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彼女の能力は?

「まぁいいよ。どうせいつかはバレるんだし。ボクから説明するよ」


 亜麻色の髪先をいじりながら、桐葉は腕を組み、諦め口調では語り始めた。


「ボクの能力は【ホーネット】。蜂以上に蜂の能力を再現できるんだ」


 ――蜂? じゃあ、彼女からハチミツの匂いがしたのは……。


「坂東の動きを封じたのは蜜蝋、宙に吊り上げたのは蜂糸のホーネットシルク、トドメは毒針を飛ばしたんだ。もっとも、毒の効能は自由自在だから、蜂以上に危険だけどね」


 ――えっ、ということは……。


 自嘲気味に笑いながら、桐葉は俺を見やった。


「どうする? 怖いなら早百合部長に言って今からでも……何してんのキミ?」

「ええっ!? あ、いや……」


 一瞬、イケナイ妄想力が働いてしまったことを恥じながら、俺は視線を逸らした。


「ねぇキミ、育雄をサイコメトリーしてよ」

「え!? いやそんなことできないよ」

「じゃあさっきのお詫びで」

「あうぅ、それを言われると辛いなぁ」

「ちょっ、やめろ桐葉。それシャレにならないから!」

「真理愛は何をしているのですか?」


 山見が有馬のMR画面をのぞき込む。


 有馬は、画面をひっくり返した。


「はい、舞恋さんに代わり、奥井さんの脳内を念写してみたのですがご安心を。奥井さんはなんら恥じるの事のない、健全なことを考えていました」


 空中に展開されたMR画面には、ハチをイメージしたセクシーなドレスに身を包んだ桐葉が、深い胸の谷間を強調しながらくちびるを舌なめずりしている画像が映っていた。


 画面下には『媚薬毒でコーフンしちゃった?』という文字が躍っている。


 有馬は「奥井さんの潔白を証明しました」と言わんばかりに自信に満ちた顔で親指を立てている。


「これのどこが健全なんだよ!?」


 全力でツッコミながら、俺は両手でMR画面を隠した。


「何をおっしゃいますか。心理学的調査によれば、男性は一日13回も性行為のことを考えているのですよ。なのに胸元を強調したドレス姿程度、健全ではないですかっ」


「握り拳を作って言うな! 恋舞、これはそういうんじゃないから。あと山見は邪魔するな!」


 恋舞は両手で顔を覆い、指の隙間から画像を目にして震えていた。


 山見は、俺の手をどけさせようと、腕にぶら下がってくる。お人形のように軽い。


 それから、肝心な桐葉のことを思い出す。


「ごめん桐葉! でもこれは不可抗力って言うか、つい頭に浮かんだだけでとにかく深い意味はなくって」

「ぷっ」


 頭も口も空回りしながら俺が言い訳を並べ立てていると、無機質な桐葉の顔に、幼女のような笑みが咲いた。


「あははははは! 何キミ、蜂とか毒とか言われて最初に思いつくのがソレなの?」


 桐葉は無邪気に、目じりに涙を光らせて笑った。


 俺は恥ずかしくて死にたくて、穴があったら入りたいどころか埋めて欲しい気分だった。


 俺はうつむいて、両手で顔を隠した。


 でも、そうすると今度は、温かい腕に肩を抱き寄せられた。


 顔を上げると、目の前で桐葉が、満面の笑みを浮かべいた。


「早百合部長から聞いていた以上だね。キミ、気に入ったよ。決めた。今日からキミが、ボクのハニーだ」

「ハニーはお前だろ」

「じゃあボクのことハニーって呼んでくれる?」

「呼ばねーよ!」

「じゃあキミがハニーだ」

「誰がハニーだ。勝手に恋人ヅラすんなよ」

「ボクのこと好きなくせに」

「す、好きじゃねぇし」


 外見は最高だし、性格も坂東たちより遥かに良いとは思う。


 それでも、イコール恋人にしたいわけじゃない。

 けど、


「説得力がないなぁ」


 有馬のMR画面を指さされて、俺は閉口した。


 誰が何と言おうと、俺が桐葉でエッチな妄想をしたのも、性的に魅了されているのも、確かだった。


「ふふふ、これからよろしくね、ハニィー」


 身を寄せながら、桐葉は俺のあごの下をなでてきた。

 脳を駆け上がるゾクリとした快楽に耐えながら、俺は話題を逸らした。


「いい加減、テレポートするぞ。スケジュールが遅れる」


 そろそろ10分経つし、内峰のところにも行かないといけない。


 桐葉のせいで、とんだ乱痴気騒ぎになってしまった。


 こんなのまるで、俺が嫌いなパリピな連中じゃないか。


 なのに、別に気持ち悪くはない。


 それはきっと、彼女たちが相手だからだろう。


 同じ乱痴気騒ぎでも、連中のは、他人を馬鹿にして見下した態度があるし、より自分が優位に立とうという気構えが透けて見える。


 一方で、彼女たちにはそういうのが無い。


 むしろ、同じ組織の仲間へ対する、好意のようなものさえ感じる。


 たいていの奴は、坂東に与して俺を攻撃した挙句に「こんなのほんのジョーダンだろ、何ムキになってんだよ」と都合のいいことを言ってくる。


 けど、彼女たちには俺を害する気はなく、むしろ、俺のためを思ってくれているのがわかる。


 今までは、ボッチのくせしてソロ充を気取っていた俺だけど、こういうのも悪くないと、そう思い始めていた。


 ――ただし、有馬とは一度じっくり話す必要があると思う。


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