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異世界から異世界へ

「そう! こういうのじゃ! これこそ冒険!」

 興奮したマウスがグッと拳を振り上げる。

「ちょ、おま、待・・・・・・」

 複数の石のパネルが並ぶ壁に、そして石壁に閉ざされた通路と退路。

 先ほどからマウスが制止を振り切り、パネルを叩きまくっていた。

 1度目は通ってきた通路、つまりは退路に分厚い石のドアが降ってきた。

 2度目はどこからともなく矢が飛んできて七味が華麗に回避。

 3度目はウリウリに立っていた床がきれいに無くなり、黄色い悲鳴と共に彼女は穴の底に落ちていった。

 4度目は壁がバネ仕掛けで飛び出し、七味が床の穴に吹っ飛ばされ、姿が見えなくなった。

 そして今、5度目のパネルがコトリ、という小気味の良い音と共に押される。

 マウスの姿が見えなくなった。

 ではなく、ユーマの足元の床が抜けたのだ。

 涼しい風を切りながら、直立不動のままユーマは落下する。

 ユーマは無駄に落ち着いていた。

 このまま足から落ちたら両足がバラバラになることだろう。では腹ばいか? いや丸まるべきか。

 顎に手を当てながら思案する。

 既に10秒ほど経っただろうか。まだ底が見えない。

 かなり深いところまで落ちているようだ。困ったな3食分しか持ってきていない・・・・・・。

 食料の心配をした直後、暗闇が晴れ、青空に投げ出された。

 なぜ青空?! ユーマは首を傾げ、そのままの姿勢で真下の水面に突っ込んでいった。


「空が青い。・・・・・・そして温かい」

 どう見ても南国の島っぽいところの砂浜で空を仰ぎながら呟いた。

 涼しげな風が頬を撫でる。

 ザザーンという波の音。

 近くのヤシの木の枝で濡れた衣服が揺れていた。

 未知の地下神殿の調査、というクエストを受諾したユーマ達は町の外約2㎞の距離にある遺跡に赴いたのだ。

 岩が剥き出しのはげ山の中腹にエジプトの神殿を思わせる建物の跡があった。

 地上はバキバキのボキボキになっていたものの地下通路はきれいなまま残っていた。

「ふむ、生き物の気配はなさそうだ」

 通路の奥を伺う七味が残念そうにつぶやく。

「もしかしたらアンデッドがいるかもしれませんよ!」

 何故かウキウキした口調でウリウリが言い放つ。

「お宝もあるかもしれないのじゃ!」

 マウスが不用意に床や壁を撫でまわす。

「できれば無難に調査を終えたい・・・・・・」

 ユーマはげんなりとした顔でアクシデント待ちの3人を眺めていた。

 高さ3m、幅3mほどの通路をひたすら進むと色々な模様の描かれた石のパネルがある部屋に出たのだ。

 面白がったマウスがパネルを叩き、トラップが発動。

 それを見て、冒険だ!とはしゃぎ出し、落とし穴に落下。今は南国の島っぽいところにいる。

 ワケが分からない。

 見上げた青空には太陽が輝いていた。

 地下遺跡の穴に落ちたのにいと可笑し!

 水平線の彼方には何も見えないことから絶海の孤島だろうか。

 島はというと割と広い砂浜に草原、そして明らかにサイズのおかしな木々が乱立していた。

 遠近法無視だろうか、屋久島の杉の木よりも何倍も大きな木々が生えているのだ。

 ファンタジーだな、ユーマは思考を放棄した。

 しばらく水平線を眺めたあと、近場の散策をすべく立ち上がる。

 とはいえ海と砂浜とただっ広い草原があるだけだ。

 何も珍しいものは、と思った矢先だった。

 浜辺に人が打ち上げられていた。

 よくマンガとかで見るような感じだ。

 水色の長い髪に白い肌、女の子のようだが学生さんが体育の授業中に流されたのだろうか?

 パッと見、体操服みたいな恰好だった。

「まずは生存確認を」

 ユーマは手早く、少女の手首で脈を計る。

「もしもし、大丈夫ですか?」

 肩を軽くたたく、応答なし。そして口元に手を当てて呼吸の有無を確認、仰向けにひっくり返して胸が上下に動いていることを確認。

 意識無し、脈あり、呼吸あり。

 とりあえず、半分波に洗われている状態もなんなので浜辺に引き上げるとヤシの木の下に引きずっていき、そっと安置した。

 服を脱がせた方が良いかも、と思ったものの目覚めた後にマンガ特有の「何かしたでしょ!?」を引き起こしかねない。

 ユーマは面倒ごとは出来るだけ避ける男だった。

 太陽が真上に昇り、じりじり砂浜が熱くなってくる。

 鉄板を敷いて生卵を落とせば目玉焼きができるかもしれない。

 あいにく持ち合わせが無いので試せないが。

 ユーマはヤシの木に引っ掛けて乾かしていたカバンから防水布に包まれたお弁当を取り出す。

 ヤヤと呼ばれる穀物を叩いて伸ばして揉み揉みした団子状の物が2つ。

 味は塩おにぎり、口当たりは餅だ。

 スライスして塩焼きにしたドッポポとかいう空飛ぶ鶏の肉、ミチクサという名の野菜。

 頂きます、と手を合わせたあと口にほおばり次々食べていく。

 7、8分で食べ終えると、ご馳走様、と手を合わせる。

 ユーマはマナーも気にするジェントルメンであった。

 防水布を畳むとカバンに仕舞い、日干しになっている少女を見やる。

 年のころ、16~18歳くらいか。

 血色が良くなってくると小麦色の健康そうな肌色に贅肉のついていないスレンダーな体つき。

 黒色のスパッツにTシャツのような服装。

 水色の髪の毛はアップのポニーテールにされている。

 いわゆるスポーツ少女的な奴だった。

「ここは、本当にどこなんだ」

 遭難した際の鉄則『動かない』を律儀に守るユーマの独り言が青い空に虚しく吸い込まれていく。

異世界に来たと思ったら別の異世界に行ってしまった、という謎のお話。

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