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5Gより6G

 ――何かないのか?


 みんなで頭を悩ませると、ふと美稲が顔を上げた。


「あ、そろそろダイヤモンド半導体を作りに行かないと。ハニー君、お願いできる?」

「おう」


 美稲は先月から、OU対策としてダイヤモンド半導体の主要パーツであるダイヤモンド部品を作り続けている。


 アジア統一を目指すOUことオリエンタル・ユニオンにとって日本の発展は邪魔でしかない。


 そのため、美稲の貴金属生成と俺のメタンハイドレート掘削をやめなければ貿易をやめると脅してきた。


 OUに巨額の電子機器を輸出する日本としてはまさに経済存亡の危機。


 そこで、美稲が6Gを可能とするダイヤモンド半導体の部品を作り、国内に売りさばくことで電子機器業界を救おうという計画だ。


「もうどれぐらい作ったんだ?」

「今日作ったら1000万個いくんじゃないかな?」

「順調なようでなによりだ。内峰美稲のおかげで6G社会は目の前だな」


 ――ん、待てよ?

 早百合次官の何気ない一言で、俺は閃くものがあった。


「あの、6Gを使ったVR観戦に切り替えたらどうですか?」


 みんなの視線が集まる中、俺は説明した。


「会場にVRカメラを設置して、デバイスのVRモードで有料配信するんですよ。会場の8方向×上中下三段階の24か所から自由に視点移動して見られるようにすれば、席に縛られることもありません。周囲の座席にはAIが作ったアバターが座ってそれっぽい動きをさせれば雰囲気も出ます」


 俺は自信をもって言い切ったが、反応は微妙だった。


「え~、でもハニーちゃん、VRじゃあの臨場感は出せないっすよ。昨日のお客は物足りなく感じちゃうっすよ」


 舞恋と茉美も同感らしく、顔を見合わせて頷き合っている。


「だからこその6Gだ。早百合次官、6Gなら、今よりも遥かに大容量の、それこそその場にいるような鮮明度の五感情報をラグなしで脳に送り込めるんじゃないですか?」


 早百合次官の口元がニヒルに持ち上がった。


「なるほど。貴君の考えた通りだ。実を言うと、現実と区別のつかない視覚、聴覚、一部の触覚情報を脳に与えることは可能だ。しかし、いわゆるフルダイブ、とでも言うべきSFチックなものが流通しないのは、まさに通信速度の問題だ。現代の半導体では限界があるのだ」


 手ごたえを感じるように、徐々に舌は軽快になっていく。


「それに、なにも全てをVRにする必要もない。近接系能力者同士の戦いは直接観戦できるようにしてもいい。元よりスポーツとは現地、ラジオ放送、テレビ放送、ネット配信、ベイパービューなどいくつもの観戦放送がある」


「でもハニーちゃん、どうやって6Gデバイスを普及させるっすか?」

「う、それは……」


 痛いところ突かれて俺が言い淀むと、我らが参謀、桐葉が助け舟を出してくれた。


「試験運用ってことで観客限定で配布すれば? まずはサンプル品ていうことで、既存のデバイスにダイヤモンド半導体を搭載した6G対応モデルを作るんだよ」


 まるで桐葉から引き継ぐように、第二参謀の秀才、俺らの内峰美稲がさらに補足した。


「今、経済破綻の影響で休止中のデバイス工場とエンジニアはたくさんいるから、その人たちにフル稼働してもらえば大丈夫だね。世界初の6G運用のモデルケースなら世界中でニュースになるだろうし、最高の宣伝になるよ」


 どんどん話が大きくなってきて、みんなの顔に動揺と期待が広がるのがわかる。

 俺も、ちょっと胸が高鳴ってきた。


 ――これって、時代の先駆者とか、開拓者って奴じゃないのか?


「サユリちゃん、もしかしてシサエたち、パイオニアって奴っすか?」


「もしかしなくてもそうだ。というよりも、貴君らは超能力で日本経済を救った時点ですでにパイオニアだ。死んだあとは偉人伝になるかもな」


 からかうような語調の早百合次官に、俺は首をひねった。


「いや、日本経済を救ったのは早百合次官ですよね?」

「何を言っている? 私は案を出しただけで実行したのは貴君らだろう?」


 ――……ッッ。


 早百合次官が不思議そうに眉をひそめる姿が、とても魅力的に見えた。

 彼女は、俺の大恩人だ。

 早百合次官がいなければ、俺は今でもボッチで坂東にいじめられていただろう。

 桐葉や真理愛と出会うこともなかっただろう。

 このプロジェクトの発起人である早百合次官には、感謝してもしきれない。


 それに、24歳の若さで何百人もの超能力者をまとめあげ、なおかつ大人の黒い搾取体勢を作らず、総務省異能局次官を務めるのは、早百合次官の才覚あればこそだ。


 なのに、早百合次官は自分の偉業に気づかない。

 自分の手柄に鈍感で他人の手柄には敏感。

 その在り方は魅力的で、つい惹かれてしまう。


 ――あぁ、そうか。


 美稲の言葉を思い出した。




「普通の人は他人の手柄を横取りする、自分との共同だったことにする、あるいは他人の手柄にケチをつける。でもハニー君は自分の手柄にすら気づかない。そんなハニー君のことが、私は好きだな」


 美稲の気持ちが少しわかった。


 もしも、坂東が俺の立場なら、きっとこれでもかとデカイ顔をして調子に乗っていただろう。


 一方で、俺は自分が日本を救った自覚すらない。


 それは最近、超能力に目覚めたばかりかもしれない。


 だけど、美稲も今の俺と同じ気持ちだったのだろう。


 考えてもみれば、この場にいる中で、自分の手柄を誇示する人は一人もいない。


 真理愛なんて、通り魔に襲われた後、自分が調子に乗っていたからこんなことになったなんて言い出したくらいだ。


 ――めぐまれているなぁ。


 今ここにある幸せを噛みしめながら、俺はみんなと6G普及の会議を進めた。

  

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