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セクシーバスタイム


 詩冴たちが帰った後、俺は一人、湯船に浸かっていた。


 桐葉、美稲、詩冴、真理愛、舞恋、麻弥、茉美、7人の女子と騒いでいた時間が一転、一人きりになると、落ち着く半面、ちょっと寂しくなる。


 ――それにしても、最近までボッチだった俺がいつのまにかすっかりフレンドリーになったもんだな。


 さっきも一度考えたが、原因はなんだろう。


 テレポートのおかげか?

 テレポートを見抜いてくれた舞恋のおかげか?

 俺を重宝してくれた早百合局長のおかげか?

 それとも、こんな状況を許してくれている桐葉のおかげか?


 ……いや、きっとどれも違う。


 俺が毎日楽しく騒がしい毎日を送れているのは、みんなのおかげだ。


 桐葉を含めた、みんな一人一人が、俺を嫌うことなく、好意的に接してくれているおかげだ。


 なんだか幼児向けのお利巧すぎる解答かもしれない。


 だけど、あの場にいるひとりひとりみんなが、あの楽しい時間を作っているんだと思う。


 ――一人が楽だなんて思っていたくせに、俺も成長したなぁ。


 体を深くお湯に沈めて、顔だけを水面から出しながら、胸の奥でしみじみと思う。

 中学時代の俺は、他人といるより一人の方が楽しいと思っていた。


 でもそれは、俺が一緒にいて楽しい相手を知らない、無知な中学生だったからだ。

 他人といる楽しさを知らないくせに、一人のほうが楽しいとか達観した気になっていた俺は、とんだおませさんである。


 ――まぁ、今も違う意味でませているけどな……高一で彼女二人って……。


 桐葉も真理愛も、本気だ。


 ということは、俺の将来は本当にハーレムルートなのか? 桐葉と真理愛の二人に挟まれながら夫婦生活をしちゃうのか? いやいやいや。


 下半身で邪心がうごめかないよう、俺は頭をからっぽにしようと努めた。



「ハニー、一緒に入ろう♪」



 が、桐葉が許してくれなかった。


「ほうふぁぁああああ!」


 盛大にお湯飛沫を上げて、俺はうつぶせに反転しながら、お湯の中に避難した。


 お湯の中で体育座りポーズを固め、五感の情報をできるかぎりシャットアウトする。


 それでも、頭の中でY染色体に由来する欲望がフル稼働してしまう。


 いくら勉強しても数式が右から左のくせに、俺の脳細胞は前に直視した桐葉の全裸を、16Kの高画質で鮮明に再生しやがる。


 桐葉の裸は、童貞殺しどころか非童貞でも出血多量で殺せる致死性を持っている。


 マンガみたいな特盛バストとヒップは重力に逆らい美しい丸みをキープしながらも、やわらかさを想像させるようにわずかにたわみ、こねくり欲を過熱してくる。


 そして、ウエストは豊麗なバストとヒップと相反するように細く、思わず腕を回したくなる。


 ふとももなんて、お尻に負けず劣らずむっちりと肉付きがいいのに、脚がすらりと長いせいで、太っている印象をまるで受けない。


 スレンダーとグラマーのいいとこ取りを、矛盾することなく兼ね備えた、非現実的なボディラインは、悪魔的とさえ言えた。


 桐葉とえっちができるなら、たとえ対価が魂でも、世界中の男がダッシュで列に並ぶだろう。


 すべすべとした触感が、背中にふれた。


 ――ひぃっ!?


 どうやら、桐葉が指先で俺の背中を突っついたらしい。


 ひとつ、ふたつ、みっつと増えて、やがて十指が俺の背中をなでまわしながら、胸板に這ってきた。


 甘ったるい声が、水の中でもクリアに聞こえてくる。


「ねぇハニー、亀みたいに丸くなっていないでこっち向いてよぉ」


 ――うぉおおお、誰が向いてたまるかぁあああ!


 そう決心した直後、うなじに唇の感触が走って、全身が弛緩した。


 俺は無抵抗に体を反転させられ、顔を上げさせられた。


 あとは、まぶたを上げただけで、俺は桐葉のすべてを目にしてしまう。


 そうなったら、俺の下半身に眠る暗黒龍が復活して桐葉を不幸にすることは確実だ。


 俺は、鉄血の意思でまぶたを硬く封印する。


「ふふ、ハニー、ボクねぇ、いま、ブラもショーツも身に着けていないんだよ」


 ――あぁああああああ! 開いちゃう開いちゃうまぶた開いちゃう!


 頭の中で、悪魔の恫喝と天使の泣き落としが聞こえてくる。


 俺の中に良心など存在しなかった。


 さらには、これは桐葉が望んでいることで愛する彼女を幸せにするための行為だと、全力で正当化してくる自分がいる。


 そして、神託が舞い降りた。



「奥井育雄よ。ならば折衷案として片目を閉じて片目を開けるのじゃ」



 ――なるほど、その手があったか!


 俺は神の啓示に逆らわず、期待に胸を膨らませながら右目を開けた。


「まっ、バスタオルは巻いているんだけどね♪」


 桐葉の体には、白いバスタオルが、それはもうギッチリと巻かれていた。


 ギッチリ過ぎて、胸の谷間すら見えない。


「あれ? どうしたのハニー? 親戚全員に借金の連帯保証人にされてから逃げられたみたいな顔だよ?」

「なんでもないよ……これは、そう、俺への天罰だから……」


 魂の底からションボリしながら、俺は壁に頭を預けた。

 死にたい。


「あはは、期待させちゃってごめんねハニー。今脱いであげるから、そんなにすねないで」


 生きたい。

 一瞬でそう思えるほどの希望の光に、俺はいちもにもなく顔を上げた。


 それから桐葉は立ち上がり、バスタオルに手をかけた。


「えい♪」


 眼前に、桐葉の肌が晒された。


 シミひとつ、産毛一本生えていないなめらかな白い肌に生える淡い桜色……の水着に俺は目を奪われた。


「また残念でした。ボクの裸が見たかったら、もっと素直に、あれ?」


 少しも残念じゃない。


 桐葉の水着は凄くえっちだった。


 ただ布地面積が小さくて肌の露出が多いだけじゃない。


 ブラは乳輪周辺しか隠していないのに、横乳や下乳に紐が食い込み、ボンレスハムみたいになっている。それだけに、桐葉のおっぱいの量感がなまなましく伝わってくる。


ヒモパンはヒモの位置が高く、布地はハイレグカットが入っていて、腰骨やふとももの付け根まで見えていた。


 裸じゃないのに、裸とは別ベクトルで、裸並に素敵な絶景だった。


 ――ああそうか。水着姿は、決して裸の下位互換なんかじゃない。水着は、桐葉の豊麗なおっぱいとお尻を飾りたてる装飾品。


 魅力的なものの魅力を最大限に引き出すアイテムなんだ。


 肝心な部分をギリギリ隠すことで俺の想像力を限界まで掻き立て、なおかつ、ヒモの食い込みで裸では表現できない、触覚情報を視覚情報に落とし込む。


 最高過ぎる桐葉のチョイスに、俺の両手はご神体を前にしたように拝んでいた。


 ありがたやありがたや。


「ちょっ、ハニー、そんなにされたら、逆に恥ずかしいんだけど、んん、そんなに、似合っているの?」

「至高」

「…………えへへ、ハニー♪」


 桐葉はザブンと湯船に浸かると膝を抱え、亜麻色の髪をお湯に浮かべながら、上目遣いに、はにかんだ。


「ハニーが興奮してくれて、うれしいよ」


 はにかみボイスに、ズギュン、と音がしそうなくらい、俺のハートは撃ち抜かれた。


 ――か、可愛い。むしろ尊い。


「でもねハニー、ボクに夢中になるのはいいけど、真理愛のことも可愛がってあげなきゃダメだよ?」

「う……」


 その一言で、俺の頭は急速に怖気づいてしまう。


「あの、さ。桐葉は、どうして真理愛とも付き合うのをOKしてくれたんだ?」

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