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論破の極意

 と、俺が名作の名シーンを頭の中で再現していると、桐葉は無関心にソファへ体重を預けた。


「無視していいんじゃない? 戦いは同レベルの相手としか成立しない。こっちは仮にも総務省なんだ。低俗な悪質クレーマーのわがままを聞く必要なんてない。むしろ、相手の思うつぼだろうね」


 うっとうしそうな桐葉に、美稲は困った顔をになる。


「でも断ったら、逃げたとか説明責任を放棄したとか言ってくると思うよ?」

「仕方ないよ。だって大衆は騙されやすいんだろ? なら、討論番組でボクらがどれだけ論破しても伝わらないよ。結論ありきの大衆は目の前の現実よりも自分好みのデマを信じるんだ」


 幼い頃からクラスメイトに迫害されていた桐葉の言葉には実感がこもっていて、俺は否定する気にはなれなかった。


 それに、桐葉の言うことも一理、いや二理はある。


「確かに、ここで討論番組なんてやったら、その市民団代は総務省と対等に話せる権威を持つことになるよな」


 日本人は権威に弱い。市民団体はさらに権勢をふるうだろう。


「それに、昔からノイジーマイノリティってのは論破されても認めないしな。なにせソレが趣味や飯のタネなんだ。考えをあらためるわけにはいかないよな」

「……なら、私は受けたほうがいいと思うな」


 俺らひとりひとりに語り掛けるにように、美稲は落ち着いた声で語り始めた。


「大事なのは何が目的かだと思うの。私たちの目的って、廃絶主義者の人たちを改心させること? 違うよね。私たちの目的はあくまでもアビリティリーグを成功させること、そして多くの人に私たち能力者が危険じゃないよって伝えることでしょ?」


 それはその通りだ。

 俺らは互いに顔を見合わせながら、無言で肯定し合った。


「戦えば相手と同レベルに堕ちる。だけど、図星だから何も言えないんだって思われて、声の大きな人の嘘が浸透してから慌てても後の祭りだよ」


 いつもは優しい美稲は表情を引き締め、真剣味を帯びた声で告げた。


「私たちは廃絶主義者を改心させるために論破するんじゃない。まだ毒されていない人たちが騙されないように論破するの。騙されかけている人たちの目を覚まさせるために論破するの。だから、討論番組に出ましょう」


 最後まで言い切られて、俺は舌を巻いてしまった。

 美稲の言う通りだ。

 目的は何か。

 それを見失ってはいけない。

 廃絶主義者は俺らの敵だが倒す必要はない。


「なら、せいぜい連中を踏み台にさせてもらおうか。でも必ず論破できるとは限らないぞ?」

「ううん、できるよ」


 自信溢れる眼差しで、美稲は言い切った。


「論破は簡単。自信を以って(持って?)事実を羅列する。ただそれだけなんだよ」


 一点の曇りもない声音が信頼となり、全てを美稲に任せてしまいたくなってくる。

 そこへ、早百合次官が参戦してきた。


「貴君は頼もしいな。では、私も策を使おう。上手くすれば、民衆の目を劇的に覚ませるだろう」


 早百合次官が悪い顔をすると、真理愛が問いかけた。


「こちらの人数は決まっているのですか?」

「三対三だと聞いている。こちらは私と内峰美稲、あと一人は……」

「私が行きます。私なら、いざという時に必要な情報を念写できます」

「駄目だ」


 早百合次官の判断を待たず、俺は反射的に口を挟んでいた。


「もう忘れたのか? 伊集院の時のことを」


 先月、芸能人のスキャンダルを暴露した真理愛は、逆恨みをしたファンに襲われた。

 顔色を変えた真理愛をたしなめるように、俺は真摯に語りかけた。


「廃絶主義者のヘイトが真理愛に向いたらどうするんだ? ああした連中の中には過激派もいる。それに昨日の今日ならぬ先月の今月だ。気持ちは嬉しいけど、ここは我慢してくれ」

「ハニーさん……」


 真理愛は残念そうではあるものの、どこか照れたようにも見えた。


「三人目は俺が行きます。坂東や伊集院が起こした事件について突かれた時、直接戦った俺なら詳しく説明できます」

「それがいいだろうな。皆も、それで構わないか?」


 桐葉たちの顔を見回して、反論がないことを確認してから、早百合次官は電話を入れた。

 かくして、俺らと廃絶主義者との討論バトルが勃発したのだった。



「ところで奥井ハニー育雄、実はな、私は額でドリアンを割れるのだ」

「?」

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