、赤く焼けた鋼鉄のドリル。

 ソレを超高速回転させながら、美方は津波の中に潜り、一息に貫通した。

 弟である守方の前に飛び出し、彼女はドリルを捨てて両手に業火の輝きを集めた。


「姉より優秀な弟などいませんわ! たとえそれが双子であっても!」

「そうだね、だけど今日だけは……あらがわせてもらうよッ」


 爆発が轟音を轟かせ、俺らから視覚と聴覚を奪った。

 反射的に目をつぶってから、すぐに俺は状況を確認した。


 ――どうなった!? 二人は無事か!?


 慌てて二人の安否を確認すると、フィールドには白い霧がたちこめ、すぐには分からなかった。


 だが、しばらくすると霧は晴れ、勝敗の行方をつまびらかにしてくれた。

 フィールドの床には守方が四肢を投げ出し、仰向けに倒れていた。

 その前には、姉の美方が仁王立ちになって得意満面で腰に手を当てていた。


「ワタクシの勝ちですわ! さぁ讃えなさい! この世界最強の超能力者! 万物を灰にする灼熱紅蓮のマグマ使い! ボルケーノ貴美美方様を!」



『け、決着ぅうううううううう! 勝者は姉! 貴美美方選手ぅううううううう!』



 VR観戦なので客席を埋め尽くすのは、すべてAIで動くMR映像と音声だ。

 それでも、美方はまるで本当に万雷の拍手を浴びているように誇らしげだった。

 真理愛が手元のMR画面を見下ろしながら、無表情に一分咲きの笑みを見せてくれた。


「ご覧くださいハニーさん。高評価とイイネのカウンターが止まりません」

「よし!」


 俺だけでなく、詩冴や茉美、早百合局長、普段はおとなしい舞恋や麻弥まで、ガッツポーズを作った。


「あのふたり、あんなに強かったの?」


 桐葉に続いて、美稲も簡単の声を漏らした。


「私たちより強くない?」

「いや、美稲は戦いかた次第だけど、流石に最終形態の桐葉のほうが強いだろ。でも、伊集院が襲ってきたあの終業式で、俺があの二人をテレポートで避難させていなかったら、あの二人がパワードスーツを蹴散らしていただろうな」


 早百合局長も、二人の実力に喉を唸らせた。


「現行兵器よりも強い戦闘系能力者が、針霧桐葉と内峰美稲、それに奥井ハニー育雄の他にもいたとはな」


 その言葉に、舞恋がきょとんと反応した。


「え? 早百合局長も知らなかったんですか?」

「あの二人はとにかく非協力的だったからな。口頭で能力の内容は教えてくれたが、それだけだ。まったく、能ある鷹は爪を隠す、か」

「ふわぁ……」

「すごいのです」


 舞恋と麻弥は、すっかり感心してしまっていた。

 俺も、すっかり見直していた。


 最初会ったときは、騒がしくて偉そうで、俺と桐葉のことを罵ってきたこともあり、馬鹿な姉と苦労人の弟の凸凹コンビ、ぐらいに思っていた。


 だけど違った。

 この二人は、ただの口先野郎じゃない。


 ノブレスオブリージュを体現する、本物の貴人だった。


 俺は、心の底から深く感謝しながら、二人をテレポートさせた。


・本作は【カクヨム】では先行して231話まで投稿済みです。

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